第5話 式典・不穏なやりとり

 それでも“肉まんじゅう”は顔を赤くしながら、

「ですが国王陛下。こんな若造わかゾウ以外にも手柄を立てた中隊長ならいくらでもおります。彼らを将軍に取り立てるのが先ではありませんか」

 と売り込み始めた。


 彼の麾下キカにはそれ以前の戦闘において帝国大隊長を倒した中隊長が二名いる。

 こちらを優先しろとアンに主張しているのだ。


 アマムの野郎は万事バンジこのようにして派閥ハバツを拡大させてきた。

 じいさんを追い落として自ら軍務長官で居続ける。

 軍議においても“肉まんじゅう”が多数決を制する数の暴力に打って出るため、将軍の質がきわめて劣化してしまったのも事実である。


 とくに先月の「テルミナ平原の戦い」においてクレイドひとりに倒された将軍七名のうち、カートリンク派のタリエリ将軍を除く六将軍はすべて反カートリンク派であった。

 子飼こがいの六将軍をすべて戦死させてしまったため、残った反カートリンク派は“武神”アダマス将軍とふたりきりとなってしまった。


 もし前戦にアダマス将軍が参加していれば、クレイドと一騎討ちを挑んで時間稼ぎができたかもしれない。そうなれば六将軍を討ち取られることなく、アマムの野郎の天下が続いていたはずだ。


 国王陛下は不敵フテキみを浮かべながらうなずくと、

「憶えておる。だがその者たちには、すでに春の査定サテイにおいて将軍待遇タイグウ報奨ホウショウキンで了承を得ておる。その者たちに今から改めて将軍の位を授けなければならぬのか?」

 と一蹴イッシュウした。


 手柄を立てていた中隊長の二名。

 実は軍務長官を務めていたアマムが位を並ばれるのをとても嫌っていた。

 代わりとして早々と重い恩賞で手打ちにしているのだ。

 それも半年前に将軍へ昇格したばかりの新米将軍の入れ知恵であった。

 その思惑おもワクは国王陛下も知るところである。そもそもそんな浅知恵を授けた将軍は先月のテルミナ平原の戦いにおいてクレイドと一騎討ちをして敗れ去っていた。


此度こたび戦死した七名の将軍を補うには、通例であれば同数の七名を昇進させる必要がございます」

 ムジャカ宰相サイショウ殿下は淡々と考査コウサのっとって型どおり主張する。


 じいさんは先の敗戦と人的被害を考慮し、国王陛下・宰相サイショウ殿下を交えて将軍補充においてひとつの方針を提案していた。


「以前将軍に挙げられなかった中隊長は此度こたびの敗戦においてなんの手柄も立てておりません」


 諸将軍から不満の声が挙がろうかとする先手を打ち、宰相サイショウ殿下はまたも型どおりに口を開く。


「過去の手柄を今さら持ち出して人事のやり直しをり行なえば、一つの功績に対して二つの褒賞ホウショウがなされます。将兵官民からはれあいの身びいきをしているようにしか映りますまい」


 じいさんは軍務長官として、不満顔な将軍たちを見据えながら話を続ける。


「今回失った将兵はあまりにも多く、従来どおり七名を将軍に昇格させても皆様方が率いる兵を再配分する必要が生じる。将軍の数だけを増やしても率いる兵が足りないのだ」


 ランドル陛下が諸将に息をつかせず続ける。


「先の戦いでは帝国大将を打ち倒せた。だがこちらも七名の将軍を失い、生き残った将軍は前軍務長官のそちひとり。これではとても勝利したとは言えまい。負けいくさで手柄を立てていない者に報奨金を与えるわけにいかないのも明白ではないか。此度こたびは将軍の欠員を補充する意味でも、各将軍の麾下キカに影響を及ぼさない範囲で将軍の位へ昇格させる人数をしぼり込むのが適当であろう。ガリウス、ミゲル両名の他にそれほどまで昇格を願う者がおれば、先の二人も彼ら同様、将軍の列に加えてもよいのだ。その際はケイらの配下の三割をその者たちに授けることになるがな」


 ランドル陛下はじっとにらみつけた。みにくえたアマム将軍はさすがに引き下がらざるをえなかった。


 なにしろ先の戦いで軍務長官を務めたのはアマムの野郎本人なのだ。

 おれたちを率いていたタリエリ将軍も含めた七将軍は、この無能な“肉まんじゅう”の指揮のために命を落とした。

 そのとがめも軍務長官職を解任されたことで受けてはいるが、これ以上陛下に食い下がっては機嫌を損ねられて将軍職さえも失いかねないと感じたのだろう。


「先の敗戦で生還した兵は四千弱。これに臨時徴兵で千名強を集めて将軍麾下キカ五千の枠を満たします。しかしガリウス、ミゲル両名は将軍としては駆け出しにすぎず、演習で見事な手並みを見せたとはいえ、すぐに全兵五千を意のままに操るのは難しいでしょう」


 銀短髪の老軍務長官閣下カッカは話を続ける。


「そこで、二名には春の徴兵まで半数を運用する演習を積ませます。諸将軍のご指導をたまわり、春までに一人前となれば麾下キカ員数を五千の大隊に引き上げればよろしいかと存じます。その際兵員に余剰が出たらさらに新しい将軍を昇進していけばよろしいでしょう」


 俺たちには、先月まで率いていた中隊を中心に、生き残った各隊の兵士が半数ずつと臨時徴兵が割り当てられる。

 各々おのおの二千五百の軍勢である。他の将軍が大隊五千人ずつを率いているため「半人前」と見られることは誰の目にも明らかだ。


 じいさんから伝え聞いた話では、当初諸将軍と同じく五千の兵を割り当てたかったのだが「若造わかゾウなのだから半数でよい」と六将軍のうち“肉まんじゅう”アマム将軍と“武神”アダマス将軍の猛反発にあったらしい。

 俺たちを無理に将軍へ推した負い目もあるので断念せざるをえなかったそうだ。



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