七十九話:森の中は不思議なものがいっぱい!


 カンタラを出発してすこしすると、地面に生えた草は、背の低い緑のものから、枯れ色の背の高いものへとだんだんと変わっていく。

 そして、あつまって生えている場所にぶつかったのか、まるで壁のように僕の前に立ちはだかった。


 枯れたススキのような草が、ところどころ倒れつつも、残っているみたい。

 穂も実が落ち、すっかり細くなって、斜めに空を向いている。


 なんだか身軽そう。

 なるべく踏まないようにしないと!


 カサリ、ガサリと枯れたススキのような草の中を進む。

 その根本に伸び始めた緑を見つけた。


 帰ってくる時は、どこまで伸びているかな?

 なんだか、たのしみになってきたね!


 ススキのような草達を抜けると、大きな森が遠くに見えた。

 すこし間を取って、その周りをぐるりと踏みならされた土の道が伸びている。

 街の中の道よりも人通りがすくないからか、道のところどころで緑の草と白や黄色の小さな花が生えていた。


 土の色もすこしだけ黄色っぽいかな……あれ?


 森を囲む様に伸びる道は、こっちから伸びる道と繋がっているみたい。

 どこに道があったのかな? と、道をたどってふり返る。


 僕がさっき立っていたところからは、ススキのような草達に遮られて、カンタラは見えない。

 けれど、すこし左へ行ったところにあった道からは、遮るものはなく、カンタラが遠くにうっすらと見えた。


 ……こういう時は、見なかったことにすればいいんだっけ。


 頭の上にのせていた小さな木箱を、上の御守りが落ちないように、地面に置く。

 地面から伸び始めている緑の葉は、大きいものでも、木箱が一個と半分くらいの高さだった。


 これからがたのしみ!

 よし! 行こう!


 上の御守りごと木箱を咥えて、放り投げる。

 すかさず縁を引っ張ると、木箱が頭の上に綺麗に着地して、その上に御守りが着地する。

 御守りの音なのか、シャランと綺麗な音がした。


 道に沿って歩いて、森へと近づく。

 道の両側には、ポツポツとヒトの頭くらいの大きさの夕焼け石が置いてあった。


 これなら夜も道を照らしてくれるから、安心だね!


 外から覗いた森の中は、木から伸びる枝や蔦で入り組んでいて、どこまでも続いていそうに見えた。

 それに、とっても静か。


 この森がメルンの大森林かな?

 ここを北からぐるっと回ると、ガルドってところがあるんだよね?


 森の前で、立ち止まって考える。


 ガルドには行ってみたいけれど、森の中にも入ってみたい。

 だって、おもしろそうだもん。

 でも、ガルドに行くのに、森のどの辺りから北へ行けばいいかわからない。


 ……まあいいや!

 森の中を進みながら、考えよう!


 森へと入った瞬間、じわりと暑かった平原の空気から、落ち着いたほんのりと暖かい空気へと変わる。

 そして、どこかから、鳥の声がいくつか聞こえた。


 世界樹の森から出た時やカンタラに入った時、出た時もあったけれど、やっぱり不思議。

 でも、なんだか森に入ったって感じがするね!

 よーし、入ろう!


 ずんずんと森へと入って行った。



 お皿みたいになっている葉の上に、お水が溜まっている不思議な草!

 たしか、天秤っていうんだよね!


 あれ? この蔦、タングルウィードとは違う見た目だけれど、とっても絡まってくるね!

 切らないように抜け出すのはすこし大変だけれど、葉っぱが星型で、とっても素敵!


 とってもおいしい空気に、不思議な草花!

 あっちこっち見て回っている間に、すっかり迷っちゃった!

 ふふふ、おかしいね!


 空は、枝葉で作られた緑の天井でほとんど隠されている。

 でも、森の中は十分明るい。


 どこからか、重なって聞こえる不思議な鳥の声。

 辺りを見渡すけれど、鳥もいないし、ほかの動物さんも見当たらない。


 気配と香りはするんだけれどね。


 五つの細く、先がまるい花弁の花が、たくさん生えている場所に出る。

 赤、青、黄色と淡くも様々な色の小さな花から、シャボン玉が一つ、また一つと生まれ、木漏れ日の中でキラキラと輝く。


 コロンと足で転がしちゃった小さなどんぐりが、地面に向かって止まり、ドゥルルルと音を立てて回転し、地面に潜っていった。


 わぁ! おもしろーい!


 紫や赤、オレンジ、黄色の花が、その五つのハート型の花弁をゆっくりと回転させて、飛んでくる。


 それにつられてさらに森の中を進むと、小さな白い花が鞠の様にころりとまるくなって、沢山転がっていた。

 モコモコしていて、なんだかヒトの髪の毛みたい!


 ふと、甘い香りが僕の鼻をくすぐった。


 今度はなにかな?


 つい、香りのする方へと向かっていく。


 香りのする方へ向かっていくろ、そこには一つの深い赤色の薔薇が、周囲の草花と離れて、ぽつんと咲いていた。

 地面から伸びる茎も一つで、咲かせる花も一つの不思議な薔薇。


 薔薇をもっとよく見るために、近づこうとしたその時――


 なにかが薔薇の向こうに生えた木の上から、なにかが下りてくる気配に気付く。

 そしてそれは、目では見えないけれど、僕よりも二回りくらい大きなトカゲさんだと、魔力感知でみえた。

 トカゲさんは、木から下りると、ゆっくり薔薇へと近づいて、


 ガシンッ! ガシンッ! ガシンッ! ガシンッ!


 突然の鋭い音。

 おどろいたのか、鳥が飛び立つ音。


 僕も思わずうしろに下がる。


 見てみれば、薔薇をまんなかに大きさが違う四つの重なったトラバサミが、閉じた状態で現れていた。

 そしてそれは、赤い大きなカメレオンのような生き物を咥えている。


 カメレオンさんはもう死んでしまったのか、ピクリとも動かなくて、ただ体と同じくらい赤い血を、薔薇へと流していた。


 突然でびっくりしたけれど、カメレオンさんは、さっき魔力感知でみえた動物さんだよね?

 カメレオンさんは、僕と同じように薔薇の香りに誘われて来たのかな?

 そして、薔薇に食べられちゃった。


 薔薇はカメレオンさんの血を浴びて、より赤くなっていく。

 なんだか、さっき見つけた時よりも元気になったみたい。

 なら、せめて、


『しっかりと全部食べてあげてね』


 薔薇にそう言って、僕はまた森の中を歩き始めた。

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