第10話 剣士と騎士

「━━よろしくお願いします……!」

クロムウェル先生から与えられた剣を正面に構える。剣聖国の騎士もニヤニヤしながら正面に構え、それを合図にクロムウェル先生やアテネ等、周囲の人々が離れる。

いつ仕掛けるべきか……。相手の出方を伺っていると、予想通り先手を取ってきた。

「先手必勝ぉぉ!!」

距離を詰めてから真上からの切り下ろし。単純明快だが受け方に迷ったらそこで終わりだ。

僕は剣を横にして受け止めると見せかけて体を右にずらし、受け流す。

「ぬおっ……!?」

相手は子供だろうと油断していたらしく、次の反応に少し間が空いた。僕はその隙を逃すまいと、ガラ空きの背中を斬━━。

「っ……!!」

慌てて剣を横に逸らす。一時思考停止していた騎士はすぐさま僕との距離をとる。

「姑息な手を使いやがってぇ……!」

今、僕は本気でこの騎士を殺そうとしていた。それにさっきまで緊張でろくに頭が回らなかったのに、剣を構えた瞬間に思考が加速した。いったいなぜ……。

「ちくしょう……! 殺してやる!」

謎の思考加速の原因を考えていた僕の思考を、騎士の声が遮った。

「死ねぇぇぇ!」

今度は右から左の水平切り。だがあまりにも大袈裟すぎるためこれは陽動だろう。後ろに避けた後に何か追撃が来るだろう。

だから僕はあえて前に突っ込んだ。もちろん、相手を殺せる算段がある。

剣先を下に向け、右腕を顔の前に持ってきて体の右側に剣を立てる。そして相手の水平切りと僕の剣が接触した瞬間、僕は右上にむえて地を蹴る。剣が当たった衝撃によって僕の体は大きく回転、着地する。

相手は僕の予想外の動きについていけず、未だに体勢を崩してしまっている。

その隙を逃さず、僕はガラ空きの首に向けて剣を走らせ━━━━

「…………!!」

首に剣が当たるギリギリのところで剣の軌道を逸らす。なんとか剣の軌道を逸らしたものの、そのまま県に体を持っていかれてしまい、転倒してしまう。

「はい。そこまで。」

間に割って入るように、クロムウェル先生が間に立つ。

騎士の方は負けたことに納得がいかないようで、口を開きかけた時、突然後ろの方から声が聞こえた。

「なんだなんだ? この騒ぎ。」

体をねじって後ろを向くと、そこには40代そこそこくらいの男性が居た。

オッサンは「よっす、クロムウェル。」とクロムウェル先生に声をかける。

「お久しぶりです。クレセント殿。」

「どうやら俺の部下が迷惑かけてるらしいな。すまねぇ」

「そうですね、こちらの国としては大事な人材を攻撃した罪は大きいですよ。」

「分かってるて。とりあえず、回復魔法でもかけてやってもいいか?」

「ええ、ご自由に。」

クレセントと言うらしいオッサンが、なぜか怯える騎士に近づく。

「お、おい……! な、何をするつもりだ……!?」

「ただの治癒魔法だ。」

騎士はまた何か言おうとしたが、その前にオッサンが唱えた。

「──サンタム」

その声とともに騎士の体を淡い光が包み込み、擦り傷等を治して……いかない。

「グハッ……!!」

「「え…………!?」」

僕とアテネは驚愕のあまり驚きの声を漏らす。それもそのはず、治癒魔法を受けたはずの騎士の体は治癒するどころか、黒い煙を出しながら消えていくのだ。

「……やっぱりですか」

それを見たクロムウェル先生は納得したように呟いた。

「やっぱりって……どういうことでしょうか?」

「あの騎士は魔神国の手下……いや、自立型魔人兵と言った方が良いですね。」

「魔人兵……とは?」

「簡単に言ったら闇属性の魔力の結晶で出来た人型の兵器です。そのため反属性である光属性の治癒魔法を用いたことで、互いが反発してああなっているということです。」

そんな話をしている間に、騎士改め自立型魔人兵は全ての魔力を分解されてしまい、ついに煙となって消えてしまった。

「久しぶりだなクロムウェル。最近先生し始めたらしいがこいつらが生徒か?」

腕を組んで僕とアテネを見て言う。

「ええ。とても優秀な生徒ですよ。」

「優秀ねぇ……。さっき魔人兵とやり合ってたテリヤだっけか? 彼こそファルペスに来て欲しい人材だな。どうだ?」

「え、遠慮します……」

「そうですよ。彼は魔法使いとしてもとてつもない逸材なのですから。引き抜こうものなら国の関係にも響きますよ」

「お、おう……それはさらに興味が湧くな」

「さて……と、挨拶はこれまでにして本題に入りましょう。」

クロムウェル先生は辺りを一瞥すると言った。

「クレセント殿、私達をここに呼んだのは何か理由があるのでしょうね?」

少し眉をひそめつつ問いかける。

「あぁ、この場所をこんな風にしちまったのは素直に謝る。ちなみにあの魔人兵に関しては全く知らねぇ……と、話ズレたな。ともかく、こんなところに呼び出したのはそれと関係が──」

「とりあえずこの結界魔法を解いていただけませんか?」

クロムウェル先生らしくない──会ってからまだ1ヶ月も経ってないけど……──口調でクレセントとかいうオッサンに言う。

「悪い悪い、すぐ解除するよ」そう言い「パチンッ……!」と指を鳴らすと、周りの風景が崩れるように消滅していく。そして、周囲の風景が完全に消滅した時、薄汚れているものの傷一つ無い真っ白の石柱が立っていた。その真っ白の石柱を中心に、祭壇らしき構造物ができている。

「────。」

「あの……、ここは何ですか?」

何かの余韻に浸っているクロムウェル先生に質問する。

「ここは墓ですよ。約1000年前実在した魔女、リリンテイル・マラ・アリス様の永眠されし場所です」

そう言ったクロムウェル先生は、どこか寂しそうに遠くを見ていた。

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Hope in magic world ━━━━魔法の世界に剣士が一人━━━━ 清河ダイト @A-Mochi117

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