小学生に「なぞかけ」を作らせたら想像以上に酷かった件

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なぞかけ

 


「なぞかけ」という言葉遊びがある。一見何の繋がりもない2つの単語や文章を並べ、その共通点を同音異義語などを使って結びつけるというものだ。


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(    )とかけまして

(    )ととく

 その心は、どちらも

(    )でしょう


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 この形式を見れば「ああ、あれね」と大抵の人が理解するだろう。


 例を挙げるなら、宇宙とかけて、満腹ととく。その心は、どちらもくうき(空気/食う気)がないでしょう。こんな感じだろうか。


 そんな「なぞかけ」が国語の授業に登場したのがちょうど先週の金曜日。なので僕は、児童に『なぞかけを考える』という宿題を出した。


 そして本日、月曜日の放課後。今僕の目の前には、『なぞかけを1つ考えて、ここに記入しましょう』と 題されたプリントが30枚ほど積み上げられている。


 そう、これは僕のクラスの児童が提出した宿題である。今日はこれから、この宿題の採点を行うところだ。


「さーて、みんなちゃんと出来てるかなぁ......」


 なぞかけを作るためには、単語の意味や使い方をたくさん知っている必要がある。語彙力ごいりょくが必須なのだ。僕のクラスは小学5年生で、一応高学年ではあるが、それでも難しい課題だと思う。


 みんな全く出来ていなかったらどうしよう。そんな一抹の不安を抱えながらも、僕は積まれたプリント、一番上のものへと視線を向けた。



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【すごく反省している人】とかけまして


【全く反省していない人】ととく



 その心は、どちらも

 繰り返しあやまる(謝る/誤る)でしょう


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「なるほど......!」


 想像以上の出来栄えに、僕は思わず感心してしまった。反省している人は謝り、反省してない人はあやまちを繰り返す、つまり誤る。


 まさかこんなにもレベルの高い回答が見られるなんて思っていなかった。どうやら自分の生徒を侮り過ぎていたらしい。反省しなければ。


「よし! どんどん見ていくか」


 これは他の回答も期待できそうだ。僕は見終わったプリントを横に置き、2枚目へと目を向けた。



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【格好良い人のセリフ】とかけまして


【平成にしがみつく愚民の戯言ざれごと】ととく



 その心は、どちらも

 れいわいらない(礼はいらない/令和要らない)と言うでしょう


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「おおー。上手い、けど......」


 上手いんだけど「平成にしがみつく愚民の戯言」の部分はもっと適切な言葉選びがあった気がする。「平成が大好きな人」とかでも意味は通るし。どの立場から言ってるんだ。


 まぁ言葉遊びは上手いし、良く出来ているとは思うけど。次見よう。僕は3枚目のプリントへと意識を向けた。


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【顔だけ擬態したカメレオン】とかけまして


【狂った人】ととく



 その心は、どちらも

 頭がどうかしている(同化している/どうかしている)でしょう


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「なんか口悪くない?」


 回答のレベルは高いのだが「狂った人」とか「頭がどうかしている」とか、あんまり言わない方が良いと思う。次。


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沸騰ふっとう】とかけまして!


【リンチ】ととく!


 その心は、どちらも(ボコボコ)でしょう!


 理由は、沸騰はお湯がボコボコッてなるし、リンチは人がボコボコになるからです。


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「治安が悪いなぁ......」


 謎の補足が書いてあるけど、書いてて「これを書いて良いのだろうか?」みたいな迷いはなかったのだろうか。宿題にリンチとかボコボコとか、しかも元気いっぱいに書かないで欲しい。次見よう......。


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【消しゴム】とかけまして


【町を養魚場にされる】ととく



 その心は、どちらも

 まちがいけす(間違い消す/町が)でしょう


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「これは......どうなんだ?」


 一見うまいこと出来てる気がするけど、町が生け簀って言葉は無くない? 聞いたことない言葉を使って強引になぞかけを成立させるのはアリなのだろうか。次見よう、次。



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【お金】とかけまして


騎士困惑きしこんわく】ととく



 その心は、どちらも

 ないとこまる(無いと困る/騎士ナイト困る)でしょう


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「騎士困惑......?」


 これも無い言葉だなぁ。次見よう。



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【お金で解決】とかけまして


【頭突き】ととく



 その心は、どちらも

 じだんする(示談する/ジダンする)でしょう


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「ジダン知ってるんだ」


 サッカー選手のジダンが相手選手に頭突きをして大問題になったニュースは確か2006年の話だ。小学生なのによく知ってるな。次!




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【ちゃんと歯磨きする】とかけまして


【僕に来る年賀状】ととく



 その心は、どちらも

 はがきれい(歯がきれい/ハガキれい)でしょう


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「かわいそう」


 誰か年賀状を送ってあげて欲しい。次......。



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【ポールペン】とかけまして


【先生のつみ】ととく



 その心は、どちらも決して、消えないよ。



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「なんだなんだ?」


「あなたの過去を知っています」みたいなのが来たけど、心当たりがなさすぎる。

 怖い。次、次!



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【魔法陣に生き血】をかけまして


【封印】をとく


 人の心は、もう残っていないでしょう。


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「なんか召喚しただろ」


 絶対良くない何かと契約を交わしてるじゃん。

 人の心は無くていいから、その心を書いて欲しい。次!



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 命をかけまして


 世界を守る────


 その心は、気高く─────


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「なんだこれ」


 これは間違いなくなぞかけじゃない。僕はあまりの意味不明さに集中力が切れてしまった。ふと時計を見ると、採点を始めてからすでに30分以上が経過している。困ったことに、どうも進捗しんちょくかんばしくない。


 集中力を取り戻そうと、座ったまま大きく伸びをした。まだ半分も確認出来ていないが、もう十二分に疲れてしまった。


 他にもやる事が沢山あるのに......。それを考えると胃が痛い。


 僕は何も考えず天を仰いだ。一旦なぞかけは忘れよう。頭を空っぽにして、リラックスして採点に挑まねば......。採点......胃が痛い......。採点......。


「......」


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 採点とかけまして、幽霊に呪われた、ととく


 その心は、どちらも


 つかれたのではらいたい(疲れたので腹痛い/憑かれたのではらいたい)でしょう


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「......何考えてるんだ」


 いかん。頭を空っぽにするどころか、ついに脳がなぞかけに支配され始めた。今日はここまでにしたほうが良い。僕は封印するかのように、児童のなぞかけプリントを引き出しにしまった。



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