最終章④

「ほら、約束だ。俺が取り調べできるよう、上に掛け合った。だから全部話せ」

 鷹斗は目の前に座る吉川にそう言う。彼は椅子の背もたれにもたれ、腕を組み、貧乏ゆすりをしていた。

「ミラーの奥にいるんだろ、あいつが……」

 彼の言うとは、椿のことだった。

 なぜか、椿のことを敵対視している。

「いませんよ」

「いや、いるな。気配がしてんだ、間違いない」

 彼は「んだ」と続けた。

「そんなことはどうでもいいです。あなたが起こした神隠し事件のこと、全て教えてほしい。嘘はつかないでくださいよ。俺、嘘だけは分かるんで」

「全部か……うん、良いだろう。まあ、普通の法では裁けはしないさ。この事件には能力ちからが関わっているからな……」

 吉川はそう言って口の端を上げた。

 その時、鷹斗は耳につけたイヤホンから椿の声が聞こえたことに驚いた。ここには連れてきていない……ならどうして……。

『俺が大元さんに頼んだんだ。この事件には俺も絡んでる。ミラー裏でいいから入れてくれって』

 考えを読まれた鷹斗。顔色は変えないよう細心の注意を払う。

『鷹斗、多分……お前が今少しでも顔色変えたり、何かしようものなら、すぐにそいつにばれる。気を付けろ……』

「吉川さん、あなたがどうしてこんな事件を起こしたのか、教えてくれませんか?あなたは警察官でしょ。なんでこんなこと……」

「う~ん、なんでって言われても……起きたのは偶然なんだ。あ、一回目はね……」

「一回目……?」

「ああ。覚えてないか……?だよ……」

 吉川は不敵な笑みをもらした。

「俺が……巻き込まれた神隠し……一五年前の……事件……」

「そうだ。あの事件も俺が起こしたものだ。これに関しては意図的じゃなかったが……偶然起きた事件だった。しかし、バレなくてね。なんだ、バレないのかって思ったよ。俺が起こしたことも、俺が能力を使ったことも分かってないんだ。案外、警察も馬鹿だってな。それで、俺は思いついたんだ。俺が警察に入って、事件を起こした後に自分で解決したらどうなるんだって。で、やってみた。そしたら面白いことに表彰されんだぜ?写真撮られながら笑い堪えるの必死だったよな~。巻き込まれた子供も親も、知らぬうちに犯人に仕立て上げられたバカも、何も気づいてないんだ。顔を見せたところで相手は覚えてすらない。それはどうしてかって?簡単さ、忘却の術を唱えればいい。な?簡単だろ?だから、俺がここで何もかも話しても、問題はないの。捕まえることすらできないんだ。だって話したことも、俺がここにいたことも全部、お前らは忘れるんだよ」

 彼の話をどこまで信じればいいのか迷ったが、嘘を言ってないのは確実だった。態度も、声色も、表情も、何をとってもからだ。

「俺は、お前のことも詳しいぞ。何ならここで話してやろうか?」

 止めろという鷹斗の制止も聞かず、吉川は続けた。

「お前は望まれた子ではなかった。二歳の時に施設に入れられ、四十住椿と親友になる。でも、五歳の時に里親に引き取られた。それが松風だ。それからお前は松風鷹斗と名乗り始めた。ここまでは資料にも残ってる。そうだろ?で、ここからが本題。松風の家に行ったものの、お前は施設のほうが居心地がよかった。椿に会いたいと夜に泣いたこともある。椿の父親面をしてたあの神父にも会いたいと、戻りたいと泣いたな。それを知った母親は、お前がこの家になじめるようにと、色々なことをしてくれた。そんな時いつも浮かぶのは、あのガキだ。いいねえ~友情愛だ。小学生になったときに椿と再会、いつも一緒だったな。そのあとは……五人か?グループで行動して、ついには神隠しに巻き込まれる。そう、俺が起こした神隠しだ。どうやったか知りたいか?仕方ない、特別に教えてやるさ。どうせ忘れるからな」

 吉川は煽るようにそういう。ここで乗ったら負けだ。こいつの思うつぼになる。鷹斗は必死にこらえた。

「まず、狙いを定めるんだ。女でも男でも、どっちでもいい。次にそいつに関する情報を集める。些細なことから詳しいことまで、何でもだ。何が好きとか何に興味があるとか、そういうの。そしてタイミングを計る。これが何気に難しいんだぜ。それこそ連れ去るよりも難しい。で、この時俺は思ったんだ。毎週、同じ曜日に子供がいなくなったら、世間はどう思うんだろうってな。そしたら“神隠し”なんて名前つけやがった。笑えるよな!ただの人間が起こした事件なのによ!」

 彼は、自分が起こしてきた事件のことを話した。それはまるで武勇伝のように……。聞いていて腹が立つ。怒りを抑えるのに必死だった。

「……というわけ。他に聞きたいことは?」

「どうやって起こしたのかはわかりました。でも、それで俺たちを狙ったのと、あの子供たちを狙ったの、今回の女性を狙ったの、どういう関係が?共通点なんてないじゃないですか」

「関係?大ありだよ。それに共通点もしっかりある。俺がそんなへまするか?事件捜査の時だってへまなんてしたことなかったろ?」

 彼はそういう。

「関係も共通点も、ちゃんとあるさ。共通点は、四十住椿……今、ミラー越しに見てるあいつだよ」

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