第八章 平和を導くもの
第45話 和平・茨の帝国領
レイティス王国の軍務長官として初めて帝国領に踏み込んだ。
一万強もの
ゆっくりと街道を進んでいく様子を、帝国民は近くの建物に隠れ、何名かがこちらを
「いつ飛び出して
「やりたいようにやらせればよい。われわれの任務はあくまでも
「まぁ、
入国自体を
だが、帝都に兵を
受け入れられたのなら、
しかし帰ってこなかったのだから、逆上させた可能性もある。
その場合は皇帝陛下と顔を合わせる前、もしくは会談中に実力行使に出られるかもしれない。
だが連れているのが王国軍で最も精強なナラージャ筆頭中隊である。
数が多いだけなら全員返り討ちにできるだろう。
帝都へ続くと思われる街道を進んでいると、前方に老人と武装した若者が立ち
彼らの手前で兵車隊を止める。
「あんたら、王国軍だな。なぜこんなところにいる!」
武器を携えた若者が威勢を張った。
ナラージャが
「昨日の
「
「
背の通った老人が若者と一緒に近づいてきて、兵車の中を
「確かに
「ございません。お気の
老人の目を見つめながら
若者は血気に
「ハシ、無礼はやめんか。この方の目は真実を語っておるからの」
「しかし、こいつらが兄さんを殺したんだぞ!」
ハシと呼ばれた武装した若者が答えた。
「そもそも、こちらのお方はレイティス王国の軍務長官
「なぜ軍務長官がこんなところにいるんだ!」
「だから戦死者の
老人は冷静だった。
「たしか今の軍務長官の名はミゲル……とか言ったか。赤い髪と橙色の瞳を持つ青年だと聞いている」
「はい、確かに私はレイティス王国で軍務長官を務めておりますミゲル、と申します」
ウンウンと
「あなた様は、これから帝都へ
「その予定ではおりますが、先に発した使者が戻ってこないのです。皇帝陛下にお会いしたいのはやまやまなのですが、返事もなく帝都に踏み入るのはいささか
「それならまず、兵たちの
「申し訳ございません……」
「なに、あなた様が気に病む必要はございません。帝国軍の一員として王国軍と戦い、たまたま帝国軍の被害が
「そうですね。私に次があれば、の話ですが」
「それは保証してやってもよい。あなた様方がここで
申し出に多少
「恐れ入ります」
横目でナラージャの顔を見た。
警戒心を
帝国領にいて兵車を降ろされては、逃げる手段を失うに等しい。
この老人に従うべきか拒絶するべきか。
迷った末に決断した。
「
「
「これでいいのだ、ナラージャ。なんならお前は帝都へついてこなくてもよいのだが」
「いくらなんでも
兵車の中を
「あ、あんた……“無敵”のナラージャ、なのか?」
「いかにも。王国軍にその人ありと
「お、俺を殺したら……あんたら生、きて帰れないぞ……」
「なに、帝国民へ危害を加えにきたわけじゃないんだ。ただミゲル軍務長官
「ほっほっほっ。このご
「違います、ご老人」
「わかっておる。だがあまり
「おっしゃるとおりです。ナラージャ、部下たちに早く先ほどの命令を伝えるのだ。そしてナラージャ以外の者はここで兵車を止めて、
「また
「皇帝陛下はたいへん
「ミゲル軍務長官
「ご老人、助かります。なにぶん私たちには土地勘がございません。どこをどうたどれば帝都へたどり着くのか。そこまで考えておりませんでした」
「うむうむ、素直でよろしい。では交換条件成立じゃな。私はタンパという。短い道中じゃが、まぁ任せなさい」
タンパと名乗った老人を見ていて、なにかが引っかかった。
記憶のどこかで聞いた名前だったからだ。
しかしどこで知ったのかがよく思い出せない。
だが、俺とナラージャは兵車を
そしてナラージャは馬を走らせて部下を集めてまわり、全員この町へ滞在するよう指示を出した。
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