第7話 専門書の読み方に苦戦した

 専門書の輪読をする授業を後期に履修することにした。分厚い本を章ごととかで分担し、それぞれがレジュメを作ってきて話し合うというあれだ。レジュメとは、と調べてみると、文章の要約・概要といった説明がされている。

 文章を要約することは苦手ではない。基本的には箇条書きにまとめていく方が好きだ。要約文を書くこともできるが、結局文章の形で読むとなると理解するコストがかかる気がする。ただし、要約文を書くイメージをしながら箇条書きの順番を入れ替えたり補足事項を書くことはある。

 困るのは、要約の他に「論点」を示すよう指示があったことだ。レジュメの例も示されているので、だいたいどういうことをすればいいのかは理解できた。しかし、議論すべき点を見つけ出すにはどうしたらいいか困ってしまったのだ。


 学部生の頃のゼミでは、先行論文をまとめて発表するということをやったことがある。このときには、先行論文の要約と共に「先行論文でわかっていないこと」を示すように言われた。これについてこういうことがわかった、とまとめてあったら、それ以外を引っ張り出して、こちらについてはまだわかっていない、と書けばいい。むしろ、知りたいことがあって先行論文を調べて、一部はわかったが一部はわからなかった、みたいになることも多く、わかっていないことを示すのは難しくない。

 しかしそれを書籍の一部でやるのは、少し違うんだろうという気がしている。推理小説の途中までを読んで、「犯人はまだわかっていない」と言っても当たり前だし、専門書の場合は、「犯人はこの人だがここまでの情報ではまだはっきり言いきれない」みたいなことになるんだろう。それを書くために、分担しているところ以外を最後まで読んでからレジュメを作るというのも現実的ではないように思う。



 実際に本を読んでみた。自分が担当するのは第3章だ。いきなり担当部分を読もうとしたが、やはり無謀だったので最初から読み始めた。第1章はこの本全体の構造を示す章だった。その中に第3章の位置づけも書いてある。第3章は、第2章で書いていることをさらに具体例を用いて示しているということだ。具体例はまとめ方がなかなか難しい。補足説明として書かれている例の場合は自分は要約では省くことが多いのだが、第3章全体が具体例ばかりのようなので、読み飛ばすわけにはいかないだろう。

 第1章は流し読みをしたが、第2章は論理のつながりを追いながら読んでいく。第3章も同じような流れである、というか、第3章のまとめが第2章ともいえるだろう。

 具体例は、それぞれの例を5W1H的な感じで1行でまとめることにした。図表は1つか2つをのせておく。文中で比較されている数字などを表で確認していたところ、ラッキーなことに、本文で言及されていない特徴的なデータを見つけることができた。おそらく、この章で言いたいことには直接関係がないからスルーされているのだろうが、疑問点としてこれを書いておくことにしよう。


 ガイダンスで分担をして、次の授業では第1章と第2章、その次の授業で第3章と第4章の報告だ。先にやる人たちの報告を見てからだと時間的に厳しくなりそうだったので、完成形まではいかなかったがレジュメの準備は進めていた。

 第2章の発表は次の回の自分の発表に直接影響があるから、むしろ普段より集中して聞いたつもりだ。しかし、自分が思っていたのとなんというかまとめ方がかなり違い、実はあちこちで理解に苦しんでしまった。



 大人になってから意識するようになったのだが、同じ文章を読んでも人は同じように情報を受け取るとは限らない。その文章で使っている単語が難しくて理解ができないという話ではなくて、大して難しい単語のない140字のつぶやきですら、自分に都合が良いように解釈をして読み違える人が一定程度いる。大学入試のマーク式試験で現代文の点数が悪い友達のことをバカにしたことがあったが、100の内容のうち50しか伝わらないのだって、広く世の中を見たら実は普通なのだと思う。

 第2章の担当の人は、まずまとめの分量がかなり少ないように思えた。自分なら外さないと思うところがばっさりカットされている。章の中の節の構造も無視だ。章全体として何が書いてあったかをまとめているようだが、ある一部分に関してだけかなり長く記述してある。発表を聞くと、そこがその人にとっての「論点」と関わる部分だということだ。本文中ではAによりBが起こっていると書いてある、自分としてはAは今の日本の不景気とも深く関係していて、世界中でAが重要視されていることがおかしいと思っている、というような話であった。


 「AによりBが起こっている」という話は確かに書いてあった。自分が読んだ感じでは、それはこの章のうちの多くて3分の1くらいの内容だ。アメリカで出た本の翻訳版なので、「日本ではどうなのだろう」と考えることは確かに意味があることだと思った。しかし、そこまで深い知識がない状態で、日本への影響などを語り合うことは難しいと思った。議論パートは結局、その人が持論を語り、周りの人が質問の形で行き過ぎにやんわりとブレーキをかけ、噛み合わないまままた持論が語られ、といった形で時間が過ぎた。途中で先生が助け舟を出してくれて、レジュメに書いていない部分についての質問が発表者以外に投げかけられた。自分の担当ではないからと本文を読んできていなかった人は急に指名されたりして困っていたが、一応全体的にどのようなことが書いてあったかは確認できた形になった。

 これは、第2章に書いてあることを再確認してから第3章の内容に入るようなレジュメを作った方が良いのだろうか。第3章の位置づけだけ書いておけば、レジュメの内容は具体例の部分のまとめで大丈夫だろうか。

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