第4話

 電話で母親と話をしたという内容だった。「お母さんと、お父さんの文句を言った」と言って彼女は笑った。後は穏やかな時間だった。俺は読みかけの村上春樹の文庫本を読み、彼女はスマホでパズルゲームに興じ、たまに2人とも手を止めて話をした。俺の通うエステのエステテシャン(最近再婚した)の奥さんとの話や、スポーツの話、午前中にプレイしたRPGの報告をした。後は、睫毛に隠れてわかりづらいけど、俺の目が意外と茶色いと言って彼女は笑っていた。そんなふうにして2時間ほどの時間は緩やかに、あっという間に過ぎていった。

「そろそろ出ようか。」

「そうだね。カラーどうしようか悩んでるんだけどどう思う?」

多分自分で決めるんだろうな。と思いながら、全体的に入れたら?と言ってみる。何でもいいと思う。

 レジでお会計をしていると、彼女がやや興奮しながら寄ってきた。

「このお店、子供向けにいくつか絵本も置いてる。猫のやつとか。なつかしー。」

振り返って店を出ながら、

「百一匹死んだ猫でしょ。知ってるよ。」

と言って彼女を見たら、

「混じってるよ!惜しいー。」

と彼女はげらげら笑っていた。外は夕方になってもまだ暑かった。

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例年より遅い梅雨明け 糸内敏太郎 @itouti

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