フラヌール
時任 花歩
フラヌール
朝起きたら夜だった。何のことはない。昨日の夜寝すぎたせいで日付けは変わったがまだまだ
ここ数ヶ月毎週末こんな風に無気力なままベッドに
まだ外が暗いけれども散歩にでも行こうと思った。ふと、そう思った。いつもは積極的に運動なんてしないし、家の外へも出ないけれど。お皿をシンクへ置いてスマホだけをポケットにいれ、スニーカーを履いた。髪もかわききらないまま。そして、空き巣の様にゆっくりとドアを閉めた。スマホを見ると午前2時だった。家の外では深い藍色の空の端が少しだけ、薄い群青色になっていた。もう朝があんなところまで来ている。逃げなきゃ。そう思った。だからじりじりと登ってくる太陽に背を向けて歩き出した。ひんやりとした霧と心地よい湿気が肌を湿らせる。まだ人もいない。もしかして今この世界では私しか息をしていないのではないか。そう思えるほど静かで生活音もしない。昼とは全く違い、まるで神話にでも出てきそうな、神秘性さえある。いつもは聞こえない自分の呼吸だけが聞こえるが、それさえもこの世界の静けさに吸い込まれていく。しばらく自分の呼吸音が消えていくのを感じて、歩いていた。信号機の前で立ち止まった。人や車が無くても赤になるんだなと思って青に変わるのをぼんやりと待っていた。かなり時間が経って、信号が変わった。歩き出そうと思った途端、上手く足が出なかった。右足を出して、左腕を出す。膝はどこまで曲げていたのだろう。今まで通りのはずなのに上手く歩けなくなった。いや、上手く歩けているのか分からなくなってしまった。今している行動が今までの私の中での「歩く」なのだとしたら、おかしな歩き方をしていたのではないか。あぁ、恥ずかしい恥ずかしい。私はこんな、操り人形みたいに歩いていたのか。本当に何かに操られているみたいだ。なんだか自分がひどく
私は青くて痛い。そんな事は言われなくても分かっている。みんなと同じである事で安心しているのに、心のどこかに私は特別でみんなとは違うんだと信じていたい私もいる。でも、みんな同じなんだ。同じ空気を吸って、同じ地面に立っているのだから。
きっとこの先も何度も思い出すだろう。今日の事を、あの感覚を、忘れる事はないだろう。
フラヌール 時任 花歩 @mayonaka0230
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