第2話 手ごたえがないまま前期が終わった
仕事で企画を考えたり資料を作ったりするとき、自分はかなり検索に時間を使う方だ。参考になる事例はないか、使えるデータはないか、もっと良くするヒントになる要素はないか。自分でも、仕事で調べているのか遊びで調べているのかわからなくなることがあるが、これはさすがに関係ないか、と思ったことが他の仕事で役に立つこともあるので、結果オーライだと思っている。
企画を考える課題は楽しかった。仕事と違って、予算やら柔軟な発想のできない上司やらをそれほど気にしなくて良いので気が楽だ。しかし、ことはそう簡単には終わらなかった。
問題は、「ポンチ絵」とは何か、ということだった。言葉をなんとなく耳にしたことはあった。資料を1ページにまとめる、ということも当然やったことはある。しかし、念のため検索をしたところ、検索結果には自分の常識では理解に苦しむ画像が並んだのだ。原色やデフォルトの色そのままの色遣い、太字や斜体や下線など意味合いを感じない装飾、というかそれ以前に文字が詰め込まれていて何も情報が入ってこない、フリー素材のイラストは見た目をちょっとポップにしているだけ、図解されているように見えるのも雰囲気だけで何かを伝えているわけではない。
ポンチ絵にはステークホルダーに必要な情報をすべて盛り込むこと、と書いてあるサイトもあった。いくつかはシンプルな資料も見かけたが、おそらくこれは必要な情報を口頭で説明しているということだろう。どうも業界によっても「ポンチ絵」の意味する範囲は異なるらしい。共通了解のない用語で課題を出さないでほしい。
せめて具体的な、こういうイメージで作成してください、という見本があればいいのに、と思ったが、聞ける先輩や相談できる同級生もいないので諦めた。自力で課題に取り組まなければいけないのは当然だが、こういった中身に関係ない部分で悩むのはできればやりたくない。ルールがないのであれば、こんなごちゃごちゃした資料は作りたくない。スライドは読むものじゃなくて見て伝わるようにするもの、というのは常識ではなかったのか。しかし、まったく「ポンチ絵」を意識しないのも、条件を満たしていないと判断されるのは困る。自分のこだわりをごまかしつつ、なんとかまとめて提出した。
自分は普段、締め切りぎりぎりにならないと提出物を仕上げられないタイプである。仕事が遅い方ではないと思うのだが、時間があると思うとそれだけ作業に時間をかけてしまい、なかなか完成させられない。結果、前日まで作業がずれ込み、夜中までかかることも珍しくない。しかし学校の提出物は、今どきらしく授業システムを使ってオンラインで提出という形である。提出時刻がしっかりと記録される。23:59間際に提出するのは心証が悪い気がして、少し余裕をもって取り組んだ。結果、提出順では早い方から3分の1くらいだった。提出順に採点されるのだとすると、ベストな位置だろう。
一部の授業は最終授業で発表が課せられた。自分にはない視点のものもあり、自分の知らない領域のものもあり、全体として勉強になったと感じる。困ったのは、発表が終わった後でも、「自分の課題の解釈があっていたのか」がはっきりとわからなかったことだ。中には、課題で聞かれていることと明らかにずれている発表もあった。しかしそれに対して特別にコメントされることはなかった。何人かの学生は、自分と同じ解釈をして課題に取り組んだ様子が発表からうかがえ、それを見た時はちょっとほっとした。しかし、それとは違うパターンの発表もそれなりの数あった。どちらが正解だったのかはわからないままだ。
もちろん、数学みたいに正解がひとつであるべき、と言いたいわけではない。数学だって別解はあるし、どの解法が良いかは見方によって変わってくるだろう。しかし、関数の最大値を求めよ、という問題で、最大となるxの値を求めているのか、最大値を求めているのかは、区別されるべきだと思う。答えだけを解答欄に記入するなら、片方はバツだ。全体を記述するとき、仮に結果として両方の値を解答に書いていても、書き方によっては減点がありうるだろう。「最大値というのは、xが変化するときyがとる値の最大のもので、だから、xがいくつのとき最大になるかではなく、そのときにyがいくつになるかを聞かれているんだ」というのは確認する必要がある。
そもそも解釈の余地が複数あるということでいいのだろうか。しかし、課題の意図が伝わらないのであれば、出題者の側に問題があるのではないだろうか。自分の解釈だけが他と違っていたのであれば自分の能力の問題だが、実際は複数が同じ理解をしている。クラスの3分の1が能力が足りていないまま最終回を迎えた、ということであれば、今度は授業内容を検討していただく必要があるのではないか。
おそらく単位は心配ないだろう。過ぎたことは一度忘れることにした。
聞いた話によると、授業によっては夏に対面で集まる合宿のようなものが計画されているらしい。オンラインでの懇親会が開かれている授業もある。たまたま自分のとっている授業では今のところそういった話はないのだが、教授陣と距離を縮める機会と考えると、即不参加を決めるのも考え物だ。
これまでの人生では、職場の補助がでるような飲み会には基本的に参加してきた。金銭的に得するから、というわけでなく、仕事の上のメリットを想定して開催されるものだと思っているからだ。その甲斐もあって、職場での人間関係は良好だ。おそらく、多くの人と平均以上に良好な関係を築いている点では自分はトップクラスだと思っている。
しかし学生間の懇親となると話は別だ。酒が好きで盛り上がることに価値をおく人の飲み会のノリにはもともとついていけない。それに加えて、自分はアウトサイダーだと思われている感もある。参加することでかえって気を遣わせてしまうだろう。
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