第3話

 彼女は桃のチーズケーキと季節のフレーバーティー。俺は梨のタルトとアイスコーヒーを注文した。柔らかい紺色の布地のソファは深く沈み込んだ。

 店内は平日ということもあり空いていて、2時間ほどゆっくりしていても問題はなさそうだった。

「今日は実は給料日なんだよ」

彼女の言葉にふーんと返す。もうそんな時期なんだな。ちなみに実家暮らしの俺よりも、家賃補助の関係で彼女の方が額面上の年収は上である。

「あんまり給料日とか意識してないでしょ?そういうの無頓着だもんね。明細細かく見たことある?何が引かれてるとかさ。」

「いやさすがにそれは見たことはあるよ。住民税高えって思うよ。」

「まあ確かにそれはね。仕方ないけどね。」

アラサーにもなってくると、ふわふわ生きてきた俺も流石にお金のシビアさに気づきつつあるのだ。

「年収ってさ、色んなところで話題になるけど実際に手元に残る金額ってそれよりももっと少ないじゃん?高く見せようとかみんなするけど、俺、低くアピールして役に立つこともあると思うんよね。」

「そう?そんなことある?」

「鬱陶しい営業マンに実際の年収よりも相当低く伝えると、奴らは露骨にガッカリして営業トーク辞めていくぜ。」

「それってそんなにメリット?」と笑う彼女を見ながらアイスコーヒーに口をつける。梨のタルトは、正直なところ梨感をあまり感じないが、甘くて美味しい。

「けど確かに営業トーク、鬱陶しい!ってことはあるよね。」

フレーバーティーをぎこちない手つきでカップに注ぎながら彼女が苦い顔をする。

「仕事が忙しい時に限ってマンションの勧誘の電話がかかってきたりするのよ。」

「わかるわ。憎しみさえ覚える。」

どこの職場にも似たストレスはあるよねーと一通り盛り上がった後、「そうだ、電話といえば」と彼女が思い出す。

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