第3話 隠し事
猫は知っている。
お腹がすくととてもつらい。怪我をするととても痛い。濡れると寒い。誰もいない場所でどれだけ呼んでも誰も来ない。
だから猫は今、とても大切なところに居るのを知っている。
ここに居ればお腹がへって倒れることはない。怪我もしない。してもすぐに手当てしてくれる。なにより、ちょっと呼べばすぐに来る。
魔女は猫が大切。
猫はそれを知っている。
だから許す。猫は寛大だから、いっぱい許す。
許すと魔女は嬉しいから。だから、許す。
それで、その猫どうするの? 飼うの? それとも使い魔とかにするの?
「いや、使い魔にするつもりはないが」
猫もなかなかお金かかるよ? 金銀財宝、いる?
「いらない」
その猫、ずいぶん弱ってたけど、人間にいじめられてたんじゃない? 人間対策に魔法とか使えるようになっとかない?
「ならない。……都合よく頼ったことは謝るから」
えー? 別に、もっと頼ってくれていいんだよー?
「……」
頭の上が少しうるさい。
でも、猫は怒らない。猫は寛大だから。
うるさいのは怒らない。
でも、魔女が嫌がってるのは、ちょっとイライラする。寛大な猫でも、簡単には許せない。
魔女にはあれが見えていないみたいだ。
あれは、魔女に触れない。
かわいそうなことに、猫にも触れない。猫は寛大だから、撫でさせてあげないこともないけれど、本当にかわいそうなことに、あれには手がないのだ。
あれは変な形をしている。かくかくの箱が組み合わさっていて、人間みたいになろうとして失敗したみたいな、ヘンテコな形。
でもでも、猫は知っている。
あれが猫を助けた。魔女が助けてってお願いしたから。
あれが何なのか、実は猫は知っている。
なぜなら猫は元プレイヤーだから。
この世界はゲームじゃない。
猫も初めはゲームだと思っていた。
やりたい放題この世界に干渉して、飽きて、魔女にちょっかいをかけた。
猫がプレイヤー時代に出会った魔女は、この魔女と違って何でも願った。
金銀財宝、強力な魔法、権力、奴隷なんかも欲しがってたから、あげたっけ。
魔女はどれだけあげてもすぐに飽きちゃった。
いろいろとあげたけど、最後に魔女は、プレイヤーを欲しがった。プレイヤーが手に入れば、プレイヤーの持つこの世界への干渉する力が手に入るって思ったみたい。
魔女は手に入れていた強力な魔法を使ってプレイヤーをこの世界に引きずり込んで、猫に変えた。それが、今の、ここにいる猫。
使い魔にされて、いろいろ命令されたけど、何一つ叶えてあげることはできなかったけどね。だって、猫は猫だもの。
世界の外側からシステムを使って干渉してたから出来てただけで、別に猫、というかプレイヤー自身になにかしらの特殊能力があったわけじゃないし。
でも、そんなこと説明してあげても、あの欲深な魔女にはわからなかったみたい。
散々な目にあって、猫は隙を見つけて逃げてきたけど、結局行き倒れちゃった。
そこを助けてくれたのが、今の、あれとうるさく言い合ってる魔女。
うるさいのは許す。
猫は寛大だから。
でも、猫を助けてくれた魔女を困らせるのは許さない。
だから、猫はあれに教えてやんない。
あのプレイヤーがどれだけこの魔女に助けられているのか。もしも魔女に力を与え過ぎるとどうなるのか。
猫は全部知ってるけど、教えてあげない。
魔女がそっと頭を撫でてくる。
猫は寛大だから許すし、もっと撫でてくれてもいいとさらに許す。
「あんた、これからどうする?」
猫は寛大だから、許すよ。
ずっと魔女が猫と一緒にいるの、許す。
魔女がそっと笑う。
ほら、魔女、猫が許したからまた喜んだ。
魔女と世界の隠し事 洞貝 渉 @horagai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます