第3話 お義父さん!お義母さん!息子さんを私にください!
ふぅあぁ~ぁ~あ
長い、大きなあくび。眠い、眠すぎる。今日は土曜日。いつもなら昼過ぎまで寝て、母さんに叩き起こされるのだが、今朝は別のものに早々と起こされた。
「ねぇ~、ゆうと~、お腹すいた~」
昨日から、仔猫=ルゥに食事を迫られる。仕方ない、仕方ないんだ。連れてきたのは俺だから。でも・・・頼む、もう少しだけ寝かせてくれ・・・
・・・
「おい、ルゥ。食いながらでいいから聞いてくれ。今日、親にお前を飼ってもいいか聞くから。」
?!ンっガ、グっグっ!
「ほ、本当ですの?!ありがとうございます!ゆうと様!」
「もちろんダメと言われたら他を探すからな。で、なんだ?その喉の詰まらせ方。お前はサザエさんか?」
「?誰ですの?その、サザエさん?という方は。」
「サザエさんは、お前みたいなドラ猫を裸足で追いかける天敵だ。街で出くわしたら逃げろ。」
「恐ろしい方がこの世界にはいるのですね。まぁ
餌をたかっている時点で、お魚咥えて逃げる猫と大差ない気もするが・・・
ルゥは食事が終わると、両前足をペロペロと舐め始めた。猫に詳しくない俺でも知っている。これはグルーミングというやつだ。猫といえば、これだよな。
右足、左足、顔を撫でてから、もう一回足を舐める。更に舐める、舐めまくる!!
「なぁ、ちょっとした疑問なんだが、その足とか体を舐めるのは何でなんだ?」
ルゥは、舐めるのをピタッと止めて、こちらをじーっと見ていた。何か俺、変なこと聞きました?
「・・・もしかして、ゆうとさんって、トイレに入った後、手を洗わない方ですか?」
「ん?それとこれとは話が__」
「違いませんことよ?!食事の後に舐めないとかキタナイじゃないですか!常識ですよ?!ジョーシキ!!そのような考えでは淑女の方々にもてませんよ!!」
・・・猫の常識なんて知らんがな。それに、、手、洗うよ?洗ってるよ?たまに忘れるかもしれないけど・・・泣いてなんかいないよ?
「それに!」
ルゥは指差すように尻尾の先を俺に向けた。
「本日これから!ゆうと様のお義父様、お義母様に、ご挨拶をするのでしょう?ゆうと様のパートナーとして!第1印象を良くすることが!状況を優位に進める第一歩です!」
勝手にヨメトメ紛争を起こすんじゃない・・・
ルゥは更に舐めに舐めに舐めまくっていた。
・・・
・・・
・・・1時間後・・・
今日は良い天気だねぇ〜。
本日はお日柄もよく・・・という言葉がピッタリの日だぁ。ルゥかい?あれからずーっとずーっと舐めてるよ?俺、朝から何も食べてないからさぁ、そぉ~っと食事に行こうと思ったのよ。そしたら『コロすぞ?』的な目が来てさぁ。俺の存在忘れてるんじゃないかなぁ〜?と思ってたんだぁ。良かったぁ、忘れられてなくて。いや、泣いてなんかいないよ?
「んー、まだ満足はできませんが・・・仕方ありませんね。」
女性の支度を待つ男性って、こんな感じなんですか?知りませんけど・・・あと毛が落ちてるんですけど、後で掃除、しなきゃ。
◇◇◇◇◇
「母さん、おはよう。ちょっといい?」
「ゆうくん、おはよう。今日は早いわね。」
ルゥの入った段ボール箱を持って、リビングに入ると、母さんと父さんがいた。朝食が終わって、少し寛いでいるタイミングのようだった。父さんは文庫本を読んでいて『マドレーヌ夫人』みたいな題名がチラリと見えた。本を読んでいる時の父さんは、話は聞いているが返答はないので、無視・・いや、そっとしておく。
「母さん、ちょっとご相談が。父さんも耳だけ貸して?」
「相談?ひょっとして、その猫のこと?」
・・・ふぁっ?!
「な、な、な、なんで知ってるの?!」
「なんでって・・・夜中にあんなに鳴いてたら、イヤでも聞こえるわよ。」
あっ、あぁ~
段ボール箱のルゥを見ると、ヒゲを舐めていた。お前のテヘペロはいらねぇ。
「あと、ゆり姉ちゃんが『悠人が夜中にブツブツ煩かった』とも言ってたし・・・」
姉貴のヤロー…ん?夜中にブツブツって、俺、今、ちょっぴりアブナイヤツじゃないですか?!
「・・・で、その姉ちゃんは?」
「とっくにバイトに出かけたわよ。」
あぁそうですか。では本題に。と思ったが__
「まずはその子を見せなさいよ。」
母に先制された。そりゃそうか。俺は持っていた段ボール箱を床に置いた。母さんが覗くと、ルゥは可愛らしく顔を向け、ミュ〜と小さく鳴いた。ルゥさん、随分と仔猫らしく振る舞ってるじゃありませんか。これがまさしく『猫を被る』ですか?
「あら、カワイイ仔猫ね。生後何ヶ月くらい?」
「んー正確には分からないけど、たぶん生後2ヶ月くらいだと思う。」
ルゥを見ると『正解!』というかのように、尻尾をクルリと回した。
「で、この子、どうしたの?拾ってきたの?」
母さんの質問に少し戸惑った。まさか道の途中で告白されたとは言えない。ましてや、脅されたなんて、口が裂けても言えない・・・
「拾ってきた、と、いうか、、ついてきた、というか、何というか・・・」
「あら、モテモテじゃない?」
女のコだったら嬉しいんだけどなぁ。あ、一応ルゥは女のコか。でも嬉しくはない。
「お父さん!見て見て!カワイイわよ?!」
母が珍しくはしゃいでいる。父親がのっそりと立ち上がり覗いてきた。ふむ、とルゥをひと撫ですると、ルゥもまんざらでもないように、ナーゴと喉を鳴らした。
「あのー、それでこの猫なんだけど、飼っても__」
「いいわよ?」
食い気味に即答された。迷いなし?!
「いや、でも母さん、たしか猫アレルギーとか言ってなかった?」
そう、母さんはアレルギー持ち。だからたぶん飼えないだろうと思っていたのだ。
「別に母さんは猫アレルギーってわけじゃないのよ。猫、というより、ダニとか、あと毛とかの方が厳しいわね。」
「父さんはどうなの?」
「父さんも別にいいんじゃないかって、さっき話してたのよ。」
父ではなく、母が答えた。
「抜毛さえ、ゆう君が何とかしてくれれば大丈夫よ。最近お父さんの毛はだいぶ少なくなってきたんだけどね?」
お母様、それはカワイソス・・・笑っている場合じゃありませんよ。隣にいる愛するダンナを見てくださいよ?ほら『抜毛』というワードに反応してるじゃないですか・・・
その後、俺はいくつか飼うための条件を出された。
1.できるだけ自分の部屋の中で飼うこと
2.毎日毛掃除を行うこと(家全体)
3.餌代は自分で払うこと(トイレ等大きなものは多少援助する)
最後の餌代ってのが結構厳しいが、そこはお小遣いの増額も検討してくれるらしい。『成績次第かな?』と新しい条件が加わりそうだったので、それ以上言わなかった。
「それで、この子の名前は、決めてるの?」
「あ、あぁ、『ルゥ』って名前です。」
「ずいぶんと人間らしい名前をつけたわね。」
まぁ中身人間だからねぇ、とは言えず。
母が『ルゥちゃん!』と声をかけると、ルゥは段ボール箱からぴょんと飛び出した。ルゥは、尻尾をピンと真っ直ぐ立てたまま、母、父の順番で、足にすり寄っていた。とりあえず、無事ルゥを飼えそうなのは良かった。
ルゥがテーブルやイスの下をぴょんぴょん跳ね回っていた。やっぱり、思いっきり遊べる広い方が好きなのかな?時々、外に連れ出してやろう。
ルゥがリビング内を更にウロウロしそうだったので、ひっ捕まえて、段ボール箱に戻した。一旦、ルゥを自室に戻そうと箱を持ち上げたところで、声をかけたのは母だった。
「さっそく毛が落ちたから、朝ごはん食べたら、お掃除よろしくね!」
見ると、さっきルゥがリビングを走り回った場所に、毛が散らばっていた。テヘペロする猫、『掃除当番がゆうとになった!』と喜ぶ母、母の言葉で、家の手伝いをすることが事実上決まったことに気がついた俺・・・。は、ハメられた・・・まぁいい。とりあえず朝飯食ってから、色々考えよう。もう一度段ボール箱を床に下ろし、ルゥが外に出ないように、フタを閉めた。
父さん・・・お父さん・・・
ルゥの毛を名残りおしそうに、拾って眺めないでください。
◇◇◇◇◇
ふぇ~ぁ、ひゅ~ぉ
「おい、なんつー声で泣いてんだ?というか、泣いているでいいんだよな?」
部屋に戻ると、ルゥは人とは思えない声で泣き出した。まぁ実際、人の姿ではないんだが。
「泣いてるだけじゃ分からんだろう。」
飼うことが決まり、ルゥ的には問題無いはずだ。俺的には色々と問題があるが。そうだ、どちらかといえば泣きたいのは俺の方だ。・・泣くぞ、一緒に泣いちゃうぞ?
「・・・撫でられた・・・」
はい?今なんて?
「ゆうとのお義父様!!私を撫でたじゃない!!」
は、はぁ・・・
「あのイヤらしい手つきで私の背中を撫でたのよ?ウトハラよ!ウトハラ!」
「・・・にしては、まんざらでもなさそうな・・・」
「演技に決まってるじゃない!!」
ソレはずいぶんな演技派女優、いや猫優ですね。
『ゆうとにも、まだ撫でられてないのに!』というので、ふぃ~~と泣くルゥの背中を撫でて慰めた。少しは落ち着いたかな、まぁ俺で落ち着いてくれるなら、それはそれで嬉しい、、くはないな。猫だし。
「そういえば、私の毛を拾っていたそうですね・・・お義父様は変態ですか?」
あぁ、それは許してやってほしい・・・
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