四十五話:引っかかりと初遭遇


 視界は砂煙ですこし前も見えないから、魔力感知で周りをみる。

 空気中の魔素が嵐でかき混ぜられているのか、なんだかみえにくいけれど、すこし離れた場所に魔法で作られた四角い建物みたいなものがみえた。

 その建物の中は、しっかりと閉じられているみたいでみえない。

 さっきの声は、あそこからなのかな?


 すごい声だったし、なんだか困っていそう。

 行ってみて、聞いてみよう。


 竜巻を左に、砂嵐の中、建物目がけて走る。

 ときどきぐるーんと飛んで来る石を姿勢を低くしたり、ジャンプしたりして避ける。

 そういえば、目に砂も入っていないし、小さな石くらいなら当たっても痛くないけれど、これって魔力の膜のおかげだよね?

 本当にすごいものを教えてもらっちゃった。

 大きなミミズさんには、今度またお礼を言わないとだね!


 建物は、畳のような縦に長い四角い壁がたくさん重なって出来ていた。

 魔法で作られているから、魔力感知でみると魔力の球と同じ様に光ってみえる。

 でも、狼さん達や僕が魔力の球から作る壁と違って、透明じゃなくて、白く曇っているから壁の向こうが見えない。

 狼先生みたいに、壁の色を変えているのかもしれない。

 おもしろそうだし、僕も今度練習してみようかな……ってそれよりも今は、この壁の向こうに行かないと、だね。

 壁の向こうに行かないと、お話も出来ない。

 お話が出来ないと、なにに困っているのかもわからないから、とにかく一度この壁の一部をなくして、この建物の中に入ろう!


 僕は壁の一つに右前足で触れ……ようとしてやめた。


 このまま入っていいのかな?

 この世界に来る前に過ごしていた世界の出来事を思い出して、“ときこ”が教えてくれたことを思い出す。

 たしか、風がびゅうびゅう吹いている時に窓を開けると、たいへんなことになっちゃうんだっけ。

 今、風はびゅうびゅうどころかびゆんびゆん吹き荒れている。

 そんな中で、この建物に穴を開けたら……うん。

 このままだと、たいへんなことになる気がする。


 じゃあ、この建物を覆っちゃえばいいのかな?


 風がびゅーんと入り込むとたいへんなことになるはずだから、入らないように魔力の壁で上から覆っちゃえば大丈夫なはず! たぶん!


 ものはためしと鼻先に魔力をあつめて、ぐっとして……あれ? ぐっとして…………あれれ?

 ぽんって魔力が出ない。

 なにかに引っかかっているみたい。

 なにに引っかかっているんだろう……あ、もしかして魔力の膜?

 ためしに魔力の膜から鼻を出す。

 すると鼻先からぽんっと魔力の球が飛び出し、透明な四角い壁になると、どんどん広がって、僕ごと目の前の建物を覆った。

 これでもう風は大丈夫かな……とと?


 鼻に違和感がして、舌でなめる。

 じゃりじゃりする。

 魔力の膜から鼻を出したことで、風にのった砂が鼻についたみたい。

 ぐっとしてぽんするときは、周りに注意だね。

 それに口の中も覆われていないから、口を開ける時も注意。

 今度から気をつけようっと。


 魔力の膜で鼻を覆いなおしてから、今度こそ建物の壁に右前足で触れる。

 壁に意識を向けると、壁を作っている魔力どうしを結びつけている糸――縁が見えてくる。


 この壁の縁はとっても綺麗で整頓されているみたい。

 交差しているところもたくさんあるけれど、僕の作った壁みたいにごちゃごちゃあっとじゃなくて、しゃんとしていてなにかの模様みたい。

 この壁を作ったひとは、きっとお掃除上手だね。

 こんなに綺麗な壁に穴を開けるのはあんまりやりたくないけれど、やらないと入れないからしかたがない。

 すぐに結びなおすから、ごめんね!


 通れそうなくらいの円を描く様に縁を切ると、壁にぽっかりと穴が開いた。

 穴をするりとくぐって建物の中へ。

 切った縁を結びなおして、壁をなおすこともしっかり忘れない。

 ここまで走ったり、縁を切ったり結んだりしたから、疲れてきちゃった。

 すこし休めるといいんだけれど、どうかなー?


「!!?」


「……落ち、着け」


「……っ」


 建物の中には、人がさんにんいた。

 温かい黄色の髪の女の子と茶色の髪の男の子と明るい黄色の髪の女のヒト。

 茶色髪の男の子は元気がないのか、地面に横になっている。

 そんな男の子の側に座っている女の子ふたり。

 明るい黄色髪の女のヒトは男の子の手当をしていたみたいだけれど、僕を見たからか、男の子に覆いかぶさる様に身をのり出して、僕をじっと見ている。

 温かい黄色髪の女の子は、巻き付きあう様に絡まった木の棒……杖? を両手で持ってなにかをしていたようだけれど、今では僕を見て固まっている。

 まんまると開かれたその目の周りは赤いし、頬っぺには涙の跡もある。

 やっぱりなにか困っているみたい。

 男の子は横顔しか見えないけれど、この場の空気や身に纏った気配からして、みんなとっても緊張している。

 男の子の体調だったり、さんにんのそれぞれ個性的な服装だったり、血の臭いがしたりと、色々気になるところはあるけれど、緊張を解くためにも、とにかくまずはあいさつをしないとね!


『こんにちは! 僕は若葉! 君達は?』


「「「…………」」」


 明るい黄色髪の女のヒトが目をまんまるに見開き、温かい黄色髪の女の子はぱちくりと目をまばたかせて、男の子は小さくピクって動いた気がした。

 けれど返事はないし、気のせいかもしれないけれど、さんにんがもっと緊張しちゃったみたい?


 もしかして、ちゃんと伝わっていなくて、びっくりさせちゃったのかな?

 じゃあ、もう一回あいさつした方がいいのかな?

 うーん、それよりも先に男の子の体調が気になるから……うん!


 男の子を元気にしてからもう一回あいさつしよう!


 そうと決まったら行動あるのみ!

 僕はずずいとさんにんの側へと歩きだした。


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