第47話 和平・皇帝とまみえる

 謁見エッケンで待つ皇帝陛下のもとへやってきた。

 この瞬間をどれだけ待ちわびていたか。


「レブニス皇帝陛下、こちらが王国で軍務長官を務めるミゲル閣下カッカ、こちらが“無敵”と名高いナラージャ殿でございます」

 なんと名乗りをあげたのはタンパ様だった。


「タンパ殿、やはりあなたでしたか」

「なに、なかなかに気持ちのよい若者じゃったのでな。つい気になってしまったのじゃよ」


 となりに立っているナラージャが顔を寄せてきた。

閣下カッカ、このタンパ殿とはいかなる人物なのでしょうか」

 先ほど思い出した素性をそれとなく伝える。


「たしかレブニス皇帝陛下のおお叔父おじにあたる方ですよ。皇帝陛下が即位する前、傍流ボウリュウではあるが帝位継承権一位だったとされています。本来一位だった皇太子が病死したため一位に繰り上がったのですが、高齢を理由にレブニス陛下に座を譲っておられます。なので今でも帝位継承権はレブニス現皇帝陛下、レミア皇女殿下の次にあたる方です」

「そんなに偉いお方なのですか。失礼なことをけっこう口にしてしまいましたよ。知っているならすぐに教えてくださればよかったものを」

「いや、名前だけしか知らなかったし、傍流ボウリュウゆえに王国の諜報チョウホウモウでも情報が集まらなかったのですよ」


「皇帝陛下、私はこの会談の証言者となりましょう。ここは腹を割って話を聞いてはくれまいか?」

「他ならぬタンパ殿の申し出です。ぜひ証言者として同席願いますよう」

「ミゲル軍務長官閣下カッカ、ナラージャ殿、これであなた様方の身は安全になりました。ご安心くださればと存じます」

「タンパ様、お心遣こころづかい痛み入ります」


「おお、そうじゃ。忘れぬうちに申しておくか。陛下、この者たちは先のいくさち死にし、亡骸なきがらを回収されなかった者たちを運んでくださったのじゃ。今は私の住むアーセルの町で受け入れておる」

「なんと。これはミゲル軍務長官のご意向ですかな?」

「はい、陛下。私の一存でございます」


「なぜ敵である帝国兵の亡骸なきがらを運んできたのか、そのわけをお聞きしたいのだが」


「私は元来、人殺しを好みません。たとえ戦争であっても、可能なかぎり敵兵を殺さずにやってまいりました。しかし軍務長官となってから帝国兵を無秩序に殺害するよりほかなかったのです」

「殺害するほかない。どうしてかな?」

「このいくさ、といってもテルミナ平原の戦いやカンベル山稜サンリョウの戦いといった小さなものではございません。ボッサム帝国とレイティス王国が相まみえる百二十年の長きにわたる戦いを終結させるためです」


「ほう、それが帝国兵を大勢おおゼイ殺した理由なのか?」

 皇帝陛下が真面目な顔つきに変わって問いかけてきた。無理もないが。


「はい、帝国軍が王国軍と対等の戦力になるまでは手を止められないのです」

「そなたのねらいはなにか」

 真剣な眼差しの皇帝陛下へ、こちらも顔を改めて答える。


此度こたびいくさにおいてボッサム帝国は予想外の敗北をキッしました。これにより帝国は国状を建て直し、再度出撃されるには長い期間がかかるとお察しいたします。そこで私はレイティス王国軍務長官の職責において、貴国に講和を提案したく存じます」


「講和? 講和とな?」

「さようです、陛下」


「通常、講和は負けた側が提案するものだぞ。カンベル山稜サンリョウの戦い、テルミナ平原の戦いと連勝している王国側が講和を呼びかけるというのか?」


「三倍の兵をもってしても帝国軍はわが王国軍に勝てなかったのです。これは私の能力ではありません。軍師を務めた者の力量によります。仮に私たちがこの場で殺されても、なお帝国軍はわが軍には勝てません。だから講和を呼びかけているのです」


「わが帝国軍が王国軍にかなわないと決めつけるのはいかがなものかと思うが。クレイド軍務大臣が此度こたびいくさを分析して王国軍の上を行く、とは思わんのか?」


「帝国軍が頭をひねるように、王国軍もまた次の策を考えます。恐れ多いことですが、差はそれほどまらないかと存じます」


となりで控えるクレイド軍務大臣を招き入れよ」



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