第3話 異能
「まず何から聞きたい?」
シャワーを終えてみんなでご飯を食べながら話が始まった。
レーションの不味さが分からなくなっているのか、味覚が無くなっていた。
「……あなた達は、何者?」
聞きたい事は山ほどある。
けど、そもそもこの人たちを信じていいのかもよく分からない。
助けてくれたしみんな若いけど、大人がいないのが不気味で怖い。
「オレたちは……オレたちって何だ?」
「何って……軍とか自衛隊に所属してるわけでもねぇし、なんだ?」
「レイナに聞かれてもわかんない」
「……自警団?それが妥当じゃない?現状」
「それだな。オレたちは自警団。みんな元は変異ウイルス感染患者だったメンバーだな」
組織として動いているわけじゃないって事かな?
自警団って言われてもピンとはこないけど。
「今度はこっちからの質問。カナデちゃんはどっから来た?」
「京都。宇治から」
「確か宇治には自衛隊の基地もあったな。それでこっちって事は、向こうもダメか……」
「どこへ行ってもダメだと思うわよ。政府からの情報もなんもないのだし」
「実質国としてはもう機能してないねぇだろうな」
「拠点はココでいいじゃん」
この人たちは、国が機能しているかどうかを天気の話と勘違いしているかのように話してる。
現状で国が死んでるとすれば、もう絶望的な事なのに。
「質問、していい?」
「おう!」
「お兄ちゃんは何になったの?ゾンビにあんな力なんて無いはず」
「……カナデちゃんの兄ちゃんだったか」
私たち家族に起きた事を察してアルバートは黙ってしまった。
今やこの世界では大切な人が死ぬ事は当たり前だとは言え、それでも辛い。
「奏ちゃん。あなたのお兄さんはおそらく、私たちと同じデミアウイルスの変異種に感染していたの。主に血液感染するわ。感染すると脳に異常をきたして錯覚を見だしたり、動くものを攻撃したくなると言った症状が出るわ」
「それとゾンビのウイルスと、何が違うの?」
人を攻撃する。血液感染する。
大枠の症状は同じと言っていい。
「デミアウイルスはあくまでも人の範囲なのよ。出血多量や呼吸困難、餓死なんかでも死ぬわ。ゾンビは生ける屍。ゾンビになる条件は、ウイルスに感染して1度死ぬ事。そうして自我を無くして血と肉を求めて彷徨うの」
お兄ちゃんは、まだ人。
そういう事。
お父さんの肉を喰べて、お母さんを真っ二つにした。
それでもまだ人。
「その、変異種って?」
それでも、ただ凶暴になっただけならあんな力は無いはず。
「デミアウイルスに感染して、その後放射線を一定数浴びると、なぜかああなる。としか言えないわ」
「奏の兄ちゃんのは失敗事例だな。放射線の量が多かったのか、それか少なくてデミアウイルスが凶暴化したか」
失敗事例。
まるで実験結果みたいだ。
「あたし達はデミアウイルスにして隔離されていた時に核ミサイルで被爆した。距離があったからか、あたし達は生きている。そうして異能者になった」
距離はだいぶあった。
でも専門家じゃないし、実際私も防護服を来ていたとは言え浴びている。
私も近いうちに死ぬかもしれない。
さっき死に損なっただけで、大して変わらないかもしれないけど。
「それでも変異したレベルを考えると、オレたちの寿命も長くはないはずだ。その代わりの力はオレたちにはあるけどな」
健人が道路を殴って地割れを起こしていた。
「みんな、健人みたいに、力があるの?」
「いや違う。オレと健人は身体能力向上と再生だが、レイナと花蓮は五感が異常に鋭い」
アルバートはお兄ちゃんに腕を吹き飛ばされても腕が治ってた。
花蓮も、スナイプ能力が凄かったし、1キロ先からゾンビが来てるって言ったのは花蓮だった。
五感を活かした敵索と銃の腕。
異能者って言っても、色々とあるらしい。
「それでいくと、お兄ちゃんもアルバートと健人と同じ力?」
「おそらくな。いや、再生能力だけで言えばオレたち以上だな」
「アルバート、奏の兄は直前で肉を喰ってた。生きてた人間を喰って獲た一時的な力かもしれねぇぞ?」
直前で喰べたお父さんの肉。
そうして振るった暴力的な力。
それでもお兄ちゃんは生きている。
「今日はこの辺にしとこうか。飯食べたらオレとレイナ、健人と花蓮のペアで交代で見張りしながら就寝。カナデちゃんは見張りしなくていいからな」
「……でも」
「いいから。な?みんな」
「ゆっくり休みな。そっから考えりゃいい」
考える事。
多すぎてわからない。
家族の死と向き合う事について考えろという事だろうか?
自分がどうやって死ぬかを考える事だろうか?
「……はい」
残ったレーションを掻き込んで咀嚼した。
やっぱり味はしなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます