四十七話:テオとメラニーとマルタ
「という訳で俺がテオ。この小さいのがメラニーで、こっちがマルタ。あらためてよろしくな」
眠りから覚めると、テオが膝の上にのった僕にメラニーとマルタを紹介してくれた。
テオは黒や茶色のシュッとした服を着ている。
好きな色なのかな? 夜になったら、見つけにくそう。
メラニーは暗い紫の長ーい服に、同じ色のさんかくな帽子。
前のボタンをかけていない長ーい服から、黄色い服とか、茶色い小さな鞄とか、色んな色のじゃらじゃらしたものが覗いている。
今は暑いから開けているみたい。
マルタは細かい模様が入った薄い緑の帯で顔や頭、体全身を覆っている。
なんだか袖の辺りとかひらひらしているし、踊ったらぶわっとしておもしろそう。
元気に手を挙げて、「よろしくね!」と言うメラニーに、『うん!よろしくー』と僕が返事すると、メラニーは両手で口元を隠して、うれしそうに「くふふ」と笑う。
次はマルタにもー。
『よろしくね!』
「よ、よよ、よ、よよよ、よろしくお願い申し上げますぅううう!!」
ズザっとその場で片膝をついたマルタが頭のてっぺんを見せてくる。
あの帯って、よく伸びるんだねーってそれは今はいっか。
その顔は見えないけれど、その姿でなんとなくわかる。
マルタは僕が怖いみたい。
なんで怖いんだろう?
姿形が違うから?
それとも、たくさん毛が生えているから?
なにか知らない内に、マルタを威圧していたとか?
うーん…………よし!
わからないから、聞いてみよう!
『なんで僕が怖いのー?』
ピクッとマルタの背中が動くいたけれど、それっきり固まっちゃった。
ありゃりゃー失敗かも。
「なんでなんだろうな」
「狼が苦手なのかもよ?」
そう言って、テオは片手で僕の背中をなでて、メラニーは両手で僕の顔をわしわしする。
とってもうれしい。
だって、頭をのせただけで膝の上がいっぱいになっちゃうくらい僕が大きかったんだもん。
それに、ときことしんって体があんまり丈夫じゃないから、無理にのるのもなんだか怖いし……。
あっちはあっちでとってもよかったけれど、体がすぽっと膝の上に入って、手に顔が収まるのもなんだかとってもいい感じ。
「なら、
ぐれいうるふ?
『ぐれいうるふ?』
あ、言っちゃった。
「あの森に住んでいたんだろ?
あつまる?
見送り?
あ、あかべえ達のこと?
へー! ぐれいうるふって呼ばれているんだ!
なんだかかっこいい響き!
あれ? でも、みんなとっても優しいよ?
急に襲ってくることなんてないはずだよ?
胸のあたりがきゅうきゅうする。
これってやっぱりエルピだよね?
エルピがなにか言いたい時、胸がきゅうきゅうするのはわかったけれど、きゅうきゅうの感覚はまだ慣れない。
それに……うーん、今回はエルピがなにを言いたいのかわからないや。
ごめんねエルピ!
あ、あかべえ達のことだったね!
『みんなとっても親切だから、大丈夫!』
「そうか。俺達にも親切なら、安心だな」
『うん!』
テオは「ははっ」と笑いながら僕の頭をなでる。
ゴゴッと音がする。
見れば、まだ壁の外は砂嵐みたいで、舞う砂や石が灯りに照らされて見えた。
ん? 灯り?
ひとの拳くらいのオレンジ色のまんまるが宙に四つ浮いていて、それが辺りを照らしている。
「あれは夕焼け石。魔力を込めると強い光を出すんだ」
『へー!』
光る石! すごい!
魔力を込めると光るんだって!
どうなっているんだろう!
「ねえテオ、この砂嵐あとどれくらい続くの?」
僕の背中の毛をいじりながら、膝立ちのメラニーが首を傾げる。
あ! いつの間にか、下に敷き物がある!
茶色に白や緑の模様が綺麗だなー!
僕が寝ている内に敷いたのかな?
「ギガントサンドワームの砂嵐だから、短くて二刻、長くて……六刻かな」
「えぇー!」
テオの言葉にメラニーが小さく仰け反ったあと、がっくりと頭を垂らし、驚きで挙げた手をだらーんと下げた。
刻ってやっぱり時間のことだよね?
それで、二刻や六刻でメラニーがあんな反応をするんだから…………きっと、長いってことだよね!
たいへんだぁ!
「このままじっとしてるのもつまんない……ねぇ、ワカバだっけ?」
なにかいいことを思いついたのか、ニヤニヤしているメラニーが話しかけてくる。
さっきまでがっくりしていたのに、メラニーは表情がコロコロ変わっておもしろいなー。
『うん!』
「あの障壁って、ワカバが展開しているんだよね?」
しょうへき?
壁のこと?
『うん!』
『じゃあねじゃあね! どうやって障壁一枚でここを覆っているのか教えて!』
壁一つでここを覆うやり方?
僕で教えられるかな?
でも……うん! やってみよう!
『あのね! まずは』
「その前にマルタを何とかしてくれ」
……。
忘れてた!
バッとマルタの方を見ると、まだ膝立ちで固まっていた。
体勢が辛いのか、なんだかプルプルしている。
辛いなら、座ればいいのに!
『座って!』
「いえ! このままで大丈夫です!」
『休んで!』
「貴方様の前で無礼があってはなりませんので!」
なんだかこの流れ、あっちの世界でもあった気がする。
こういう時のヒトって、僕の話を聞いているようで、全然聞いてくれないんだよね。
僕のためって言って――あれ? なんだったっけ?
まあいっか。それより、どうしよう。
このままだと、マルタとちゃんと話せないや。
頭の上からため息が聞こえる。
「そのワカバ
テオがそう言うと、マルタビクッと跳ねて、おずおずと敷き物の端まで移動して、座った。
テオってすごい!
マルタを座らせちゃった!
「……これでいいか。よし、ワカバ、メラニーに教えてあげてくれ」
『うん!』
「やった!」
テオの膝の上から降りると、メラニーがうれしそうにジャンプして、杖を持って歩きだした。
すこし離れたところでするのかな?
あ、戻ってきた……靴を忘れていたみたい。
「行こうワカバ!」
『うん!』
敷き物の上から出て、メラニーに付いていく。
テオとマルタからすこし離れて、僕とメラニーのふたりで並んで立つ。
「じゃあ、教えて!」
期待を込めたメラニーの眼差しが僕へと向けられる。
こうして、ひとになにかを教えることは始めてかな?
うん、そうだったはず。たぶん。
だから、僕が狼さん達に教えてもらったように、メラニーにも教えよう!
『まずは、こう、ぐっとしてぽん! してね!』
「え? ちょっと待って、ぐっとしてぽんって何?」
え? ぐっとしてぽん!?
なんだろう?!
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