第38話⁂最終話⁂
2019年6月カラフルな傘の花と紫陽花が雨に濡れて一層鮮やかに映る季節*・。⋆
朝の通りが賑やかになりだした⋆。✶*・☆
「いらっしゃいませ!何にしましょうか?」
「味噌ラーメンにして」
「ハイ!」
今昴は警察官を辞めて、父幸三郎の跡を継ぐべく三郎軒で修行中である。
今現在都内に13店舗ある三郎軒。
父幸三郎と琴美ももう60過ぎ。
両親がまだ元気な内に色々な事を教わらないといけないので…………。
{まだ若い内に修行しておかないと}そう思い退職したのだ。
それとまさかとは思うが、一番有って欲しくない事実に直面して、等々警視庁を25歳で退職した昴なのだ。
それは{あんなに優しい兄の本当の姿が徐々に浮き彫りにされて、このまま警察で捜査を続ければ否が応でも、事実を白日の下に晒さなくてはいけなくなる}
とんでもない殺人鬼に変わりは無いのだが、昴にして見れば唯一無二の大切な愛する兄。
{それでも被害者遺族の無念を考えると、何が何でも全てさらけ出して兄琉生の罪を償わなくてはいけない。例え犯人の兄が、もうこの世に存在していなくても洗い浚いさらけ出して、被害者の御霊を鎮めるのが筋というもの}
そう思う反面昴は……。
{事実を隠して中途半端でこのまま警察を後にする、警察官として一番卑劣で卑怯な真似をしている自分を恥じると同時に、自分がこのまま警察で行方不明事件の追求を続けて全て白日の下に晒されて、今尚、健在な家族を殺人鬼の家族にさせてしまい、世間から抹殺させて良いものか……?
そこまでして警察官である必要が有るのか……?}
それとハロウィーンの日に起きた山田君殺害事件。
10月31日のあの日、日頃は閑古鳥の泣くカラオケボックス店デンジャラスだが、あの日はハロウィーンという事も有り、ハロウィーンの衣装を纏った若者でごった返していた為、人物特定に時間が掛かったのだ。
あの日はハロウィーンの衣装姿で現れた3人なのだが、店員さんも常連客の山田君だけは生徒手帳とサインで直ぐに分かった。
だが、この店は代表者1人のサインのみでOKな店なので、あとの2人はハロウィーンの衣装で全く誰が誰だか分からなかったとの事。
只一緒に入店したA君の財布の中の黄色く光るバッジを店員さんは、見逃さなかった。
聞き込み調査で2人の人物像を聞かれた店員さんは、事件直後にその事実を捜査員に打ち明けた事が有ったのだが、そのバッジに心当たりのある人物も現れず、それっきりになっていた。
だが、この事件の担当になった昴は、この資料に書いてある『黄色いバッジを持った少年』と書いてあるのを見てピンと来た。
それは、高校時代に図書館でよく会ったA君が持っていたバッジと、母琴美が持っていた黄色いバッジの事なのだ。
{そう言えば2人は同じバッジを持っていた}
そのバッジは、母が会員になっている統一連合の会員が持っているバッジだということが、分かって来たのだ。
以前問題になった強引な勧誘活動が問題の某国の宗教団体。
高い壺、数珠、印鑑などを『御利益が有るから』と言って無理矢理売り付ける問題の宗教団体で、ひと頃テレビ報道や新聞の紙面を賑わせていた、いわくつきの宗教団体。
それも、もう20年以上前の事だから人々の記憶からは、既に風化されている宗教団体だ。
あれだけ叩かれた宗教団体だが、それでも今尚、統一連合に浸水している隠れ信者も少なからず存在するらしい。
あの当時、統一連合の会員である事だけで散々後ろ指をさされ、差別や虐めを受けた人達は多く、今尚統一連合の会員である事は隠し続けている人が殆どなのだ。
母琴美が何故あんないわくつき宗教団体の会員だったのか……?
きっと琉生や北山の事で悩み疲れ果てて、更には自分自身に現れる幻覚や幻聴に苛まれて、いても立っても居られずに入会したのだろう。
昴自身も{こんな事が人に知れたら大変!}
誰にも話せずにいた秘密。
ましてや子供がそんなバッジを隠し持っていよう等、誰が想像できようか。
たまたま気の弱い虐めの標的にされていたA君は、御守りがてらこっそり財布に忍ばせていた。
{エエエエ—――――ッ!バッジを持っているって事は……!A君が・・まさか?あんなに大人しい子が?}
それでも何故それを昴が知ったのかって……?
