最終話 そして世界は交差する
「カルマ、お前何を読んでいるんだ?」
「トーヤがらいとのべる?って言っていたやつ。」
僕は珍しく一冊の文庫本を読んでいた。拍子には可愛らしい女の子が大きく描かれていて、腕を組んで自信満々な表情だ。その背景に小さく主人公が配置されていて、主人公は困ったような表情で頭を掻いている。
「あー・・・・・・俺はまだ読む気になれねぇな」
「どうして?」
「タイトルを読んだだけで胃もたれするからだよ」
俊也が言っているのは、タイトルが長すぎてそれだけで読む気が無くなってしまうということだ。現に僕が読んでいるタイトルは「異世界スローライフ! ~女神がサービスしてくれると言ったので、せっかくだから満喫したい件~」と書かれている。今まで僕が見てきた中では間違いなく最長のタイトルだと思う。これなら確かに難しそうな印象は受けないけど、それがそのまま欠点になっている気もする。
「少し探しただけでも余裕で30文字ぐらいのタイトルばっかりだぞ?見ただけで内容がわかっちまって読む気が失せるんだよ。ていうか、なんでラノベなんか急に読んでいるんだ?」
「・・・・・・少しは異世界転移者の気持ちがわかるかなって」
「異世界転移者の気持ち?」
俊也は眉をひそめていた。
「ほら、こういうのを読んでいればどういう願望があるのかっていうのを探る手がかりになるかなって思って」
「お前にしては頭を使っているな」
「ありがとう」
「いや、褒めてねぇよ」
俊也から鋭い突っ込みが入ってしまった。でも、実際にどういうことを考えているのか知りたいのも事実だ。
トーヤが言っていたのは、異世界転移者の気持ちを代弁して、ぐげんか?したのがこのライトノベルっていうやつらしい。もしもその通りなら、これを読んで何を考えているのか、何を望んでいるのかがわかりかもしれない。そんな気がした。
それにしても、なんでコロポンを回していないのにカセットテープを持っていたんだろう。そこだけいまだにわからない。
「けど、そんな物を読んでいてどうするんだ?」
「なにが?」
「中間だよ、中間テスト。ちゃんとその準備はしているだろうな?」
ゴールデンウィークが終わると同時に新たな事実が発覚する。
ほぼ同時刻、トーヤはデスクに座してうなだれていた。
「はぁ・・・・・・・・・」
「どうなさいました?トーヤ様」
トーヤの様子をうかがうのは、メイド服を身につけた少女ゲイボルグだ。彼女は元々「転生者」によって作られた使い魔で、「戦乙女」と言われている。そんな彼女らの用途は「後方支援」、そして「慰安」のためだ。主である「転生者」の性欲を発散させる道具として生み出された彼女らは、性的欲求が強くなるように作られている。故に彼女のメイド服はその主を欲情させるような格好、具体的には胸の谷間ががっつり見え少し動いただけでパンツが見えるような服装をして居るのだ。
しかし、対照的に性欲があまりない上に「女神の加護」と呼ばれる「ゲーム的要素」を受け付けないトーヤには殆ど通じなかった。
「結局
「トーヤ様、いくら何でも物騒でございます。それに、あの方々はあなた様と同じか、年上かと」
「俺からすればガキ共だ。あの“ヌース”なんていう妙な力を持っているとは言え、動き自体はド素人そのものだ。あんなガキに負けたマテラスさんが不憫で仕方が無い」
「流石にそれは言い過ぎです」
「・・・・・・・・・すまなかった」
流石に口が過ぎたことを自覚したのか、トーヤはややしょぼくれた様子だった。
「しかし、お話を聞く限り彼らに警告していたとのことですが」
「ああ。もしかしたらアイツらがこっちの世界に来る事もあるかもしれないからな。そうなった場合、今度はアイツらも俺たちの敵になる。だから出来る限り釘は刺しておかないとな」
トーヤはパソコンを立ち上げた。元々彼らの世界には存在しない技術のハズなのだが、「転生者」の対策を練るために積極的に異世界の技術を取り入れたり解析したりしていたところ、本来の文明レベルとは別次元の技術を保有することになったのだ。その一つがこのパソコンだ。異世界のものを模倣したものではあるが、根本的な物理法則が違うだけで機能的には同一の物となっている。
「既に解っていることではあるが、“転生者”共も“
「とすると、彼らもまた“
「そうかもしれないな」
トーヤはゲイボルグと会話しながらカタカタとキーボードを打込んでいた。
「願わくは、“異世界の英雄”サマと同じ末路を辿らないことを祈る」
そして世界は
ヴィジターキラー異空譚「異世界転生者を許すな」 戯言ユウ @Kopegi
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