幕間

 由衣……どこにいるんだ……。

 あの日、自宅を出るときに視たもの、あれは何だったんだ……。

 何度も何度も夢に見る。由衣が笑顔で出て行く姿。

「いってきます!」

 笑顔で手を振り、買い物に出かけて行った……。何で俺も一緒に行かなかったんだ……何で由衣一人に行かせたんだ……。後悔しても仕方ないのは分かってる。でも考えずにはいられない。思わずにはいられない……由衣が神隠しなんかに遭ったのは俺のせいだ……と。


♢ ♢ ♢


「……さ~ん……椿さ~ん……ここ……どこなんだろ……」

 私、買い物に来ただけなのに気付いたらこんなところに……。真っ暗だし何もないし、何か寒いし。

「ここって天国か何か……なの?それとも地獄……?」

 どこを見ても真っ暗だし怖い……椿さんいないし……どうしたら……。


♢ ♢ ♢


「こんな役立たずな力なんかいらねえよ……」

 何をどうしても、由衣を見つけることは出来なかった。歩く女性全てが由衣に見えてくる。

 何がどうなってるんだ……まさか本当に神隠しに……。事件に巻き込まれているんなら警察の力も借りられる。でも、もし本当に神隠しなら、どうすることも出来ない……出来るのは俺か……父さんか……だよな。

〈父さん……頼む……助けてくれ……あいつを何としてでも取り戻したい……頼むから力貸してくれ……〉

 そう念じた。思ったより体力が削られるのか、意識を保つのも、その場に立っているのもやっとになってきた。

 どこからか鷹斗の声が聴こえてくる。

「ははっ……幻聴まで聴こえ始めたか……そんなに削られるのか……?」

 頭を振る。何回やっても彼の声が聴こえる。

「椿っ!おいっ!」

 仕方なく声のするほうへ顔を向けた。

「なんで……」

 信号が青に変わるとともに、走ってくる。

「おいっ、しっかりしろ!大丈夫か!?」

 自分の顔をのぞき込む鷹斗を見て、どこかほっとしたような気になる。

「鷹斗……俺さ、由衣を助手にしたこと後悔してるよ……こんなことになるんなら……あの時、あいつの事件に関わらなかったら……こんな俺、初めてで……」

 今まで言ったことのないセリフが自分の口から出てくるのが不思議でならなかった。けれど、そんな俺を不思議に思うことなく鷹斗は受け入れてくれる。

「ああ、そうだな。他人のことでこんなになってるお前見たの、俺も初めてだ。とりあえず、一回帰ろう」

 彼が来たことに安心し、椿は感情のストッパーが外れた。普段から感情をあらわにすることなどない彼の感情は、一瞬にして辺りを負にする。あらゆるものに作用し、。その瞬間、意識を失った。


♢ ♢ ♢


「椿さん……私、ここにいますよ……助けてくれるって信じてます。だから……慌てなくていいですから、助けに来て下さい……ここ……なんだか怖いんです……椿さん……」

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