黒い山羊



「フレイディア、戻ったぞー」


 颯爽と城の城門をくぐると同時に、城の上層部から窓を割って炎をまとった何かが降ってきた、兄の留守を任されていたフレイディアだ。相当怒っているようで、その頭は黒い山羊やぎの様になっているのだが、これにはちゃんとした理由があった。実は、地獄界と精霊界では時間の経過の仕方に大きな差がある。それをスッカリ忘れていたフレイディンが、機嫌良く帰ってきたものだからフレイディアは面白くない。


「おそぉーいっ!!十年も何してたの!」


 あまりの怒気に、引きり笑いを浮かべながら兄フレイディンは後ずさりして理由を述べた。


「精霊王の恩返しに合って、朝露の紅茶を飲んでいた」


「精霊王と、地獄の王が仲良くお茶会……で、また一階層下が出来るんじゃないでしょうね」


「最上階には精霊王が連絡してくれる、まぁ、大丈夫だろう」


 説明に納得した様子の妹を見て、ホッと胸を撫で下ろしたフレイディン。その目前で、フレイディアの姿が元の美しい人形のような造形へと戻っていく。ちなみにフレイディンが激高しても、今回の妹と同じ状態になる。


「そう!!なら安心ね、精霊王は嘘がけない呪いにかかってるし」


他人事ひとごとのように言うが…お前がかけたんだろう」


「良いのよ、三千年前にアタクシ達を上層階から最下層階まで勘違いで堕とした張本人なんだから、当然のむくいよ」


 こうして、今回の珍事は収束した。

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地獄から 江戸端 禧丞 @lojiurabbit

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