第6話 「決して」?
ええと,次の世界では……もういいかげん面白い罪のネタがないっすよ.上司からすごくいいネタの寿司を奢ってもらって「こんなの食べるの犯罪です」とかどう?
(1) お前の死刑は,今週の一曜か二曜のいずれかの日の正午に必ず執行される
(2) お前が,死刑の日がどちらの曜日になるかは,その日の正午に告げられるまで決して知ることはない
(3) (1)および(2)に書いてあることが嘘だったら,お前は釈放される
前世のヤツとよく似ているが,番号が振ってあり,(3)の条項の書き方が変わっている.「ここに書いてあること」→「(1)および(2)」だ.何が違うんだ? と思ってたら,ああ,「ここに書いてあること」だと(3)自身を含んでややこしいことになるからか.「私は嘘つきだ」的な別のパラドックスを扱うのが面倒だから避けやがったな作者.
この世界には弁護士がいた.彼は小躍りして言った
「やりましたよ! またとないチャンスです」
「え? なんで?」
(1) お前の死刑は,今週の一曜か二曜のいずれかの日の正午に必ず執行される
(2) お前が,死刑の日がどちらの曜日になるかは,その日の正午に告げられるまで決して知ることはない
「つまり,この(1)と(2)が嘘であることを証明するだけです.簡単ですよ!」
「ほう」
「ご存知の通り,死刑の日が一曜ではなかった場合,二曜であることは一曜の時点で確定します! つまり『決して知ることはな』くないのです」
「あ,ほんとだ」
よし,これで死刑を免れるぞ.
一曜の昼.
「お前は今日死刑だ」
「はいキター.嘘つきさん」
「なぜだ?」
(さっきの弁護士の言葉をリピート)
「愚か者.死刑の日は今日,一曜なのだ.二曜であること確定しない.現に違うではないか」
「い,いや,一曜でなかった場合は確定できますよ」
「何を言っている.死刑は一曜だ,何度も同じこと言わせるな」
「ははーん……つまり,死刑が一曜でなければ,あんたの言っていることは破綻するってことですね.ってことはあんたの提示した条件は『死刑は一曜である』ことと等価ですよ.結局あんたの言った『知ることはない』は嘘でしたね」
「そんなことはない.もし私が破綻したこと言っていたのなら,(3)項によりお前は釈放されるまでだ.だから死刑が一曜だろうが二曜だろうが,私が言っていることは破綻しないのだ」
「いや,その『私が言っていること』は(1)(2)(3)全部でしょ? 少なくとも(1)(2)は破綻しましたよ.(3)で『(1)(2)が破綻したら釈放される』と決めているんだから,釈放でしょ」
「死刑は一曜だ.これが事実だ.私の言ったことは(1)(2)の範囲でも破綻していない」
「違いますよ! 『死刑は一曜』ならば破綻しないだけであって,『死刑は二曜』なら破綻します.だから決して知ることはない,は嘘です!」
「それは,お前が決しての範囲を,事実と異なる範囲にまで勝手に拡張したからに過ぎない」
というわけで死刑なんだけど,俺はしばらく亜空間を彷徨うことにした.だってこれ思いのほか,脳のカロリー消費がえぐいので.途中で触れた倫理どうこうの話を解決したバージョンとかも用意はしたんだが……ステータスは「連載中」にしておくので,また受信したら次の異世界で……
死刑囚のパラドックス @hoge1e3
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