第51話 非電気爆破訓練はじめ
「ふわぁ」
雲一つない青空、森の匂いが混ざった風
ヘルメットから茶色のショートボブの髪が覗く勇者支援隊副隊長のリンベル少佐は思い切り背伸びをした。
本来副隊長は人事・行政面で隊長を補佐するのが主な仕事だ。
しかし現在隊長不在なため教育現場で指揮官として振舞っている。
今日は爆破指揮官という任務を遂行する。
電気爆破の要領は教育修了しているので、今日は非電気爆破だ。
爆破自体はそれほど難しくはない。
爆破したい物に設置する爆破薬(感度の低い爆薬を成形した物:小銃弾が命中しても爆発することはないくらいに鈍感)に導爆線(感度の高いペンスリットを芯薬とした紐状の物:小銃弾が命中すれば100%爆発する)を巻き付け、それに雷管を接続するのだが、電気雷管を使って発火器で起爆するのが電気爆破であり、非電気雷管を使って導火線で起爆するのが非電気爆破である。
電気爆破はいつでも好きなタイミングで起爆できるので待ち伏せの罠などに向き、非電気爆破は重い器材を必要としないので少人数での潜入任務や集結地で発見した不発弾の速やかな処理などに向いている。
さすがにダンジョンで爆破までさせてもらうわけにはいかない(出来なくはないが嫌がられる)ので、今日は王都近くの爆破訓練場に来ている。
「頑張りますか」
隊長のマリー大佐が任務早期終了のため、今日爆破訓練場に視察に来るという。
着任の挨拶もまだしてはいないが、良い所を見せる絶好の機会ではある。
ビッグマウス君(タクミ)にはマンツーマンで助教を付けているので前回のようなポカはしないと思いたい。
ポカというのは、電気雷管と点火母線の間に補助脚線を使って爆破回路を構成する際、1回ごと使い捨てろと教育しておいたにもかかわらず、タクミが綺麗に残っていた使用済みの補助脚線をそのまま使った事である。
導通試験をして「導通なし」になった時、教官助教は皆冷や汗をかいた。
勇者候補生を残して爆破薬が設置された場所まで戻り、全員分の回路を点検したが、回路構成後は微弱な静電気でも爆轟し兼ねないので、文字通り命懸けだ。
結果タクミの構成した補助脚線の不良が判明し、構成し直したが「まだ使えるのにもったいない」と訳の分からない理由をタクミが捲し立てていた。
補助脚線など安い消耗品だし、たくさん予備を準備しているのにだ。
本当の目的はちょろまかしてこっそり持ち帰りたかったのではないかと疑った。
何に使おうとしたのかまでは分からないが、使い方によっては雷管だけでも人は殺せる。
「ふぅ」
いけないいけない
物騒な方向に思考が流れていく。
今日は「余計なことをさせない」方向で見ていた方が良いかもしれない。
変な気を起こして胸ポケットにでも雷管を隠し、それが誤爆でもしたりしたら確実に死ぬ。
「燃焼試験はじめ」
爆破係幹部のリンゲン大尉の号令で勇者候補生たちは渦巻き状の導火線を巻き尺に沿わして伸ばして切断する。
この巻き尺というのもメートル法の単位とともに魔族から伝わった便利なモノである。
「1mきっかりで切ってどうする」
早速タクミについた助教がダメ出しをして切り直させる。
燃焼試験というのは、それぞれが持つ導火線の燃える速度を測定(一巻ごとに違う)して、点火してから退避するのに必要な時間分切り出すために必要な工程だ。
あらかじめ教育で教えているのは、ゼンがやっているように1m20cm切り出して、それぞれ内側10㎝の所に穴を開ける。そして片側をマッチで点火しやすいように斜めに処理し、もう片側を雷管口締め器に押し付けてモンロー効果が起こるように凹みをつける。
「点火用意」
ゼンについている助教がそう言うとゼンは斜めに切り落とした導火線の部分にマッチを添わして靴のつま先部分に当て、口にもう1本マッチを咥えると片手にマッチの小箱を持った。
「点火」
ゼンがマッチの箱を押し付け、シュッという音がする。
「点火成功」
魔族から伝わった防水マッチは問題なく機能を発揮して導火線に着火した。
点火位置から10㎝の所に空けた穴からシュッと煙が噴き出し、ゼンがストップウォッチをスタートさせた。
このストップウォッチも魔族から伝わった技術で、魔界には腕時計にストップウォッチが組み込まれている物まであるそうだ。
導火線が燃えて白い部分が黒く染まっていく、導火線の中で火は黒い部分よりも先を走っている。
暫くしてもう1つの穴から煙が出て、最後に凹ませた導火線の端から火が噴き出る。
「46秒」
「よし、それを導火線の本体に書け」
「やってるね」
リンベル少佐が振り向くと、マリー大佐が後ろに手を組んで立っていた。
「お帰りなさい、隊長」
「うん、面倒かけたね」
マリー大佐の表情は晴れやかに見えた。
ダンジョン村の村長さん 田子猫 @tagoneko
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ダンジョン村の村長さんの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます