百話:とりあえず今日は寝ます
カタカタとなにかを伝えようとしているスケルトンナイト。
けれど、その言葉は僕にはわからない。
ニトの方へと視線を向けると、目をまんまるに見開いて、スケルトンナイトを見ていた。
もしかして、
『なにを言っているかわかるの?』
「こ、これがわかるように見えますか?!」
うーん、見えない。
でも、だったらどうしよう。
僕達に上手く伝わっていないことがわかったのか、スケルトンナイトは動かしていた腕を下ろし、考えごとをする様に右手で眉間の辺りをトントンと軽く叩く。
そのうしろの森から新たなスケルトンがさんにん近づいてくるのが、魔力感知でみえた。
『ニト、さんにん、来たよ!』
「え、ちょっ、え?」
木の間からぞろぞろと現れたのは、スケルトンナイトよりも軽装なスケルトン。
でも、身に付けているものに白っぽい鉄がところどころに使われているから、最初に来たスケルトンナイトの仲間に見える。
あぐらを組んでいたスケルトンナイトがさんにんに気が付くと、あいさつする様に右腕を挙げる。
さんにんもうなずいたり、手をひらひらとふったりして、あいさつを返している。
予想していた通り、さんにんはスケルトンナイトの仲間みたい。
「三体とも
スケルトンナイト達を刺激しないようになのか、声を絞るニト。
その視線は、よにんを見つつも、空き地の縁に沿って置いた赤い石を確認していた。
あの赤い石は、魔除けにも使えたんだね。
スケルトンナイトがカタカタとさんにんに話しかけると、さんにんの内の槍を持ったひとりが考える様に空いた左手を顎の辺りへと持っていく。
すこししてスケルトンナイトにカタカタとなにかを伝えたと思ったら、今度は僕達に向かってカタカタとしゃべりかけながら、近づいてきた。
僕には仲良くしたいように見えるんだけれど、ニトにはそう見えていないみたいで、
「やるみたいですね」
ニトがその目を鋭くして、焚き火に前髪が触れそうなくらいに姿勢を低くし始める。
焚き火が、周りの灯りが、より強くなっていく。
あ、ケンカになっちゃう。
止めないと。
また一歩近づいたスケルトンソルジャーのその足へと、僕は縁を伸ばそうとした。
立ち上がったスケルトンナイトが突き刺していた剣を引き抜くと、大きく跳び上がって、スケルトンソルジャーの頭に剣の腹を叩き込んだ。
ゴッと重たい音が鳴り、スケルトンソルジャーの体が崩れて山になる。
それをまた剣の腹を使って、ほかのふたりの方に掃く。
宙に舞った骨や鎧が意識を持っているみたいに浮いて、またヒトの形になった。
カタカタカタ。
ズッと剣先を地面に刺したスケルトンナイトが、僕達を背にしてスケルトンソルジャー達へと語りかける。
近づこうとしたひとりだけじゃなく、さんにんがピシッと姿勢を正した。
しばらくカタカタと話したあとにさんにんが一斉にカタッと短く返すと、スケルトンナイトは僕達に向かって右膝を突き、頭のてっぺんを見せ、ピタリと止まった。
「……あの、来るんですか? 来ないんですか?」
ニトの問いにスケルトンナイトはカタと返す。
焚き火の揺れる光の中で、その鎧に刻まれた模様が金に輝く。
腕や脚には鳥の翼の様な模様。
胴の部分には、交差させた剣の上に翅を広げた大きな鎌の様な手を持った虫。
僕の知っている虫さんで言うと、カマキリが描かれていた。
「ブレイル騎士団――サルトラの開拓隊、ですか」
スケルトンナイトは動かない。
その姿をしばらく見たあと、ニトはすこし長く時間をかけて、姿勢をそのままに息を吐いた。
「とりあえず今日はもう遅いんで、一度帰ってもらっていいですか……って、失礼ですけど言葉わかるんですかね」
ニトの言葉を受けて、スケルトンナイトが立ち上がる。
そして僕達に背中を向けて、剣を手に取り、スケルトンソルジャー達の下へと歩いていく。
よにんが森の中に去って行ったあとも、ニトはじっと焚き火越しに木の間に広がる暗闇を見ていた。
魔力感知でみえるところから、スケルトンナイト達が出る。
『みえなくなったよ』
「はふ~。ありがとうございますー」
ニトが地面にぺたんと座る。
その額を汗が伝った。
「言葉、わかるみたいですね」
わずかに笑顔を見せたニトに、ほっとしたのもつかの間。
「寝る前に出来るだけのことをやっておきましょう!」
と言って、ニトは飛び起きる様に立ち上がる。
赤い石をナイフで削りながら、空き地をくまなく歩き回ったあと、僕達はやっと焚き火の前で眠ることが出来た。
光を感じて目を覚ます。
焚き火が、昨日と変わらず燃えていた。
太陽もしっかりと昇って、辺りも明るい。
起き上がろうとして、ニトに抱き枕にされていたことを思い出す。
まだ
あ、そういえば、体が大きかった頃も枕をしたことがあるけれど、あの頃は僕が動いたらみんなが床に転がっちゃうから、目を覚ましても起きれなかったなぁ。
なんて前の世界のことを思い出していると、魔力感知でスケルトンナイト達がみえた。
昨日去って行った方から、こっちへと向かって来るよにん。
その手には、なにも持っていないようにみえた。
空き地にスケルトンナイト達が踏み入る。
ニトが起きていないことを思い出して、起こそうとふり返る。
けれど、すでにニトはパチリと目を開いて、スケルトンナイト達を見ていた。
僕を腕から放して、ニトが起き上がる。
「おはようございます。で、なにが目的なのでしょうか」
そう言って、よにんを見据えるニト。
スケルトンナイトは右手を口元に持っていき、考える素ぶりをしたあと、右手の人差し指を立てて、僕達へと向ける。
ふわりとその指先に黄色い光が灯ると、ニトがわずかに動く。
けれど、スケルトンナイトの手が動かされてその光が軌跡を描き始めると、ニトの動く音が止まった。
「筋肉モリモリでサングラスの男? ふ、ふ~ん、それがどうか……いる!? ど、この森に!!? なにして、え? 日光浴中???」
ぶつぶつとニトが首をすっごく傾げながら、つぶやく。
僕もニトがつぶやいた言葉から、頭の中で想像してみたけれど、本当はなにを伝えたいのかわからない。
もしかして、その男のヒトがこの骸骨の森の一番すごいヒトなのかな?
それとも、スケルトンナイトの昔がそうだったとか?
「わかりました。行くのでちょっと待ってください」
僕は正直よくわかっていない。
でもニトは行く気になっているみたいだから、ニトと一緒に一回りほど小さくなった赤い石を拾ったあと、僕もスケルトンナイト達について行く。
着くまでの間にニトに聞いてみると、「シュガちゃんがいるみたいなんです」と教えてくれた。
シュガちゃんって、ニトの仲間のことだよね。
そのモリモリサングラスの男のヒトは、なんで骸骨の森にいるんだろう?
うーん……。
太陽が昇っても枝葉で薄暗い森の中を歩く。
またクロエスカマリを見つけたり、ぼんやりと光るユリの様な花がたくさん生えているところを抜けたりして、ついに開けたところに出た。
昨日の空き地四つ分くらいの大きな広場。
そこに立つまっくろな鎧が、やけに印象に残る。
「来たか」
すぐ右から男のヒトの太い声がする。
顔をそっちに向けると、モリモリサングラスの男のヒトが椅子に座る様な姿勢で立っていた。
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