第6話 学校と保護者
俺が精霊人に話した大まかな学校はどんどん出来上がってくるのと同時に、それぞれの教室についての細かい質問が押し寄せた。
ついでに聖域をもっと広くして欲しいと皆が言うので、妄想…いや、想像力をフル回転させて学校の敷地と言わず市や町の広さを想像した。それだけで聖域は広くなるらしい。俺より聖域がすげぇ。
細かい学校の備品は改めて説明するのは難しかった。理科室に置くメスシリンダーやビーカーの説明はメモリがついたコップとか筒みたいなガラスじゃ伝わらない。
この世界にはないのか?実験くらいするだろう。
と高を括るのは間違いだった。なにせ義務教育はこの世界にはないようで、学校は沢山存在するわけではないらしいのだ。
しかも聖域に学校を作るのは初めての試みらしく皆ノリノリだ。
ノリノリの精霊人には申し訳ないが俺は大したことは教えられないような気がする。いつも学校で教えてあげるような内容しかわからないし……。
ちょっとパルに相談しよう。
「パル、ちょっと相談があるんだけどいい?」
「ハイですニャ。ニャにかご用ですかニャ?」
パルがすぐ俺の傍に駆けつける。風を利用してるのかとても素早い。
「こういう文字はこの世界でも使うかい?」
俺は地面に平仮名を書いた。
「使いますニャ」
「こういう文字は?」
カタカタを書いてみせる。
「人間の住む街でちょっと見た事がありますニャ」
「じゃあこういう文字は?」
簡単な漢字を書く。山、川、海。
「見たことないですニャ……。もしかしたら聖人様だけに伝わる文字かニャ?!」
いや、割と日本人は皆知ってる文字だ。
「そういうわけでもないかなぁ。文字は子供達に教えられるとして、社会については俺じゃ教えられないよ。この世界の事は俺が教えて欲しいくらいだし……」
「ハルキ様一人だと大変ニャら……他にも先生が必要って事かニャ?」
「もちろんだよ!俺一人じゃ足りないことだらけだよ!」
「ハルキ様でも十分かと思いますけど、……とりあえずどんな先生が必要かニャ?探してみますニャ」
とりあえずパルに社会やこの世界の歴史に詳しい先生、剣と魔法を教えられる先生、子供達がケガや病気をした時に診てくれる保健の先生を頼んだ。ケガなら精霊人でも癒すことが出来るが、病気にも詳しいかというとそうではないらしい。子供はどこの世界でも弱い存在なのだ。
社会の先生や剣と魔法の授業なら俺も交じりたいというのは秘密だ。
◆◆◆
「学校の先生は募集を出してるから良いとして……」
学校とは生徒の存在がとても大切な存在だが、それより厄介な存在がいる。
PTA……保護者会……つまり親御さんである。
「保護者って……動物達だよね?」
「ただの動物じゃないですニャ!聖域に入れる『星』候補だから魔力の強い魔獣ですニャ」
「あれ魔獣だったんだ」
確かに普通の動物よりケタ違いに大きかった。
「生徒さんが来る前にPTAも決めたいなぁ」
「ぴーてぃーえーってニャんですかニャ?」
「保護者達の意見をまとめる……保護者達の代表者かな。学校に意見があったり改善して欲しいことを教えてくれるんだ」
「ニャるほどですニャ〜。確かに候補の方々全員から色々言われるのを代表者がまとめて言ってくれるってことかニャ?」
「そうだね……まぁ直接教えてくれてもいいんだけどね……」
ええ、これが大変で厄介ですとも!授業の事だけでなく、給食、遊具に至るまで何でも口出ししてきますとも!対応に追われて帰れない日が続いた時は、もう半泣きでしたよ!う、思い出したら胃が痛くなってきた…。
「と、とりあえず、保護者の皆さんには一回集まってもらって保護者会の立ち上げと代表者を決めてもらおう」
「かしこまりましたニャ!」
パルが優秀なのか保護者達がやる気満々なのか不明だったが、三日後には出来たばかりの教室に所狭しと保護者達が集まった。
いきなり何かダメ出しされたらどうしようと小心者な俺はハラハラドキドキだった。
初めての保護者会の司会進行はパルにお願いした。
普段生徒が座る席に保護者が座り、前に俺が座る。横にはパルがたっている状態だ。
「え〜ニャホン!これから第一回保護者会を開催しますニャ。皆さんご存知かと思いますが、こちらが聖人のハルキ様ですニャ。司会は猫精霊人の僕、パルが務めますニャ。」
パルは風を使って声を響かせて話をした。マイク要らずですごい。
保護者の席をよく見ると、どうみてもお爺さんお婆さんが交じっている気がするが…、まぁ気にしないようにしよう。
学校は順調に完成に近付いているという報告と学校の施設の説明だ。
「ここまでで何か質問はありますかニャ?」
切りの良い所でパルが保護者達に確認すると、オズオズと綺麗な女性が挙手した。
「狼族の奥様どうぞニャ」
人間にしか見えないんだけど?!魔獣ってすごいな!
「あ、あの、ウチの子はとても人見知りですぐに家に籠もってしまうのですが、住む場所はどんな所になるんでしょう?」
心配そうに言う女性に俺が固まった……。ええ……?住む場所デスと??
「え、あの、俺の認識であれば学校は子供達が家から通ってくる場所なんですが……何か違いましたか?」
俺の発言に今度は保護者達が固まった。
手を挙げてはいなかったが、ジルデさんが驚きながら言った。
「ハルキ様に子供達をお預けしたらハルキ様が修行をつけて下さるかと思っておりましたですじゃ」
いきなり認識の違いが!!修行ってなんだ??
ジルデさんの言葉に保護者達が頷いた。
「ウチの一族は聖域から遠いのですが、……」
「途中で冒険者風情に襲われでもしたら……」
一気に教室が困惑の嵐になった。
「で、では、子供達は合宿形式にしましょう!」
「合宿形式?」
俺は慌てて補足した。子供達が親元をずっと離れ過ぎるのは良くないこと。小さい子供ならなおさらだ。それなら例えば四日学校に合宿して、三日家に帰るを繰り返すのだ。期間はその子供に合わせて変えるのもいい。子供達に合わせて教育していけばいいのだ。寝泊まりする所はこれから別に建てるしかないが。
冒険者については今始めて聞いた情報だ。
先行きが不安過ぎて笑いたくなる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます