第46話 和平・いざ会談へ

 老人タンパに連れられて帝都に案内された私とナラージャは、早速さっそく皇帝陛下が執務する城の前へたどり着いた。


 重装備の門番が跳ね橋の扉の前で立ちはだかっている。

 私たちを見たひとりが城の内部へ走っていく。

 おそらく曲者くせものに見えたのだろう。


「おふた方はここでお待ちください。門番と話をいたしてまいりますゆえ」

 タンパ老人が私の馬から降りて門番へ近づいていった。


 それを見ながらナラージャが寄ってきた。

「いよいよアリジゴクの底が見えてきましたな。あのタンパという老人、信用してよろしいのですか、閣下?」

「皇帝陛下の御前ゴゼンまでは通してくれるだろうな。そこで囲まれて取り押さえられるか殺されるか。まぁ今は考えないようにしよう。それにタンパという名がどうにも引っかかってな」


 タンパ老人が戻ってきた。

「通ってもよいそうじゃ。ただし馬は門番に預けること」

得物えものは?」

 ナラージャが矛槍ほこやりで腰の剣をかるく叩いた。

「それはかまわんそうじゃ。もしその得物えもので陛下や重臣が傷つけられたら生きては帰れんじゃろうて」

「つまり護身用なら持っていてかまわない、ということですね?」

「そのとおりじゃ。察しがよいのぉ」

 ナラージャを見てかるくうなずいた。

「承知しました。では馬は彼らにお渡しいたしましょう。私たちは皇帝陛下との会談が目的なのですから」


 レイティス王城と比べればさほど大きくない城ではあるが、守りやすい場所に建てられており異民族や野獣の類いの脅威を排するにはうってつけである。


 馬から下りて帝国兵に預け、門番のひとりにひかえのまで案内してもらった。

 私たちが到着したことはすでに皇帝陛下へ知らせてあるらしい。

 最初に走っていった門番が伝えていたのだろうか。


 私とナラージャは内心で警戒しながらも、表向きおだやかな態度で振る舞った。


 ほどなくひかえのに到着し、中で声がかかるのを待つよう命じられる。


 なぜかタンパ老人もその列に加わっているのだ。

「さぁて、おにが出るかジャが出るか」

「最初から殺すつもりなら、武器は取り上げられていたはず。取られなかったのは会談する意向が先方にもあるからだろう」

「まぁ焦らんことじゃな。皇帝陛下は勇者をとても好むそうじゃ。かのクレイド軍務大臣閣下カッカも、右に出る者のない勇者だからこそ重用されておる」

 あの逸材イツザイは仮に王国軍で生まれていても高職を得ていただろう。


「ここが王国軍官舎の待合室だと思って、くつろぎましょう。今から緊張していたら、会談までもたないでしょうしね」

「確かに。戦いの場はここじゃない。謁見エッケンであって、しかも武器を用いない戦いだからな。俺が入り込む余地はない。だから俺は閣下カッカの護衛にテッさせていただく」


「それがよかろう。なに王国はいざしらず、皇帝陛下はすぐに面会なさるだろうて。ぜわしいお方じゃからな」

「お詳しいのですね、タンパ様」

「まぁ秘密はもう少しあとまで延ばしておこう」

 カッカッカッと笑っているが、なかなかとらえどころがない人物だ。


 そのとき引っかかっているものの正体に心当たりがあった。

 しかし、その人物がご老人と同一人物だとすると、この会談はひと波乱あるかもしれない。


 ひかえのくつろぎ始めてからさほど時を経ずして伝令がやってきた。

「皇帝陛下がお会いになるそうでございます。謁見エッケンへお連れいたしますのでご準備くださいませ」

 謁見エッケンへ向けて、ナラージャを先頭に、私、タンパ様の順に出発した。



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