第9話 昇格・軍務会合

 軍務長官執務室に相次いで将軍がつどう。


 まずリョウ五指ゴシに宝石の散りばめられた指輪をしているタクラム将軍がやってきた。


 あの宝石はすべて国王陛下からの恩賞オンショウであり、それだけ軍功グンコウさといところがある。

 アマムの野郎とは反りが合わないようだが、かといってとくにじいさんを支持しているわけでもない。


 もしタクラム将軍が参加していれば、タリエリ将軍は前戦に参加せず、俺やガリウスも戦場にはいなかっただろう。

 それが王国軍にとって吉なのかキョウなのか。次のいくさで彼の指揮ぶりを将軍の立場から測れるはずだ。



 次に白髪の混じった黒い角刈りの“武神”アダマス将軍が現れた。


 そのやりわざは、帝国でこのたび新大将となったクレイドとも幾度イクドも渡り合ったゴウものでもある。


 反カートリンク派の将軍だが前戦は孫娘が出産するという理由で参加しなかった。

 もし参加していれば、クレイドの進撃を未然に食い止めて、王国軍の大勝利は確実だったと噂されている。

 それほど王国軍では名声メイセイが極まっていた。


 しかしわが隊の“無敵”のナラージャに言わせれば、アダマス将軍などたいした技量ではないのだそうだ。

 単に位が高いせいで、手合わせする相手が物怖ものおじするだけだと。

 彼が倒したエビーナ大将もそのような人物だったらしい。

 まぁクレイドが物怖ものおじするとは思えないので、少なくともクレイドと互角の腕前うでまえはありそうではあるが。



 次に禿頭はげあたま筋骨キンコツ隆々リュウリュウなソフォス将軍が到着した。


 反カートリンク派のアダマス将軍と“肉まんじゅう”とは一線を引いているものの、とくにカートリンク派というわけでもないのはタクラム将軍と同様だ。


 しかし率いる兵はつねに戦意を高く保っており、最前線で粘り強く戦って敵のすきを見出だす能力にけている。

 ただ近視眼的なところもあり、眼前の敵を疑いなく攻撃して手痛く反撃されもした。



 最後に遅れてアマム将軍、前戦の軍務長官“肉まんじゅう”が姿を現した。


 権力欲が強く、かつて反カートリンク派の将軍たちに賄賂ワイロおくって派閥ハバツを広げたとされる。

 しかし手駒てごまの将軍は六名までもが先の戦いでクレイドひとりにち取られている。

 すでに反カートリンク派で生き残っているのはアダマス将軍と彼くらいなものだ。


 もしカートリンク派のタリエリ将軍が参加しなければ、俺やガリウスが戦場にはいなかったため、クレイドに討ち取られていたかもしれない。

 そのほうが王国軍のためにはよかったのではないか。

 だが、そうなったら一兵卒イッペイソツや下士官も大量に殺戮サツリクされていた可能性も否定できない。



「アマム将軍がお見えになった。これで八名全員そろいましたな」

 じいさん、いやカートリンク軍務長官閣下カッカがそう切り出すと、アマムの野郎とアダマス将軍が不遜フソンな態度をとり始めた。


「あのクレイドが大将か。帝国もよほどの人材難と見える。それなら吾輩わがハイが軍務長官としてまみえれば、勝敗は一瞬でつくな」


「そうじゃそうじゃ。先月負けたくせに今月も攻めて来ようなどと不遜フソンな考えをするヤツは、アダマス将軍のやりつゆとなればよいのだ。カートリンク、アダマス将軍に長官職をゆずらんか?」


 イングス将軍とトロミノ将軍がじいさんと調子を合わせて話を先へ進める。


「アマム将軍。アダマス将軍を軍務長官にしたら、一騎イッキちだけで勝ち負けが決まってしまいますぞ」


「それでよいではないか。なにせ、われらが手をくださずとも勝ちいくさになるのだからな」


 ガリウスが割って入った。

「クレイド新大将の用兵手腕がまだわかりません。もし一騎イッキちに乗らず、全軍をたくみに操って襲いかかってこられたら。想像以上に手強てごわいかも──」

「ひよっこは黙っとれ!」


 “肉まんじゅう”が語気をあらげた。


「そもそも前のいくさでキサマがクレイドを倒しておれば、今月の出兵はなかったのだぞ!」


 いささか気の弱い面のあるガリウスは言葉を飲み込んでしまった。

 アマムの野郎は口先だけは立派リッパなのだが、実力がともなっていない。

 だから前戦で遅れをとるのだ。


「ガリウス将軍は守勢シュセイ定評テイヒョウがあります。もしクレイド大将を倒したければ、アダマス将軍かソフォス将軍をあてなければ無理でしょう」

 じいさんがガリウスのフォローにまわる。


「軍務長官閣下カッカのお言葉ですが、わが隊の“切りふだ”ナラージャ筆頭中隊長ならばクレイド大将とよい勝負ができると存じます。あえてアダマス将軍、ソフォス将軍のお手をわずらわすこともございますまい」


「そうしてキサマが手柄てがらひとめするつもりか。食えぬヤツよの」


 その言葉に腹が立ったものの、じいさんとガリウスの手前ムキにならず聞き流した。


「まぁ若い者はまだ実戦で大隊を指揮した経験はございませんので、勇み足の発言はよくあることです。私も将軍になりたての頃は血気ケッキさかんでしたからね」

 トロミノ将軍が助けぶねを出してくれた。



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