異世界転生したのにチートスキルが貰えなかったことに納得がいかない!!

阿々 亜

異世界転生したのにチートスキルが貰えなかったことに納得がいかない!!

 異世界転生。


 この言葉が世間に浸透して久しい。


 我々が住むこの世界から、多くの者が不慮の事故などを契機に、異世界に送りこまれている。


 ただし、転生者にはある条件があった。


 ある者は引きこもり...

 ある者はニート...

 ある者は学校でいじめられ...

 ある者は職場でいじめられ...

 ある者は受験に失敗し...

 ある者は仕事に失敗し...

 ある者は想い人にふられ...


 そう、異世界に転生できるのは、現世で不遇な一生を過ごし、激しい後悔と無念を抱えたまま死んでいった人々。

 すなわち“負け組”でなくてはならないのだ。


 彼らは、その後悔と無念を繰り返さないよう、常人からかけ離れたチートスキルを与えられ、現世で空いた心のスキマを埋めるために、他者を屠って無双するのである。


 そしてまたここに、後悔と無念を抱えたまま、不遇の死を遂げた若者がいた。


「いったいどういうことだ!?」


 彼は大声でそう言い放った。


「なぜ、俺にはチートスキルが与えられないんだ!?」


 そこは世界と世界の間、何もない闇の空間。そこに、2つの存在が対峙していた。


 一つは彼。

 20代後半の若い男。

 先ほど交通事故で死亡し、気が付くとここにいたのだ。


 もう一つは、美しく、神々しい女性。

 ギリシャ神話の女神のような出で立ちだ。


「あなたには、その資格がないからです」


 彼の質問にその女神はそう答えた。


「資格だと? 俺は転生者に選ばれた! だからここにいるんだろう!」


「いえ、あなたはその転生者にふさわしくありません。ですが、あなたのその満たされぬ思いが、あなたをここへ導いたのでしょう」


 彼の問いに女神は淡々と答える。


「ふさわしくないだと? 俺は受験に失敗した! 就活にも失敗した! ようやくもぐりこんだ会社は弱小企業だ! 当然、給料もさっぱりだ!しかも、職場ではいじめられてた!つい先週その仕事も首になった! 苦労してようやくできた彼女にも、無職になったとたんフラれた! こんな惨めな俺が転生者にふさわしくないだと!?」


 彼は、まくし立てるように自分の身の上を語った。


「あなたは何も見えていないのですね? 自分のことも、世界のことも。自分にとっての世界、世界にとっての自分、そのどちらもあなたは理解できていないのです」


 そう言って女神は闇の彼方を指し示した。


「お行きなさい。あの先に、あなたの望む異世界があります。そこで第2の生を送るうちに、いずれあなたの目も開かれることでしょう」


 そして女神の指し示す先に光が現れる。


「ああ、わかったよ。やってやる! 俺は今度こそ“勝ち組”になってやる!!」


 彼は光に向いて歩き始めた。


 彼の人生は、思い通りに行かないことの連続だった。

 大学受験で、第一志望の東大に落ち、滑り止めの慶応大学に行くことになった。

 就活では有名大企業にことごとく落ち、新進気鋭のベンチャー企業に入ることになった。

 その会社は海外展開もしているITベンチャーで、彼の入社後、会社は急成長し、彼の給与は年収1000万ほどになった。

 彼は他の同僚より英語が苦手だったので、同僚からよく馬鹿にされていた。

 彼は副業で、個人でwebビジネスを始めたのだが、それが大当たりし、月商で数百万ほど儲かった。

 しかし、それが会社にばれ、服務規程違反で解雇となった。

 六本木のクラブでひっかけたグラビアアイドルの彼女には、「いくら儲かってても、個人事業は不安定だから」とフラれてしまったのだった。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、お前、勝ち組じゃねーか。



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異世界転生したのにチートスキルが貰えなかったことに納得がいかない!! 阿々 亜 @self-actualization

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