第8話 必殺技って何が必殺?

 先生候補に上がったとしても聖域に入れないと意味がない。


 だが俺の願いが通じたのか、ロロの友達だというエルフのお医者さんはちゃんと聖域に入ることができた。


 初めて見るエルフは大層美しかった。金髪に碧眼で誰もが見惚れる美人さんだが……。


「臭いプン臭いプン!! ジークリンデ!! 歩きながら実験してたプン?! ハルキ様に会うからやめてって言ったはずプン!!」


 ロロが怒るのも無理がないくらい凄まじい悪臭を放っていた。なんというか冷蔵庫に放置したニラみたいな……。俺じゃないよ。友達の家で嗅いだんだよ。


「そんなに臭う?平気じゃない?気にしすぎよぉ」


 少しは気にしろよ!すごい臭いだ。


「は、フグっ。初め、まして。がわじま、はる、ぎで、ゴホ」


 口を開くと悪臭が口に入る!


「はじめましてぇ!ジークリンデよ。趣味は薬作りなのよ。この森は薬草の宝庫だわ。色々作れそうだし、私頑張るわ!」


「ええ?頑張るって何を?普通の薬を、作ってくださいね?てか、この世界の薬ってこんな臭いの?!」


 鼻を摘みながらロロに聞くとロロはブンブン首を横に振った。


「ジークリンデは色んな薬草を交ぜて薬効を実験する癖があるプン!臭いは最悪だけど、その変わりにすごい薬が出来ることがあるプン!」


 なにそれ?!すごいけどすごい微妙な残念感。


 見た目は美人! 近寄ると悪臭! 美人は遠くから眺めろということか……。悪臭が必殺技なのか?ある意味すごい最強だ。鼻を摘むから手が塞がれる。


 俺の中のエルフのイメージがちょっと崩れた。


 ◆◆◆



 その後は社会の先生候補であるエルフが何人か聖域に挑戦し入れなかった報告を受けた。単に魔力が強いだけでは聖域には入れないらしい。ジークリンデさん……なぜ入れたんだ?聖域に入る、入れないは何かヒントがあるかもしれない。


 魔獣の子供達も聖域に入れない子供がいたらしい。


 純粋な心じゃないと入れないとか?俺純粋じゃないな……。程遠いな……。


 『星』持ちになれる者がと聖域に入れるならそれぞれの条件は似ているはず。


「ハルキ様ちょっといいかニャ?」


 考え事をしていたら、傍にパルと鼠精霊人のチチがいた。チチは俺の周りをいつも綺麗に掃除してくれる綺麗好きだ。


「あ、ごめん。考え事してたよ。何かようだった?」


「じつは、剣と魔法の先生が来てくれたニャ。でもそれが、……ドラゴン族が来てしまったニャ……」


「ドラゴン!!?」


 キターーーー!!


 異世界来たらドラゴンだよね!強くて威厳があって憧れの存在だ!


 そんな期待膨らむ俺を見てチチは困惑したようにパルを見る。


「やっぱりハルキ様はドラゴン族のことを知らないんでチュ。帰ってもらった方がいいんじゃないでチュ?……」


「ドラゴン族は気位が高いニャ。断るにしても僕らが追い出すよりハルキ様から直接言われた方が諦める可能性が高いニャ」

 

 なんで断る方向で話が進んでるんだ?

 ドラゴン族の人は対応が難しいのかな?


 恐る恐るドラゴン族を待たせている学校の応接室に向かう。応接室は広めに作ってもらった。出来たばかりの部屋だ。


 部屋に入るとソファに踏ん反り返るように座っていた。かなり背の高い人物が立ち上がった。


「貴様が新しい聖人か?世界最強種たる我らドラゴン族の気高き王族たる私に拝謁を許そう!」


 はぁ、すげぇ上から目線だ。しかも、イケメンだ。モテそうだ。爆発して欲しい。


「いくらドラゴン族の王族といえども聖人たるハルキ様の前で無礼は許しませんニャ!」


「無礼者チュ! ハルキ様! 聖域から追っ払うんですチュ!」


 精霊人二人はぷりぷり怒っているが、ドラゴン族を名乗る彼はそれを鼻で笑った。長い銀髪の髪が揺れて絵になる。


「精霊人ごときがドラゴン族に歯向かうか?相手になってやるぞ」


 ドラゴンの挑発に精霊人二人が毛を逆立てる。


「は〜い。そこまで。ここで喧嘩は許しませ〜ん。とりあえず、話を聞くから座ってくれ」


 一触即発の空気をぶった斬ってこの場を収める。子供の喧嘩の仲裁なら散々やってきたから慣れてはいる。


 渋る精霊人二人をなだめて、俺は彼の対面するソファに座った。


「はじめまして。俺は河島遥輝だ。子供達の剣と魔法の先生になってくれるためにきてくれたんなら、まず志望理由から聞かせてもらおうかな」


 ジークリンデの時は臭すぎて話ができなかったからな。


「志望理由だと?ドラゴン族の魔法の叡智と王族に伝わる剣術が学べるというのになにか不満でもあるのか?そもそもドラゴン族はありとあらゆる種族の頂天に君臨し、(以下略)」


 とりあえず話が長かった。種族自慢が大半だ。ドラゴン族がどれだけ繁栄してきたか、どれだけすごいかを延々と語られた。


 彼が話してる間に小声でパルが推測するにはこうだった。


「ドラゴン族と言えども何百年ぶりかに現れた聖人様と顔繋ぎしておきたかったのかと思いますニャ。彼はたぶんドラゴン族の末の王子ニャ」


 ドラゴン族は魔力も高いが、自尊心はさらに高いらしい。


 聖域って変な奴しか入れないってことないよな?


 変な奴でもドラゴン族の魔法とか剣術とかはきっと子供達のためになるはずだ!この際性格は我慢してもらおう!


 俺が考えてる間にも彼の種族自慢は続いている。どんだけ自慢したいんだろう。失礼だが彼の話の途中で割り込むことにした。


「あー、わかったよ。ドラゴン族がどれだけ素晴らしいかはよくわかったから。まだ名前も聞いてないから聞かせてくれ」


「ああ、そうであったな。アーズガルストだ。特別にアズと呼ぶがよい」


「じゃあ、俺の事もハルキでいいよ、アズ。まず子供達には剣と魔法だけを教えてくれ。ドラゴン族の事は社会の先生に教えてもらうように頼むから」


「な、なぜだ! 我が直々に教えてやろうと言うのだぞ!」


「アズは剣と魔法の先生なんだからそれ以外教えてどうするんだよ。適材適所だ」


「む、そうか。では我が魔法と剣術の真髄をとくと教えてやろう!」


 やる気は十分だ。後はしっかり教える段取りを打ち合わせすればいいだろう。


「先に言っておくけど、子供達に無茶をさせるようならこの話はなかったことにするからな。子供達は小さいんだから理解できるように丁寧に頼むぞ」


「当然だ。子等は弱い存在よ。だが私が教えるからにはドラゴン族の……」


「ドラゴン族のことはいいからな! 剣術と魔法だ!」


 アズに散々ドラゴン族の歴史について語られそうになるのを阻んで、一度お帰り頂いた。


 アズの従者達は聖域に入れなかったので、身の回りの物が何もないのだ。学校が開くまで準備してくれれば問題ないし、いきなり剣術の授業をするつもりはないからまた連絡をする約束をして別れた。


 俺の中のドラゴン像はかなり崩れていった。


 ドラゴン族、アズの必殺技は種族語り。効果は人を飽きさせる。何の役に立つんだ?


 聖域って本当に変な奴しか入れないってことないよな?大丈夫だよな?


 妙な不安に襲われながら俺は出来た施設を点検していった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る