第2話 梁山泊

 中国人の派遣施設、『梁山泊』に黒いマントと黒いマスクをした殺人鬼がガソリンを建物1階に撒き、ライターで着火、爆燃現象が発生した。女性スタッフはこの際にガソリンをかけられており、全身に大火傷を負っている。また、着火時には「ドーン」という爆発音が周囲に響いたという。


 10時33分 - 神崎町消防局に最初の119番通報、その後の2分間で同じ内容の通報が22件寄せられる


 10時35分 - 最初の救急隊が出動


 10時38分 - 生存者の避難が完了


 10時40分 - 多数の負傷者を確認し、増援を要請


 10時43分 - 後続の部隊により放水開始

 

 10時44分 - 屋外に避難した社員37人のトリアージ開始


 10時55分 - 1階屋内の救助活動開始


 11時10分 - 赤(重症)の判定完了


 11時15分 - 2階の救助活動開始


 11時17分 - 負傷者の病院収容開始


 11時28分 - 黄(中等症)の判定完了

 

 11時30分 - 3階の救助活動開始


 12時23分 - 重症と判定された10人の病院への搬送完了


 12時30分 - 第1次応急体制(消防庁災害対策室)


 13時40分 - 緑(軽傷)の判定完了


 13時45分 - 塔屋(屋上)の扉開放

 

 14時00分 - 1階で発見された2人の遺体の搬出完了


 14時03分 - 全負傷者の病院収容完了


 15時19分 - 燃焼拡大の危険がない鎮圧状態宣言


 16時31分 - 2階で発見された11人の遺体の搬出完了


 17時15分 - 火災原因調査の技術的支援のため、消防庁職員3名、消防研究センター職員2名を現地に派遣


 21時12分 - 3階で発見された20人の遺体の搬出完了


 7月19日

 6時20分 - 火災鎮火、最終的に消防車や救急車、ヘリコプターなど延べ111台、隊員延べ398人を動員


 俺は呆然と立ち尽くしていた。

 なすすべもなかった。

《安藤さん、菊さんってのは占い師だったのかも知れませんよ🕵》

 右京からLINEをもらった。探偵気取りも甚だしい。菊さんは認知症だった。彼女にそんな力があったとは思えない。

 倶利伽羅ならどうだ?アイツは『ババァ死ねよ』と口々に言っていた。

「アンタがやったんじゃねーの?」と、問い詰めたが。

「あれは毒蝮三太夫どくまむしさんだゆうのセリフを真似してたんだよ。ウルトラマンのアラシ隊員とか知らないか?」

 副施設長ってかなり金がもらえるらしい。ベンツに乗っていた。毎日が楽しくって楽しくって仕方ないらしい。羨ましい。

「特撮はあんまり見ないから」

「オマエこそ、ウチの会社に恨み持ってるんじゃないの?」

「持ってませんよ。やりがい感じてますよ。佐々木さん元気ですか?」

 佐々木史朗は好々爺で、俺のことを優しいって言ってくれた。

「亡くなったよ。コロナでな?」


 鈴江誠一すずえせいいちは『梁山泊』について調べていた。ブラック企業で、偽装請負やサービス残業を厭わない会社だった。

 梁山泊は、中国の山東省済寧市梁山県の北緯35度47分11.86秒 東経116度5分33.10秒周辺に存在した沼沢である。この沼を舞台とした伝奇小説『水滸伝』では周囲800里と謳われた大沼沢であった。

 梁山の張澤濼と伝わる。

『水滸伝』での意味が転じ、「優れた人物たちが集まる場所」、「有志の集合場所」の例として使われることもある。

『梁山泊』はこうざき天の川公園の近くにあった。

 社長は宗というでっぷりと太った奴だった。

「うちは至極真っ当な会社ですよ」なんて、取調室で平然な顔で言っていた。

 虫ケラみたく扱われた社員の犯行かもしれない。

 

