第33話 雌伏・才気あふれる将軍たち

 ほどなくラフェル、ユーレム両名がやってきて国王陛下の御前にひざまずいた。


  本来なら私とガリウスの昇格と同様、下士官を含めた部隊長全員を集めて式典を行ないたいところだ。

 しかし短期間で王帝オウテイ争覇ソウハいくさが続いており、士官には軍師カイによる練兵レンペイの際に伝え、正式な昇格のは次の春前にすることで私とランドル国王陛下の考えは一致した。


 いっとき感慨カンガイふけった。


 ついふた月前、恩義あるカートリンク軍務長官閣下カッカから将軍職を授かったばかりである。

 そんな自分が、あのときの軍務長官閣下カッカと同じく将軍位を授ける場にのぞんでいる。そのカートリンク軍務長官閣下カッカも今はこの世にいない。


 思いを振り払うように口を開いた。


「国王陛下。向かって右に控えます男が、私の分隊長のラフェルであります。先のいくさではヒューイット大将をち取った部隊を率いておりました。ガリウス将軍と同様守勢シュセイに定評がありますが、今回のように攻勢コウセイもうぶんありません」

 二五歳のラフェルが国王に一礼した。


「続きまして、向かって左に控えます男が、ガリウス将軍の分隊長のユーレムであります。先のいくさではマシャード大将をち取った部隊を率いておりました。ガリウス将軍の懐刀ふところがたなとして一撃必殺の破壊力を有しております」

 二七歳のユーレムも続いて礼をした。


「彼らの昇格に合わせて、当面分隊長は置かず、四名の中隊長を我らの筆頭中隊長とし、小隊長を中隊長に昇格させて彼らに小隊長を選出させるつもりでおります」

「うむ。ミゲル軍務長官の見識には恐れ入るな。智者チシャ智者チシャを知るという」

 ランドル国王陛下は目の前に控える若いふたりに目を転じた。


「そちたちはどのような将軍を目指すのか」

 これは私たちも聞かれた質問である。


 ふたりの将軍候補を見つめている。

 まさか自分のように変なことを言わなければいいが、と思わずにいられない。


「私はミゲル軍務長官閣下カッカのように知勇のバランスがとれ、兵士たちのことを第一に考える将軍になりたいと存じます」

「私はガリウス将軍のように攻守に強く、兵士に慕われる将軍になりたいと存じます」

 ラフェルとユーレムはそれぞれ力強く答えた。


 私とガリウスがカートリンク軍務長官閣下カッカ継承ケイショウシャなら、このふたりは私とガリウスの後継コウケイシャといえよう。

 これは私たちが配下から信頼されている証左なのだろうか。

 私のような曖昧アイマイさは微塵ミジンも感じさせないふたりを見据みすえた。


 ランドル国王陛下は側近に命じて宝剣と紫のマントをふた組持ってこさせた。


「レイティス国王ランドルはミゲル軍務長官が推挙スイキョするラフェル、ユーレムの両名を将軍に任命する。両名前へ」

 ラフェルとユーレムはひとりずつ国王の前に歩み寄り、それぞれひと振りの剣と将軍を表す紫のマントをたまわった。


 その様子を見届けたのち、カイへ向きなおった。


「さっそくで悪いのだが、軍師殿。次戦の方策ホウサクをお教えいただきたい」

「またすぐに帝国が攻めてくるともうすのか」

 さすがのランドル国王陛下もこれにはあわてたようだ。

 今回の勝利に気をよくしてはいるが、敵の再出兵が間近となればそう浮かれてもいられない。


「いえ、もしものための保険のようなものです。次回帝国軍は間違いなくクレイド大将が率いるでしょう。今から対策タイサクっておくにしたことはありません」

 あわてている国王陛下を落ち着かせるようにカイは告げた。


「ただし、さぐりを入れる意味でも、来月あたりに再出撃してくることはじゅうぶんに考えられます。備えだけはしっかりしておくべきです」


 カイの洞察力の深さは計り知れない。

 国王陛下も安心してその眼力ガンリキを頼りにしている。


「場所を変えましょう。ここは人が多すぎますゆえ」

「そうだな。陛下、これより軍務長官執務室へお越し願えますか?」

「もちろんだ」


 こうして国王陛下と私、そして“軍師”カイとガリウス、ラフェル、ユーレムの六名は軍務長官執務室へと歩を進めた。

 その道中、カイが念を押すように告げた。

「ミゲル軍務長官閣下カッカ、ガリウス、ラフェル、ユーレム各将軍。戦場においては私の指揮シキ躊躇チュウチョせずに従っていただきます。それがクレイド大将攻略の最低条件です」


 四将軍は気を引きめて、カイ軍師へモクしたままうなずいた。



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