第5話 嘘はいけないと思います

 転生した後の世界は,嘘が許されない世界だった.嘘ついたら死刑である.で,俺は「きのこよりたけのこがうまい」と言ったら「嘘だ」と言われて死刑.ってそれお前の主観だろ.


 今度の看守は嘘をつかないと断言した.

* お前の死刑は,今週の一曜か二曜のいずれかの日の正午に必ず執行される

* お前が,死刑の日がどちらの曜日になるかは,その日の正午に告げられるまで決して知ることはない

* ここに書いてあることが嘘だったら,お前は釈放される←NEW!


 やった! これで釈放チャーンス.


 俺は早速一曜日の朝にカマをかけた

「今日,俺死刑ですよね.で,俺そのこと証明できますよ.だから,あなた嘘つきましたね.釈放ですよ」

 看守はまた何も言わないで,昼がやってきた.

「おい,お前今日死刑だ」

「ほーら,言った通りでしょ.俺の言っていることが正しいので釈放してください」

「何言っている,私が嘘をついたとでも?」

「だって,俺が今日死刑になることは,証明されてるんですよ」

「言ってみろ」

「前のエピソード見てください」

「別の世界なので見れない」

 そこは厳密なのか.ええわ,何度でもしたるわ.

「まず,死刑の日は『一曜』か『二曜』のどちらか.そして今日の昼が過ぎてしまえば『二曜』が確定してしまう.つまり『二曜』はありえない.よって『一曜』しかありえない.Q.E.D.」

「違うぞ」

「は?」

「『死刑の日は一曜』,『死刑の日は二曜』,『お前は死刑にならない』の3つの可能性がある」

「何言ってるんですか! 『お前の死刑は,今週の一曜か二曜のいずれかの日の正午に必ず執行される』って言ったじゃないですか.嘘ついたんですか?」

「私が嘘をついていた場合は,『お前は死刑にならない』が適用される.もっとも死刑は今日なので嘘はついていないが.ちゃんと明文化されているじゃないか.つまり『二曜』がありえなくたって,『一曜』『死刑にならない』の2つが残る.だから『一曜』とは断定できない.そもそも,今日の昼を過ぎたところでも『二曜』『死刑にならない』の2つが残るから,『二曜』であることは確定しないので,『二曜』がありえない,というのも誤りじゃないか」


 なんということだ.ちゃんと釈放の条件がついたらよりガードが固くなってるじゃんか.し,しかし俺は(この世界では)最後の悪あがきをした.


「ここは嘘がダメな世界なんですよ! それなのに『私が嘘をついていた場合は』なんてことを想定すること自体が死罪なんじゃないですか!?」


「それは倫理の問題であって,この作品が扱う論理の話ではない」



 で,死刑.

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