 鈴江は神崎署の地下にある図書室で『水滸伝』を読んでいた。

 北宋は第四代皇帝仁宗の時代、国の全土に疫病が蔓延し、打てる手を尽くした朝廷は最後の手段として、竜虎山に住む仙人張天師に祈祷を依頼するため、太尉の洪信(こうしん)を使者として派遣する。竜虎山に着いた洪信は様々な霊威に遭うが、童子に化身した張天師と会い、図らずも都へと向かわせることが出来た。翌日、道観内を見学する洪信は「伏魔殿」と額のかかった、厳重に封印された扉を目にする。聞けば、唐の時代に、天界を追放された百八の魔星を代々封印している場所で、絶対に開けてはならないという。しかし、これに興味を持った洪信は道士らの制止も聞かず、権力を振りかざして無理矢理扉を開けさせる。中には「遇洪而開(こうにあいてひらく)」という四文字を記した石碑があり、これを退けると、突如目も眩まんばかりの閃光が走り、三十六の天罡星(てんこうせい)と七十二の地煞星(ちさつせい)が天空へと飛び去った。恐れをなした洪信は、皆にこの事を固く口止めして山を降り、都へ戻った。


 その後、祈祷の霊験があって疫病は収まり、数十年の時が過ぎて、洪大尉を始め、龍虎山での事件を知るものの多くは既に世を去った。天下は八代目の皇帝(徽宗)が治める時代となっていたが、その寵臣に高俅という男がいた。この男は、その天才的な蹴鞠の腕だけで異例の出世を遂げた心の拗けた悪漢で、帝の寵愛を笠に好き勝手に振舞っていた。禁軍の棒術師範である王進は、父がゴロツキ時代の高俅を逮捕した事があり、報復を恐れて都から逃げ出す。途中、華州の豪農の一人息子史進に会い、彼に武芸を教授した。史進はその後、しばらくして少華山の山賊と交流を持つようになるが、これが役人に漏れ、故郷を出奔、諸国遍歴の旅に出た。史進は渭水で情に厚く豪放磊落な下級武官魯達と遭う。魯達は悪い高利貸に騙された旅芸人の親子を救おうとするが、誤って高利貸の肉屋を殺してしまい逃走、五台山に逃げ込んで出家し智深と法号を得る。だが、大の酒好きで天衣無縫の魯智深には寺務めは肌に合わず破門、何かと目をかけてくれる禅師の紹介で都の大寺院大相国寺の菜園番となる。


 魯智深は都で、禁軍槍棒術師範の林冲と意気投合し義兄弟となる。だが林冲は妻が高俅の息子に横恋慕されたために、無実の罪に陥れられて流罪となり、親友にも裏切られるという悲劇に見舞われる。何度も命を狙われた林冲だが、魯智深や流刑先の大富豪柴進らの助けでなんとか生き延び、柴進の紹介で済州にある山賊の根城、水郷・梁山泊へと向かう。梁山泊の首領・王倫は柴進の旧知だが、狭量な男で、林冲の武芸の腕を怖れて入山を渋るものの、周りの取り成しで三日以内に追剥ぎを成功させるという入山試験を課す。三日目に林冲は、任務に失敗して出奔中の武官・楊志と交戦、楊志の腕を見た王倫は林冲への対抗勢力として入山を勧めるが、大赦を機に復職を目指す楊志は拒絶、王倫は渋々林冲の入山を認めざるを得なくなる。一方、都へ向かった楊志は復職に失敗、自暴自棄になっていた所をゴロツキに絡まれこれを殺害、北京大名府での労役という刑罰を与えられるが、そこの御前試合で活躍したことにより留守司梁世傑に気に入られ、図らずも復官を果たす。数ヵ月後、楊志は梁世傑の舅で宰相・蔡京への莫大な誕生祝(実質は賄賂)・生辰綱の運搬の責任者となった。


 続きが気になるがもう19時だ。閉館を告げる『アイネクライネナハトムジーク』が流れている。

 

 神崎町は農業、商業、工業への支援・援助や多面的機能支払交付金事業、就労支援を実施している。


 基幹産業は第一次産業が盛んである。良質な米の産地であることや地下水が醸造に適した水質であるため、江戸時代から300年以上続く日本酒や味噌などの醸造業が盛んな地域である。農繁期には米づくりが盛んで、21世紀農業を見据えた大区画圃場整備による近代的営農経営も進んでいる。この他、野菜や果物、バラに代表される花木栽培も盛んである。


 武田地区には工場や倉庫を計画的に立地させた神崎工業団地が整備されている。古原地区にはゴルフ場が点在する。


 農業(米、野菜、果物など)や花木栽培、醸造業などが有名だ。


 俺はラブホで織江の尻を突いていた。

「アゥッ!アゥッ!」

 彼女は喘いでいた。

 スマホが鳴った。同僚の鈴江からだった。

卓也たくや事件だ》

 新しい犠牲者が出た。俺はナナハンを疾駆させて現場に向かった。

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神崎殺人事件 鷹山トシキ @1982

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