第49話 和平・王国の説得

「陛下のご意向をうかがわず講和を結んでまいりました。とがを受ける覚悟はできております」

 帰国し、粛然シュクゼンとした態度で老王ランドル陛下の眼前にひざまずいている。


「私は長官閣下カッカを補佐する立場にありながら、そのお考えを見抜けずまた止めることもできませんでした。私も等しくとがを受ける立場にあります」

 カイも並んでその場にのぞんでいた。


 国王陛下は頭を悩ませているようだ。


 各長官からも、戦争を継続して帝国に降伏もしくはほろぼせとの声があがっている。

 だからといってこれ以上国民を危険にさらすのだけはけたい。


 また軍務を司る長官と“軍師”がともに解任でもされようものなら、帝国のクレイド軍務大臣が好機と見て打って出ないともかぎらない。

 それではせっかく帝都でヤクした講和がすぐに崩れてしまうだろう。


 帝国では生きて講和をせるかだったが、王国では地位をして講和を説得しなければならない。


 厳しい表情をした国王による詰問キツモンが始まった。


「戦闘ではこちらが優勢に進めていたと聞く。ミゲル軍務長官はなぜ帝国に降伏でなく講和を求めに行ったのか。理由を聞かせてほしい」


 帰国の道すがら、このようなときを想定して繰り返し口上コウジョウを考えてきた。

 ナラージャとも話し合って言い分を過不足カフソクなく伝えられるよう練習してある。


 ひざまずいたまま答えていく。

「その前にここにおわす皆様方におたずいたしたいことがございます。王国軍は何のために存在するのでしょうか。帝国をほろぼしてその国民を皆殺しにするためでしょうか。それとも侵略してくる外敵からわが国民を守るためでしょうか」


 その言葉にランドル国王陛下は口を開いた。

「もちろん、外敵から国民を守るためであろう」

「異論をお持ちの方はいらっしゃいますか?」


 老いた建設長官が手を挙げた。

「私は帝国を根絶ねだやしにするべきだと考えます、陛下。そもそも帝国はわがレイティス王国に歯向かって作られたもの。独立した国家ではなく、これは王国の内戦にすぎません。他国や異民族にあなどられないよう、反乱分子は根絶ねだやしにするべきなのです」


「建設長官閣下カッカ、その意見はどうかと思いますが」

「内務長官閣下カッカ、なにを申すか」

「あなたの考えでは、帝国は不倶フグ戴天タイテンの敵となってしまいます。並び立つことすら許さないのでは、王国と帝国のどちらかが死に絶えるまで戦い続けろということではありませんか」

「どちらかがではない。帝国が死に絶えるまで許してはならないのです!」

 国王陛下が手をかざして自由な発言を制した。


 ここは国王陛下が私とカイ軍師をただす場である。

 いくら私に至らない点があっても、どちらかが死に絶えるまで、などと発言されたら国王陛下の尋問ジンモンの手がゆるんでしまいかねない。


「ミゲル軍務長官よ、そなたの真意を聞かせてくれないか」


「私はこれまで、国民が帝国から命を狙われない方法を考えておりました」


「その結果が講和だと申すのか」

 確信に満ちた思いを込めて陛下を見据える。


「その根拠コンキョを示してもらえないか」

「承知いたしました」


 立ち上がって国王陛下と宰相サイショウ殿下、それに各長官をひととおり見まわした。


「帝国を降伏させたりこちらに有利な条件で講和がされたりしても、帝国側に不穏分子が生まれます。彼らは人々を煽動センドウして帝国を復興しようと策動サクドウするでしょう。その騒ぎに巻き込まれれば、平和を望む領民も安らかではいられません」

「それならば不穏分子が出ないように、いっそ帝国を根絶ねだやしにしては」

 国王陛下の隣に控える宰相サイショウ殿下が口をはさんだ。


「仮に帝国人を皆殺しにしたとして、その凄惨セイサンさからわが軍の内部より過激な思想を持つ者が生じかねません。彼らをおさえるのは、帝国の不穏分子を粛清シュクセイするよりも難しいことです」


 目線を宰相サイショウ殿下から国王陛下に戻して話を進める。


「しかし帝国の存在を認めたうえで、対等な立場での講和がれば帝国人がレイティス王国に不満を抱く理由がなくなります。つまり後日の災いを招かずに済むのです」


 方々から絵空事えそらごととの声があがる。それは否定しない。


「両国民は元をたどれば同じく王国の民です。これが争うことは親戚シンセキが殺しあうこととなんら変わりありません。ここは親戚シンセキ同士、過去の因縁インネンを捨てて手を取り合うことが両国の平和と発展につながるのではありませんか」


 歴史をひもとけば、帝国は王国の政策によって移り住んだ民が作った国家である。

 その帝国との戦いによって血族同士が殺し合ったこともあったに違いない。

 以前カイが述べたように、この世の中で同属ドウゾク殺しほど罪深くむべき行為はないのだ。


 暗に最もむべき行為だと言われては、帝国をほろぼそうと叫ぶ声も消えていかざるをえない。


 場の動揺がしずまっていく。国王陛下はこちらに向かった。

も軍務長官と同じ考えである。帝国といえども元をたどればわが国民ではないか。彼らの命を失うことは、わが国民を損ねるのと同様である」

 場内の視線がすべて老王陛下にそそがれる。


はレイティス国王として、帝国との講和をす。ミゲル軍務長官とカイ軍師はと同じ考えであったと認め、とがめることはしない。皆の者、ご苦労であった」



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