第28話 疾風・一気呵成

 緒戦ショセンの勝利にき立つ王国軍は勢い込んで一気に丘を越え、マシャード大将が率いる本隊を下にのぞむ位置へつけた。


 丘の向こうから合戦カッセンの声が聞こえていたマシャード大将は、斥候セッコウを放っていたがいっこうに帰ってこず情報を得られなかったはずだ。


 斥候セッコウを最大限に利用するのが“軍師”カイの真骨頂シンコッチョウである。

 そしてそれは相手の諜報チョウホウモウの無効化も含まれていた。

 送り出した斥候セッコウには“無敵”のナラージャが率いる中隊員が付き従っていたのだ。彼らが相手の斥候セッコウや伝令を捕らえて情報伝達を遮断シャダンする。

 実に攻撃的な諜報チョウホウモウである。


 マシャード大将本隊はすでに金属の打ち合う音のするほうへと回頭している。

 しかし数でまさり勢いよく丘を下ってくるわが軍にすっかり腰が引けてしまったようだ。

 マシャード大将は腰砕こしくだけとなり混乱が生じた中で必死に態勢を立て直そうと声を張り上げるが、ときすでおそし。


 王国軍はなだれをうってマシャード大将本隊へおどりこみ、あっと言う間に取り囲んでしまった。


 緒戦ショセンの勝利で自信をつけた王国軍は、いともたやすくマシャード大将本隊をけずっていく。そして“軍師”カイの指示でユーレムにメイを発し、猛勢モウセイそのままに突撃を指示した。

 とても一万対七千五百とは思えないほど一方的な戦いぶりだ。


 あっけないほどあっさりとマシャード大将本隊は全滅した。

 時間に余裕があると判断したカイは殲滅センメツ戦を開始し、あっという間に残存兵もわずかとなった。

 生存者が帝国領へあらかた逃げせたのを見届け、軍をまとめると進撃方向そのままさらに西の丘を越えていった。

 マシャード分隊に向けて突き進んでいく。


 朝霧あさぎりが晴れ始め、視界も少しずつ開けてきた。これから先はひたすら速攻あるのみだ。


 帝国マシャード分隊もこちらに向きを変えていた。


 カイがガリウスに細かな戦術を授けて一気に強襲キョウシュウしていく。

 分隊はマシャード大将本隊同様呆気アッケないほど簡単に撃破されていった。


 “鉄壁”のふたつ名で知られるガリウスだが、攻勢コウセイ手腕シュワン非凡ヒボンである。

 効率よく敵を倒しながら同時に投降トウコウを呼びかけていく。

 戦力のれ術がガリウスの用兵の真髄シンズイだ。


 マシャード分隊を掃滅ソウメツした段階で王国軍は相応の損害を出していた。

 それでもガリウスが繰り入れた敵小隊を含めて総数は九千五百強を保っている。


 三度の戦いをて王国軍は疲労こそしているが士気が高く、結果的な兵数としてはそれほど損耗ソンモウしていない。

 対して帝国軍の一部隊を潰走カイソウさせ、二部隊を完封カンプウしている。


 最後に残ったヒューイット分隊は、すでにヒューイット大将本隊のいた谷まで兵を進めていた。

 そこへ王国軍が大挙して目の前の丘を乗り越えて突き進む。


 死骸シガイが地を埋める惨状サンジョウを目の当たりにした帝国の兵士たちは心胆シンタン寒からしめたろう。

 七千五百の兵が二千五百の兵に短時間でこうまでやられたとは信じられなかったはずだ。


 王国軍の疲労も極限に達してはいるが、えた猛獣モウジュウのように今は目の前の獲物えものろうと士気をふるい立たせている。

 勢いの差は歴然だ。


 勝敗は一瞬で決した。


 カイの指示を聞いたおれはナラージャ筆頭中隊長へ命じて、ヒューイット分隊を率いる大隊長を一挙に打ち倒させ、その勢いのまま総力をあげて殲滅センメツ戦に移行する。


 そんな中で、俺は逃走する帝国兵を意図して見過ごしていた。


 カイは察したようだったが、あえて見ないふりを決め込んでくれている。

 これは軍務長官としての判断であり、たとえ“軍師”だとしても侵すべからざる領域であったはずだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る