第3話 『星』の意味

 俺の住んでいた日本では、猫は二足歩行で歩かないし、喋らない。もちろん海外でもそんな話は聞かない。


 まるでアニメや小説の世界だ。


 というかそれだ!異世界転移とか!転生とか!


 いや、でももしかしたら仕事中に爆睡かまして夢落ちとかありえるかも……。


「聖人様、ご気分はいかがですかニャ?」


 声をかけられて恐る恐る瞼を開けばやはり二足歩行の猫が覗き込んできた。


 どうやら俺は水から助け出されて岸に寝かされているようだ。


 夢じゃなかった……。


 もうこれは腹を括るしかない。まずは現在地を聞こうと身体を起こしてからまた、寝込みそうになった。


 あのデカイ動物達に取り囲まれているのだ。


 硬直する俺を見て何かを察したのか、猫が周りの動物達に声をかけた。


「候補の方々、聖人様を上から見下ろすのは失礼ですニャ。聖人様に敬意を払って人型にニャるのがよろしいですニャ」


「そうかそうか失礼した」


 野太い声の後、ポンっという音と共にデカイ動物達は人間になった。


 最初からこっちがよかった……。


 デカイ動物達は皆年配のおっさ…いや、おじ様に変わった。中には結構高齢のお爺さんまでいる。


 お爺さんが進み出てニコリと笑った。


「聖人様、私は狼族の長ジルデと申しますじゃ。ようこそおいで下さいました」


「はぁ、あの、伺ってもよろしいですか?」


「なんなりと」


「さっきから聖人様ってもしかして俺のことを言ってるんですか?」


「もちろんですじゃ。その額の御印。『星』を四つもお持ちなのは、まさしく聖人様の証ですじゃ」


「ひたい?」


 俺のオデコは特にホクロもないし、デキモノでもできたのかと岸から水面を覗いてみて、絶叫した。


「なぁ、ぬぁんじゃぁあこりゃああ!!」


 デキモノなんて可愛いものじゃない、額に四つの丸い花びらのような形をしたものが菱形に並んでしかもうっすら光っている。しかもがっちり額から生えるようにできているので取ろうとしても取れない!


「聖人様、どうしましたニャ?!」


 猫が俺の絶叫に驚いているようだか、俺はそれどころじゃない。


「俺のオデコに!なんかくっついて取れない!なにこれ!俺のオデコどうなってんの?!」


「聖人様ですから『星』がついてて当然ですニャ!ああ、こすったらダメですニャ!」


 ひとしきり混乱した後、猫はゆっくり説明してくれた。



 この世界には『星』が存在する。

 『星』は何の条件で現れるのかはっきりわかっていないが、額に印が現れる。


 『星』は最大四つ現れると言われていて、『星』が四つになると『聖』を冠する者とされる。『聖』を冠する者はこの世界を導く存在とされ、『聖』を冠する者が人型の生き物に現れたら『聖人』。獣に現れたら『聖獣』となる。


 『星』を持つ者は『星持ち』とされ、『聖』を冠する者の候補となる。


 だがここ数百年『聖』を冠する者は現れず、『星持ち』でさえなかなか生まれなかった。


 追い討ちをかけるように数年前にこの世界の唯一の『星持ち』が寿命でこの世を去った。


 途方に暮れていたらこの泉の場所で神託があった。この場所に神々は『聖人』を遣わして下さるということ、そしてその『聖人』は次代の『聖』を冠する者達を教育して、世界を導いてくれる。


 という、内容の神託だったらしい。


 もしかしなくても俺に丸投げなのか?!



 

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