それは高校生の時の図書館での事だ。
宇宙の事に興味のあった2人は、学校の図書館の宇宙コーナ-でよく顔を合わせていた。
その時にA君がそのバッジを落とした事が有った。
他の生徒はそんな何の変哲もないバッジなど見向きもしないが、昴はハッと気付いたのだ。
{アッ!A君は統一連合に何か関係しているのだ……そしてその黄色いバッジの持ち主A君が、山田君殺害事件に関与しているかも知れない?}
それでも、もし間違いだったら大変な事。
A君を内密に呼び出し、しつこく延々と詰め寄り聞き出した。
すると、A君も等々隠しと通せないと観念したのか、全てを打ち明け出した。
{あんなに表面上は一見誰にでも優しい山田君だったが、実は山田君には恐ろしい裏の顔が有ったとは?}
それでも、もう山田君も亡くなりA君も自分が犯罪者になりたくないので、大げさに話をでっち上げているのかもしれない。
そこでA君から、あの当時山田君に虐められていた人物を聞き出して、片っ端から当たって行った。
するとやはり山田君の行き過ぎた虐めが炙り出されて来た。
何も悪くない2人を恐ろしい殺人者に変えた山田君は、大変気の毒な最期を迎える事になったが、きっと山田君は殺害されなくては目が覚めない、殺害されて当然な事をして来た人物だと分った昴は、山田君には大変申し訳ないが、こんな酷い目に合った2人を、とても警察に突き出す事など出来ないそう思ったのだ。
こうして昴は、已むに已まれず苦渋の決断を下し、警視庁を25歳で退職した。
2021年9月某日***
昴は、高校時代からのガールフレンド葵ちゃんと1年前に結婚して、毎日ラーメンの修行に明け暮れている。
葵ちゃんには、全て話してあるのだ。
それでも、受け入れてくれた葵ちゃんには感謝しかない。
そして警察官を辞めた理由の一つに、この家族の危機的状況を何とか打破したかった事も有る。
{これからは、家族間での秘密は絶対に無しにして、母琴美の病気の事も家族で協力して乗り越えよう}という事になった。
母琴美の事も全て白日の下に晒された現在、妻の葵も全てを受け入れてくれて皆で母の後押しをしている。
こんな平穏な日々が訪れようとは、想像も付かなかったこの一家だが、その代償は
余りにも大きく、大切な琉生兄ちゃんはもうこの世にはいないが————
それでも、その代わりに翔という双子の兄弟とは大変仲の良い兄弟として、行き来をしている。
また、実の両親とも濃密な親子関係を築いている。
{あああ~!やっとこれで穏やかな日々が送られる!…そういえば琉生兄ちゃんが森に出掛ける時に、必ずポケットに忍ばせていた万華鏡、よくこのぐらいの夕方に切り株に押し込まれて見せられたもんだ……ど~れ久しぶりに万華鏡でも}
「お~い!葵、万華鏡取ってくれ」
「ハ~イちょっと待ってね~!」
久しぶりの万華鏡・・・あの兄との森の中の思い出。
「ガガガガガガアアアアアア――――――――ッ!」
兄琉生が森に連れて行ってくれたのは、弟昴の為だけでは無かった事に気付いた昴なのだ。
長靴を履いて出掛けた理由。
昴を綺麗な花や鳥のさえずる湖の畔の切り株に押し込んで*✰*・
「……万華鏡を見てごらん⋆⋆⋆ほ~ら綺麗だろう」
薄明かりの中、まるで宇宙に散らばる宝石のような万華鏡の美しさに夢中になり、どれだけ経っただろう・**✰
まだ帰って来ぬ兄に気付き、泣きながら………。
ぬかるみの中をヨタヨタおぼつかない足取りで
「ギャアギャア」狂ったように泣きながら………そこで見たんだ!
あの背筋も凍る兄琉生の————
「嗚呼アアアアアアアアアアアア――――!」
終わり
【2019年12月初旬に中国の武漢市で感染者が報告されて、今尚猛威を振るっているコロナ禍ですが、終息する事を願うばかりです】
悪夢の世界! あのね! @tsukc55384
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます