第6話「カブリ発見」

「――誰っ、この子⁉︎」


 八依がまん丸な目をして、二次元の世界から飛び出してきたうさ耳の少女を驚きの眼差しで見つめている。


 ここは俺の自部屋。

 つい先ほどから幼なじみの八依が、部屋の掃除をすると言い張り、俺の家を訪れている。

 その間、カブリにはクローゼットの中に隠れておいてくれるよう頼んでいたのだが、八依と俺が始めた口喧嘩を止めようと、俺たち二人の前に飛び出てきてしまった。


 こうして、アニメの世界からやって来たうさぎの少女は、二人目の人間である八依にとうとう見つかってしまったのだ。


 その瞬間、部屋の中が静寂に包まれる。


「うそ……。あんた……幼い女の子をクローゼットの中に閉じ込めてたの……?」


 八依はあらぬことを口にした。


 ……はあ。俺の口から思わずため息が漏れる。

 八依、お前は勘違いをしているぞ。それはもう完全に、完璧に、勘違いだ……。


「ばかっ! 俺がカブリを監禁してたみたいに言うな!」

「いやだってそうでしょ⁉︎ この状況見たら、それしかないじゃない⁉︎」


 いや確かに八依の言う通りだなぁっ!

 これじゃ完全に監禁だ……。誤解されても言い訳できない……。


 誤解を解くには、カブリがこの現実世界にやって来るまでの経緯を説明すべきか……。


「……お前には隠しておきたかったが、いいか? よく聞いてくれ。こんなの信じられないかもしれないが……カブリは異世界からやって来た女の子なんだ!」

「いやホントに信じられないわ! もう通報よ! 通報、通報する!」


 ……どうやら説明の仕方が悪かったみたいです。


 八依は学生服のポケットからスマホを取り出し、今にも110番をかけようとする。

 その素振りから察するに、まるで冗談でやっている気がしない。こいつ、本気で通報する気だ!


「おい、早まるな! ちゃんと説明するから、通報だけはやめてくれ!」


 何とかその言葉が通じたのか、八依はそっとスマホを机の上に置き、はぁとため息をついた。

 落ち着きを取り戻した八依はそこで、カブリの姿をまじまじと見つめる。


「……ってこれ、コスプレ⁉︎ あんた、幼い女の子連れ込んで、バニーガールのコスプレさせてたのっ⁉︎」

「何を言う⁉ これはコスプレじゃない! これはカブリの立派な衣装だ!」

「じゃあやっぱりコスプレじゃない⁉︎」

「違うわ! これはなあ、『コス』ではあるが『プレ』じゃない! 全部、ホンモノの衣装――カブリはアニメの世界から出て来たホンモノのキャラクターだ!」


 熱弁する俺の前で、八依の目が点になっている。


「さっきから現実と虚構を混同する発言ばかり……。まさかあんたがここまでの重症患者だったとは……」

「俺を病気扱いするな! おい信じてくれ! これは嘘じゃない。 今、お前が手に持っている雑誌の表紙を見てくれ。そこに載ってるイラストとこの女の子、そっくりだろ? これがコスプレに思えるか? カブリはホンモノのうさぎの少女だ!」


 すると八依は表紙イラストとカブリの姿を交互に見比べた。


「ほんとだ……確かにそっくり……。この耳も偽物って感じがしない……」


 ようやく八依も理解してくれたのだろうか、そのとき彼女のオーラから俺に対する敵対心のようなものが消えた気がした。


「だろ? わかってくれたか?」

「うん……まあ。あんたに特殊な事情があるのはわかったけど……。でも……」

「でも……?」


「アニメの女の子にこれ以上夢中になるのはやめて」


 八依は真剣な表情を浮かべて言った。


「……何でだよ?」

「現実と虚構を混同するのはダメ! ……簡単な話。ただそれだけ」

「うぐっ」


 俺は何も言い返せなかった。

 これに関しては八依の言う通り。彼女の言っていることは何も間違えてない。それは残酷なほどに正論である。


 けれど俺には……それは……。だってカブリは俺にとって特別な存在だから……。


「それは無理だ……。俺はカブリが好きなんだ……」


 俺がそう言うと、カブリのうさ耳がピクッと反応した。


 カブリ――とあるアニメ作品のヒロイン、うさ耳の少女。

 世界一可愛いこのうさぎの少女が俺はずっと好きだった。

 かつて画面の向こう側にしかいなかった彼女が、こうして今目の前にいる。

 何度も何度も夢見た、架空世界の少女が。


 そこで俺は覚悟を決める。


「――俺は本気でカブリに恋してんだっ!」


 そう言い放った瞬間、カブリの顔がぽっと赤く染まると同時、いい加減にしなさいとばかりに八依が怒りの表情を見せたのだった。

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アニメのキャラにガチ恋したと告白して以来、幼なじみの説教がしつこい。 BIG納言 @lambda2139

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