翻弄

ぺんなす

第1話 翻弄の始まり

「百合ちゃん」

「ちょっと!人がいる前ではその呼び方、やめてってば」

「恋人なのにダメなの?」

「恋人だからダメなの!」

「ふふっ怒ってる百合ちゃんも可愛いね」

「ちょっとっ!」

「ごめんってば。百合ちゃ…、百合さん。

ふふっ、でも…よく考えたら、こっちの方がいいかも」

「えっ?」

「だってその方が、でしょ?」


そんな笑顔で、そんな言葉を軽々しく発する彼に、翻弄される。


彼はいつだって私を翻弄する。

思いがけない言葉で私を困らせる。

そして優しいその笑顔で虜にしてくる。





彼に出会ったのは、高校一年生の時。

思えばあの頃から私は彼に翻弄されていたのかもしれない──。



初めて彼を見たときは本当に驚いた。

あんなにも美しい人間がいるのか、と。

まるで絵画、いや彫刻?そういった芸術品のようで、あまりに美しくて、人間離れをしていて、別次元からやって来たみたいな、凡そ同じ人間とは思えなかった。

物語の世界から飛び出してきたかのようなそのビジュアルに、入学式から多くの人の視線を奪った。

かく言うわたしも釘付けにされたうちの一人だった。





入学式。

初めて見かけたあの時から僕の視線は彼女に吸い寄せられたまま。

いつの間にか彼女の事ばかり考えていた。

一目惚れでいつしか頭の中は彼女でいっぱいで心を鷲掴みにされていた。いつしか僕は、彼女に触れてみたくなった。もっと知りたい。もっと近づきたい。

彼女のそばに──。




最初は、釘付けにされただけで関わりたくは無いと思っていたり、ただの一方通行だったり、お互いが何を思っているかなんて全く分からない――。

そんな、少し恥ずかしがり屋な女の子とただの片思いの男の子のお話です。





やってしまった…。完全にやらかした。

もうやらないと決めていたのにまた流されてしまった。

しかも、よりにもよって…。




「じゃあ学級委員は小鳥遊さんに決定ということで」

「先生、僕もやりたいです。学級委員。

二人、でしたよね?」



彼と一緒にやることになるなんて…。

彼の言葉の後の視線痛すぎるし…。

しかも…


「小鳥遊さん。一緒に帰ろ?」


なんて言われて…一緒に帰ることになるし…。

何話したらいいかなんて分からないけどとりあえず…


「あの、えっと…美輪さん。どうして一緒に帰ろうなんて……」

「レイでいいよ、百合ちゃん。

僕はただ、百合ちゃんと仲良くなりたいって思っただけだよ」

「そ、そう」

こういう言葉、なんでサラッと言うかな…。しかもいきなり名前呼びだし…。

私には、絶対無理だ…。



「ねぇ百合ちゃん。百合ちゃんは普段、どんなことして過ごしてるの?」

「え、えーっと…本読んだり、とか…」

「百合ちゃん読書が趣味なんだ。どんな本読むの???」

「えっと…恋愛小説…とか…………」

「僕も好きだよ。恋愛小説。今度、一緒に買いに行こうよ」

何この人。さっきから何もかもが急すぎる。一緒に帰ろうとか買い物行こうとか距離感バグってるでしょ!

もう〜どうしたらいいのよ!この顔面で、あの笑顔で、そんなこと言われたら…

「えぇ。いいわよ。一緒に行きましょう」

って思わず言っちゃったじゃない!!どうしてくれるのよ!!もう…。彼と居ると調子が狂うわ。

その後連絡先まで交換してしまったし…。

私、大丈夫かしら……。

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翻弄 ぺんなす @feka

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