言葉を紡ぐ 【短編集】

第1話・・・二度あることは三度ある

暑い、暑すぎる。

うだるような暑さに反応し、体が勝手に目を覚ます。

首筋に触れると、汗がじとりと滲んでおり、目覚めを余計に疎ましく思わせた。


時計に目をやる。…まだ、6時にもなっていないじゃないか。


右手で時計をつかみ、ネジを回す。

時計は、鳴り響くはずの予定まで1時間もの猶予を残したまま、カチッと小さく音を鳴らし、本日の役割を終えた。


開いたままの窓は、昨夜ほどの風通しの良さを発揮してくれない。

私は仕方なく、扇風機のボタンを足の指で押した。


…風がぬるい。

どうにか、この暑さから逃れたい一心で、上体をねじりマットレスから身体を落とす。

フローリングがひんやりとして心地よく、やっと求めていたものを手に入れて、心が落ち着いた。


天井に目をやる。進学を期に、引っ越してきたこのアパートも新築だったはずなのだが、3年前に比べて貫禄が出てきたように思う。ただ、蛍光灯が汚れてきただけかもしれないが。


身体を冷やしてくれていたフローリングに熱が移ってきた気もするが、マットレスに戻るよりまだいい。

ゆっくりと目を閉じてみる。

今日の講義は9時からだから、20分前に家を出て…、それから…

…… …… …… … … 



… … 

……… あぁ!!!



上体を勢いよく起こすために、両手の平をフローリングに叩きつける。

扇風機は、まだ羽を回してくれていた。


やばい!今何時だ?


すでに役割を終えた目覚まし時計は、9時20分を示していた。


なんでこんなにも二度寝をしてしまったんだ。

完全に遅刻だ。遅刻にさえならない。もうこれは欠席だ。


せっかく早起きしていたのに、時計を止めてしまっていた数時間前の自分を恨む。

スマホを見ると、同じゼミのアオイから数件ラインが来ていた。


「おーい、起きてるか―い」

「また、二度寝かーい」


その通りだよ、と思いながら、2限目の開始時間を思い出す。

90分の講義を終えたら、10分の休憩を挟み、また次の講義が始まる。2限目は10時40分からだ。


まだ、1時間以上ある次の時刻を頭に浮かべ、もう一度目を閉じる。

叩きつけられ、じんじんと痛んでいたはずの手の平とともに、瞼がもう一度、まどろみはじめた。




『第1話…二度あることは三度ある』

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