エピローグ
連合政府、そして
連合政府は“
当面は帝国軍と王国軍が混在する。
川の
そうやって自国民に連合軍を受け入れやすくしていく。
帝国
大橋が使えるようになるだけで、より短時間で両国を行き来できるようになるだろう。
初春の
レブニス三世陛下は大喜びで出迎えてくれた。
なにしろ
話し相手には事欠かなかった。
とくに私とは何事も分け隔てなく語り合えるほど打ち解けている。
今も皇帝陛下とふたりで皇城のバルコニーの椅子に向かい合って座り、語らっている。
「
「まったくです」
春の訪れを告げる暖かな光に包まれて、ふたりは心を
帝国の春を代表するルシオの黄色い花々が手すりに巻きついて
「これも貴公の案による連合政府のおかげだ。感謝する」
人前では決して頭を下げないレブニス三世陛下だが、人目がないときはよく頭を下げてくる。
私に政略を
その姿勢が
「ミゲル
レブニス三世陛下は祖父から帝王学を学んだ。
しかし私の
「私は幼い頃、
語りながらカートリンク
私とガリウスの保護者としての顔、軍最高幹部の軍務長官としての顔。
いずれもが想い出を
「ですので次第に人の命を最優先に考えるようになりました。いわば下々の民の目線で『このような政治が行なわれれば暮らしやすくなるのに』ということを第一に考えております」
陛下は興味深く聞いていたが、ふと思い至る部分を
「
「国を治めるには上から人々を従える
さりげなく皇帝陛下の自尊心をくすぐる言い回しをした。
「それとは別に下々の民の意見を統治者に届ける役を設ける必要があると存じます。統治者は民衆の支持によって地位を与えられているにすぎません。それを忘れた統治者が
戦史の研究は必然的に歴史の研究に
私もレブニス三世陛下も高みにあってさえ
「ふむ、なかなか
陛下とは同年代とあって双方が
互いの熱心さが刺激しあい、ふたりでより深く学ぶようになっていた。
「今日は貴公に相談したいことがあるのだ。実はランドル陛下より、王孫の姫を
「あまり気乗りされないと?」
「姫が政略の道具に使われているのではないか、と感じてな」
レブニス三世陛下は人の上に立つべき立場の際にはつねに冷徹でいられるのだが、私事となればつい他人の意見を尊重してしまう
英雄としては申し分のない性格なのだが、皇帝ともなれば国民のために私情を
「それでは、非公式に王孫の姫ソフィア殿下とお会いになってはいかがでしょうか。陛下とソフィア殿下がよき関係を結べるか
「直接会うのか?」
「さようでございます。そのうえで両者が同意なさればソフィア殿下を
「しかし、一目会っただけではわかるまいて」
「ですから非公式に複数回お会いになって、ランドル陛下へのご返答となさればよろしいでしょう」
陛下は納得したような表情を浮かべたが、すぐに疑問が湧いてきたようだ。
「だが非公式とはいえ、いきなり押しかけても姫が心を開いてくれるとは思えんが……」
「それでしたら、ソフィア殿下には私の古い友人という形でご紹介
これはレブニス三世陛下の心を
実際にソフィア様と対面させれば、彼女はまず間違いなく相手が皇帝陛下であると見抜くだろう。
今まで口に出したこともない「古い友人」を対面させる話の流れ自体に無理があるのだ。
陛下は
「貴公には私事まで世話を任せてしまっているな」
「いえ、両国の関係を保つのが私の職責ですから」
含み笑いを込めながら
「ソフィア殿下はすばらしいお方ですよ。料理や洗濯などもご自身でなされますし、誰に対してもお優しい。器量もよいですし、レブニス陛下であればすぐに気に入られると存じます」
「予が気に入ったとしても、先方が気に入ってくれるとは限らぬのだがな」
いささか陛下は
「以前お話をした際、ソフィア殿下は
「それでは
そんな
この
それを機に両国間での結婚も盛んになり血の交わりが進めば、レブニス陛下のおっしゃるとおり帝国と王国が真に統一される日も近づこう。
自分の職にはいっさいこだわっていない。
だからこそ、
それは意外と間近に迫っているのかもしれない。
明るく受け答えするさまを見た陛下は、意地の悪い質問をしてきた。
「時に、貴公は結婚せぬのか。貴公ほどの男であれば求婚も多かろうに」
それを笑いながら
「私は軍事と政治以外なんら
「それでは連合政府
「連合政府の
レブニス陛下も自分では家族を養っていくだけの度量はないと感じておられる。
だが皇帝という立場上、
いつかは
逆に私は災いの種が生まれないために子孫を残せないのだ。
結婚というごく一般的なことが自らの意思とは関係なく決められてしまう。
向きこそ異なるが、皇帝陛下と連合政府
だが私が連合政府の
今も両国を
大橋が完成するまで、この苦労は続くだろう。
「ところでミゲル
皇帝は
「副官ですか。たしかに信頼のおける副官は幾人でも欲しいものです。ナラージャが護衛でついておりますが、副官としてはガリウス上将軍くらいです。彼も王国内の調整で手いっぱいのようです。帝国内での調整役がいれば、私も
現状は連合政府
連合政府の制度
両国を同格まで引き上げるための政略に時間を割けない。
「そこで今日は貴公に、副官を一名推薦したいのだがな」
「帝国の組織を私なりに把握はしております。しかし全幅の信頼を寄せるに足る人材には巡り会えておりません。陛下のご
「能力については申し分なかろう。ただ副官とするにはいくつか困難な条件を飲んでもらわなければならないが」
「一つは
「
「実は貴公の養い手であったカートリンク元長官を
その言葉に内心で激しく動揺した。
カートリンク
「さらにいえば皇女、つまり私の妹なのだ」
やはり彼女か。
「カートリンク
皇女を副官に
問題は彼女を養父の
あの大敗において胸に期した
それほど柔軟な思考を持ち合わせていなかったのだ。
「今すぐにとは言わないが、候補のひとりに挙げておこうと思ってな。男
陛下はまたしても逃げ道を
残された一本の選択肢を突きつけてくるのだ。
こうなっては皇女を副官に就任させる以外判断の取りようがない。
皇女を副官に
そうなれば恋愛や結婚といった一般の女性としての
「別の提案もある。周辺の異民族を連合政府に
「それは私も考えておりました。異民族だからといって人間でないわけではありません。ただ現時点では帝国と王国の政策一致だけでも手いっぱいです。双方が打ち解けて
レブニス三世陛下の考えは理に
だがそれは時期が早いと感じていた。
西方諸国と対等にわたりあうためにも、異民族を含めた大きな連合政府の
周辺異民族がすべて連合政府入りを果たせば、レイティス・ボッサム両国は軍事費を削減し最低限の軍隊を有するだけで済む。外敵が攻め寄せてくれば異民族に
私と陛下は、
その実現に向けて課題は
早期の実現のためにも皇女を副官として連合政府に
政治的な目的のためには一個人の感情など押し通す必要はない。
そもそも彼女は講和成立後に退役してもいた。
能力がいかほどのものか不明ではある。
とりあえず副官に登用して能力を見極めるほかなかろう。
だからこそ親友のように接しながら、互いを師と
以後連合政府は封建制が基本となり、ボッサム帝国の直轄領は数を減らしていった。
連合政府が大陸東南部の覇者となる。
周辺国に異民族を封じていけば
連合政府の発足以後、プレシア大陸東南部の平和は長きにわたって保たれることとなる。
それを成しえたひとりの男の名は、いつしか神話としてのちのちの世まで語り継がれていった。
了
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