第3話 SNSの使い方
学生たちは、いろいろなSNSで連絡を取り合っているらしい。先日のグループワークでは、「この人は学校のチャットしか連絡がつかないから」と少しバカにしたような感じで言われたところである。学校が提供してくれるチャットがあるのだから、学校のやりとりはそこでできれば十分ではないかと思うのだが、今どきの学生は違うらしい。
自分は、SNSが嫌いというわけではない。実は人との交流も嫌いなわけではないし、対面より文字のコミュニケーションの方がむしろ気がラクだ。けれど、いわゆる有名どころのSNSでつながりましょうというお誘いには、スイマセン、やってないんで、と答えている。やっていない、というのは正確ではないが、匿名だったり、リアルの交友関係でつながるつもりがないものだったりで、開示できるアカウントはないのだ。
仮にこれから始めるとして、少し困ることがある。自分の友達と友達が、興味が近かったりでつながってくれるのは何も問題ない。だが、それは、自分の経歴を必要以上に広めることになる気がする。大学名を聞かれるタイミングがあれば答えることはやぶさかではないが、自分から、どこ出身です、というのはなんだか違う気がするのだ。
本当は、大学も、中学・高校も、小学校も、なんなら塾や習い事も、自分はこういう経験をしてきたということを全部オモテに出して、懐かしい人たちとつながりたいと思っている。一方で初めて自分の過去を知った人に、学歴アピールなどと思われるのは困るわけで。
社会人になったばかりの頃、お客との距離感で失敗をしたことがある。ある人とつながった段階では問題ないと思ったのだが、そこから広がった先に、あまりこちらに好意的でない人がいた。自分がその日記を見ていることを知っているはずなのに、ちょっとしたクレームのようなことを書いていて、放置するわけにもいかず対応に困ったのだ。日記を書くのもなんとなく億劫になってしまい、今ではほとんどログインもしていない。
客として出会った人とは、仕事上だけの関係だと割り切って、よほどつきあいが長くて必要が出て来ない限り、個人的な連絡先の交換はしないようにしている。自分が客側の立場の時は、向こうが示してくれた情報は受け取るが、自分からは聞かないようにしている。講演会などに行った時にはSNSをチェックすることもあるが、個人として認識されようとしてつながることはしていなかった。
しかし、最近は、仕事で初めて会った人同士がSNSでつながり、そこから仕事が発展するのも普通だ。こうなるとむしろ、名刺交換のような位置づけになってくるのではないだろうか。
学生の頃は新しい技術やサービスを積極的に使っていたが、最近は自分には関係のない物と思ってスルーすることも増えていた。学生の気分に戻って失敗を恐れず行動してみようか、と思っていた矢先、授業中のチャットでまた失敗をやらかした。
そのときは、ゲスト講師を招いてやりとりをしながらの授業だったのだが、先生がゲストの言いたいことを勘違いしていて、少し議論が噛み合っていないように見えた。そこで、先生の間違いを指摘するようなコメントを送ってしまったのだ。失礼な言い方をしたつもりはないのだが、そのコメントに対して周りから「先生かわいそう」「わちゃわちゃしてて良かったのに」「先生が頑張ってるのはわかってますよ」などの反応がついた。幸いというかなんというか、授業中のコメントは匿名で送れるものなので、自分がそういう「空気が読めない奴だ」と認識されるのは避けることができた。しかし、匿名だからこそ批判のコメントも書かれたのだろう。自分はしっかり傷ついた。
冷静になって考えると、人の間違いを他の人の前で指摘するなんてことは、するべきではなかった。職場でも、部下の指導の上で当たり前に気をつけなければいけない点だ。しかし一方で、「互いに研究者の立場として高め合いましょう」「人格否定はいけませんが、議論でおかしなところは指摘しましょう」などと言われていたので、そのときは自分の行動が正しいと思ってしまったのだ。ゲストがいた点も余計な行動を起こしてしまった理由のひとつだ。この人は自分の指摘を理解してくれるだろう、この人のためでもある、と思った。しかし実際は、先生も、ゲスト講師も、特に明確な反応はせず、切り替えて次の話題に移ってしまったのだった。
終わってから、改めて先生に謝罪のメッセージを送るかを悩んでいる。授業後に気軽に声をかけられるような環境であれば、「先ほどはすみませんでした」のひとことで終わる内容だろうが、いざ改めて連絡をとるとなると、自分がどう考えてどう行動して、どんな点が悪かったからごめんなさい、という内容を文字にしなければならない。しかしそんなことをされても先生はむしろ気分が悪くなるのではないだろうか。自分がその立場だったら返事にも困ると思う。文章は書き終わったが送れないまま、時間が過ぎるとさらに送りにくくなる。
実は他の授業でも、先生のちょっとしたミスを指摘しようかどうしようか迷ったことがあった。初めの頃の授業だったので流してしまったものが大半だが、授業評価のアンケートに記入をするか、こちらも悩んでいる。内容は匿名で集約されるらしいが、書き方からなどからある程度は個人がばれるのではないかという噂だ。自分としては、文句を言いたいのではなく、先生が同じ間違いを繰り返してどこかで恥をかかないように、という親切心なのだが、…余計なお世話なのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます