第11話 幼児の『聖』教育

 予想はしていたが入園した子供達は保護者からなかなか離れなかった。キャンキャン、メーメー、ニャンニャンと子供達の悲しげな声が響く。


 保護者達も涙を飲んで子供を俺に預けるのだ。


 罪悪感で死にそうになる。


 なかなか離れない我が子を泣きながら離す保護者達。精霊人達も俺も思わず涙ぐんだ。


 よく考えれば明日には一度お帰り頂くのだが、それでも子供達にとっては親と離れたいわけがない。


 俺は子供達を一人ずつ抱きしめて、泣くのが落ち着くまで傍にいた。


 保護者達を見送りながらまた明日会えるからと安心させる。


 子供達はしょんぼりと幼稚園の遊戯室に集まった。

 

 俺は出来る限り明るく子供達に声をかける。


「は〜い、いいかな?今皆がいるこの部屋は遊ぶ為のお部屋だよ!周りに沢山玩具があるよね?気に入ったもので遊んでいいよ。遊び方がわからなかったら先生に聞いてね」


 精霊人にも協力してもらって玩具を見せていく。


 室内用の滑り台、一人乗り用の車モドキ、布で作った丈夫な積み木やボール、木で作ったおままごとセット、布絵本など色々用意してみた。


 子供達はそれぞれ興味のある玩具に近付いて恐る恐る遊び始めた。一度遊び始めると夢中になってテンションが上がっていくようだ。


 蜘蛛兄弟は車モドキを乗り回し、狼兄弟は布のボールに飛びかかった。蛇と虎は滑り台を逆走したり滑ったりを繰り返す。羊の子供は遊ぶ周りを見て戸惑っていた。


「トゥン、先生と絵本を読まない?」


「メェ」


 小さく返事をしてくれたが、……ハイでいいのかなぁ。言葉を話すのは子供によって早かったり遅かったりするらしい。この辺は人間と同じだ。


 二歳の赤ちゃんに合わせて絵が大きくわかりやすい本を選んだ。


 俺が選んだのは野菜の話だ。トゥンは羊だから野菜の話しは興味を持ってくれるかもしれない。


 大根はお風呂が好きだから身体が白くなった話、人参はお日様が好きだからオレンジになった話、じゃがいもは泥んこ遊びが好きだから土色になった話だ。


 トゥンは絵本の絵をじっくり眺めて、前足で絵本をポンポン叩いた。気に入ってくれたらしい。俺はもう一度絵本を読んだ。トゥンは野菜が気に入ったのか、お腹が空いたのか絵をじっくり眺めている。


 俺は違う本も持ってきて読んでみた。トゥンはまたじっくり眺めるとやっぱり野菜の本を前足で叩いた。可愛い。野菜の本が好きなんだ。


 何か野菜の本あったかなぁ、いっそ新しい本を作ろうかと考えていると狐精霊人のシノさんが遊戯室にやってきた。


「ハルキ様、準備出来ましたコン!」


 シノさんには予めオヤツを作るための準備を頼んでいたのだ。


「は〜い。みんないいかい?一度玩具を片付けて集合!」


 みんな行儀良く玩具を片付けて集まってきた。


「これからみんなでオヤツを作るよ!」


 俺の言葉にみんな瞳が明らかに輝き出した。


「「キャン!キャン!」」

「ニャ!ニャ!」


 リリッド、クリッタ、チュダは興奮を隠しきれず、騒ぎだす。


「じゃあさっそく食堂にいくよ。みんなついてきてね!」


 足元にワラワラと子供達が走り寄ってきた。思わず撫で回してモフりたくなるが今はその時ではない。


 食堂に着くとシノさんがパンケーキの材料を交ぜるだけにして用意してくれていた。


「今日のオヤツはパンケーキだよ。みんなで頑張って混ぜて美味しいパンケーキを作ろう!」


 子供達はパンケーキが始めてなのか何かを作るのが初めてなのか、興味半分怖いの半分で混ぜていく。

 

 蜘蛛兄弟のポポル、タタル、シシルは協力体制で上手に混ぜている。狼兄弟、リリッド、クリッタは混ぜるのに苦戦している。骨格上仕方ないが考える作業が大事なのだ。


 トゥンはボールを押さえるのに全力を出しているようだ。クークは身体を攪拌棒に巻きつけて身体で混ぜようとしているのをチュダに前足で捕まえられ、チュダはクークを振り回すように攪拌している。


 それぞれ小さくても頑張っていて微笑ましい。


 その愛らしい姿を撮影しようと記録水晶を構えまくる鶏精霊人のピロさん。彼は非常に目が良いのだ。


 食育の第一歩は好調のようだ。


 攪拌された生地をシノさんがみんなの前で焼いてくれた。部屋にいい匂いが立ち込めると子供達が待ち切れないとばかりに鳴き出した。


 出来立てホカホカのパンケーキをみんなで頂いた。


 もちろん食前の挨拶をして。


 パンケーキには、聖域特産のシロップ、ジャム、生クリームが用意された。


 みんなで作ってみんなで食べるオヤツは格別だ。


 みんな食いつきが凄まじかった。 


 トゥン、クーク、リリッド、クリッタ、チュダはパンケーキにかぶりつくように食べて、蜘蛛兄弟は前足でパンケーキを千切るようにして口に運んで食べていた。みんな口の周りがシロップやジャムでベタベタだ。


「「キャンキャン!」」


「ニャ!」


 速攻でおかわりまで強請ってくるが、晩ご飯が食べられなくなるので却下だ。


 キラキラの瞳で強請ってくるが……ダメだ。心を鬼にしなくては!


 食べた後はしっかりお昼寝だ。宿泊施設に移動して大部屋でそれぞれお昼寝してもらう。蜘蛛はハンモッグ。狼は小屋を作って中に敷布を入れた。虎も同様だ。羊は寝藁を用意して、蛇は木を丸く削って穴を作った中に寝る。


 精霊人や俺が定期的に見にいくことになっている。


 沢山遊んで食べてよく寝て、これが一番だ。

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