第10話 みんな同じに見えてもみんな違う
保護者達の施設見学を済ませ、いよいよ幼稚園の入園式当日。
体育館には保護者会のメンバーだけでなく、様々な種族が勢揃いした。聖域に入れるなら誰でも見学できるようにしたせいだ。
大人の間からチラホラ小さな子供が見える。これから学校に入学する子供が見学に来てくれたなら嬉しいことだ。
会場を案内する精霊人達が忙しく動き回っている。
俺はというと、集まる視線に吐きそうになっていた。皆俺のデコラティブなオデコをガン見してくるのだ。キャーキャー言われるとかじゃないのだ。ただ、ジッと見つめられるのだ。どちらかと言うとキャーキャー言われてみたいものだ。
「え〜、ニャホン。これより『蒼星(そうせい)幼稚園』の入園式を初めますニャ」
蒼星とは生まれたばかりの青い星という意味から取った名前だ。ボキャブラリーのない俺が必死で考えた。頑張った。
「まずは『蒼星幼稚園』の園長であるハルキ様からご挨拶を賜りますニャ」
パルに言われて壇上にあがる。演卓の前に立って頑張って考えた挨拶を述べた。
「初めまして。園長の河島遥輝です。保護者の皆様の大切なお子様をお預かりするにあたりまして、身が引き締まる思いでいっぱいです」
身というか胃が引き締まりそうだ。吐くかも……。
「皆様もご存知の通り『星』はどうすれば授かることができるかは、わかってはおりません。これから入園する子供達と一緒に見つけていこうと考えておりますので、どうか暖かく見守って頂ければ幸いです」
クレームや意見は出来る限り優しく諭す感じでお願いしたいと遠回しにお願いする。
「最後に生活の中で子供達のお世話をする精霊人を紹介させて頂きます」
壇上に精霊人に上がってもらう。
「ご飯を作ってくれる狐精霊人のシノさん、掃除や洗濯をしてくれる鼠精霊人のナナさん、子供達の名札やリボンを作ってくれる狸精霊人のダンさん、玩具や遊具を作ってくれる犬精霊人のロブさん、スケジュール管理は猫精霊人のパルさん、以上が子供達と特に関わりがあると思います。よろしくお願い致します」
ジークリンデを紹介するか迷ったが本人は実験中で臭かった……のであくまで学校の先生という括りにした。
精霊人の紹介が終わった。次はメインイベントだ。
さり気なく壇上から降りて司会の場所に移動する。
「では、これより入園する子供達を紹介します。名前を呼ばれたら壇上まで上がってくださいね」
ここから主役は子供達だ。
「三歳の蜘蛛族、ポポル君、タタル君、シシルちゃん壇上へどうぞ。保護者の方は前に来て記録水晶で撮影なさってもかまいませんよ」
子供達は精霊人に誘導されて壇上へ並ぶ。会場からは称賛と拍手が飛んだ。
イイ感じだ。
「二歳の羊族、トゥン君壇上へどうぞ」
羊族が会場でワッと騒いだ。羊族では子供はトゥン君しか聖域に入れなかったらしい。トゥン君は最年少だ。
「三歳の蛇族、クークちゃん壇上へどうぞ」
蛇族の保護者が記録水晶を片手に前に進んでいく。動きが素早くて音がしない。忍者のようだ。
「三歳の狼族、リリッド君、クリッタちゃん壇上へどうぞ」
狼族の奥様が涙を流して子供達を見ている。ちなみに保護者会の時にいた奥様とは別の方だ。狼は一夫多妻制らしい。羨ましい限りだ。
「最後に四歳の虎族、チュダちゃん壇上へどうぞ」
虎族は熱血な保護者が多いのか雄叫びを上げて喜んでいる。ちょっとしたお祭り騒ぎだ。
「以上八名の子供達が入園致します。皆様どうか壇上に大きな拍手をお送り下さい」
体育館が盛大な拍手に包まれる。
壇上の子供達は心做しか誇らしげに見えるような……。
魔獣は優秀な子供なら五歳くらいで人型になれるらしい。ここでお気付きだろう。壇上の子供達はまだ人型になれない子供達だ。
子供といっても魔獣なので赤ちゃんでも中型犬サイズはある。虎や羊や狼はまぁ、俺の世界の普通の赤ちゃんに見えなくもない。が、蛇と蜘蛛は予想より大きい。
そしてみんな……見分けつかない……。
特に蜘蛛は三人とも同じ子に見える。
フフフ……だが想定済みだ。俺は長年馬鹿やってきたわけではない。ちゃんと考えてある。
「ここで記念の撮影会に入る前に名札とリボンが子供達に贈呈されますニャ」
ダンさんと結託して子供達にオシャレをさせようとして本当によかった。リボンの色を子供ごとに変えて名札をつければ、おめかしした可愛い子供達の出来上がりだ。
これは保護者達が大喜びだった。
聖域で初めての入園式は盛況なまま幕を閉じた。
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