第8話 昇格・怪しい雲行き
王城の軍務長官執務室にて、じいさんつまりカートリンク軍務長官
じいさんが新任の将軍である
「では、帝国はエビーナ大将の後任にクレイドをあてるというのか?」
「おそらく」
そう答えながら、俺は確信していた。
王国軍において反カートリンク派の主だった将軍は、先月の「テルミナ平原の戦い」でクレイド騎馬中隊長ひとりに倒されている。
ここに集まっているじいさんとガリウス、そして
さらにイングス将軍とトロミノ将軍はカートリンク派である。
先の戦いでクレイドに
軍の運用理論に明るいイングス将軍が口を開く。
「ガリウス将軍の意見を聞こうか」
「私は半信半疑でございます。しかしミゲル将軍には確信があるようです」
「根拠を聞こうか。
「
俺は
「
「ミゲル将軍、なぜかな?」
イングスが
「前提からお話し致します。仮に三大将のうちの二名、ヒューイット大将やマシャード大将の配下から選ばれでもしたら、エビーナ配下の兵たちが納得できず、新大将の命令にも素直には従いますまい」
「確かにそういうものだな。大将が全軍を率いているがゆえ、兵たちが大将に従わないで戦に勝てる
「はい。そうなると新大将は兵の皆が納得できる者がならなければ、これと同じことになります」
じいさんが聞いてきた。
「レミア皇女では兵たちが納得しない、というわけか?」
「おそらく、いえ、確実に納得しないでしょう」
ここからうまく説明できなければ、
気を引き締めて論を進める。
「エビーナ大将を守護するべき騎士団は、その役目を果たせずみすみすわが中隊の“無敵”のナラージャに
じいさんだけでなく、左右に座るイングス将軍、トロミノ将軍にも目配せする。
「重装歩兵大隊長二名は、当初わが軍の前衛六将軍により戦線を維持するのが精いっぱいでした。それまではこれといった
じいさんは険しい視線を送ってきた。
「しかし戦局を一変させたのは皇女レミアではなく、騎馬中隊長クレイドであるのは
勢いで話している自覚があったので、あえてひと呼吸おく。
「確かに皇女レミアは王国軍の兵を
「つまりレミア皇女の
「さようです、閣下」
「確かに一理ありますな、カートリンク
トロミノ将軍が賛同してきた。
「もしクレイドが新大将となれば、比類なき個人の武のみならず、率いていた騎馬中隊をさらに機動的に用いてくるでしょう。これほど
あとはイングス将軍の支持をとりつけられれば。
「ただ、問題があるとすれば、
この場にいる軍務長官
「そしておそらく、いえ間違いなく、大将へ昇格したら近日中に兵を挙げて攻め寄せてくるはずです」
「先月戦ったばかりですぐ戦を挑んでくると言うのか」
カートリンクのじいさんが割って入ってきた。
「中隊長が飛び越して大将となるのですから、士官や兵の中には疑念を抱く者も出るでしょう。
「確かにミゲル将軍の言うとおりかもしれませんな」
その軍才は王国軍で
「となれば、すぐにわが軍も
トロミノ将軍も同意した。
残るはじいさんだが……。
「わかった。ミゲル将軍の
じいさんが席を立ち、
「しかしミゲル将軍はたいしたものだ」
イングス将軍が声をかけてきた。
「いえ、私は感じたままを申しただけです」
「仮にクレイドが大将へ昇格しなかったら、帝国は攻めてこないと思うか?」
明らかに探りを入れてきた。
あまり
「確かにクレイドが大将へ昇格しなければ、攻める口実がありませんから。例年どおり
執務室の前で止まると、伝令が書状を守衛に渡す。
その様子を耳にしていた
「軍務長官
「それは速達だ。内容はだいたい察しがつく」
じいさんへ速達の書状を手渡すと、もしかしてと
書状を読み始めたじいさんは、すぐさまそれを
「ミゲル将軍、
「ということは……」
俺は書状に目を通す。推測は正しかった。
『レブニス帝が帝国軍クレイドを新大将に任じる。今九月中に王国軍と手合わせするよう下命する』
「当たらなかったほうがよかったかもしれません」
じいさんがランドル国王陛下へ
使い走らせるべく、じいさんは伝令を集めて言った。
「全将軍を参集する。アマム、アダマス、タクラム、ソフォス各将をただちに呼んでまいれ」
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