短編:アインムーバー~少年兵が見た戦場~

MrR

僕が見た戦場

 Side リッド


 僕はリッド。

 軍隊に志願した。

 

 家族を養うためもあるけど、国の危機のために自分も何か出来るんじゃないか?

 自分でも国の助けになれるんじゃないかと思ったからだ。


 そんな自分でも家族は泣きながら華々しく送り出してくれた。

 同じ従軍志願者もそうだった。

 

 同い年ぐらいの子も多い。


 近所の子も少なくはない。


 鉄道に沢山の兵士達が乗り込み、ガタンゴトンと音を立てて鉄道は進む。


 上空はのどかなもので綺麗な青空や雲がハッキリと見える。


 気温も心地よく、狭苦しい密集空間の中でも昼寝してしまう人間は沢山出るのは仕方のないことだろう。



 軍隊生活は始まる。


 軍隊生活はどんな物なのかあまり知らなかったがハードだった。


 体を動かして、勉強をして、飯を食べる時間から風呂に入る時間、寝る時間までキチンと管理される。


 それだけではない。


 言葉の遣い方、服の着方、靴の手入れまで教官の目が光るのだ。

 口応えしよう物ならすぐ罰則。


 連帯責任で何度も辛い目に遭った。


 そうして時はあっと言う間に流れた。


 様々な兵科に振り分けられ、そして男達は皆、一階建ての家一軒分ぐらいの大きさのロボット、アインムーバーの候補生を志願した。


 志願して落選し、流れた人間はパワードスーツ。


 そこから更に歩兵、戦車、ヘリなどと流れていく。

 

 だが今は戦時下。


 さらにアインムーバーは生産性にとても優れているらしく、操縦する人間が足りないぐらいだと言われている。


 だから皆、アインムーバーに乗れる事を喜んだ。



 アインムーバーでの訓練。

 母国、オルレアが開発したヘルヴィ。

 緑色で二足歩行のカメのようなカエルのような、ロボットアニメのヤラレ役のようなデザインだ。

 丸みを帯びていて鈍重そうだが対弾性に優れているらしい。


 それに乗って戦闘訓練を行い、そして戦場送りになった。


 初めて見る戦場。

 

 そこは最前線。


 一進一退の攻防を続けるナハト平原は想像を絶する場所だった。


 自分が乗るヘルヴィが棺桶のように山積みにされ、敵国「グラン」が量産しているアインムーバー、ドラム缶に手足をくっつけた様なデザインのドランも大量に横たわっている。


 到着早々に出撃命令を下され、同期達は戸惑いながらも出撃する。


  僕も出撃した。


 一応は偵察任務。

 

 所定のポイントまで行って帰還するだけの仕事。


 だが敵の奇襲に遭い、次々と仲間が断末魔と一緒に散っていく。


 僕は仲間を庇いながらヘルヴィ用のマシンガンや頭部の二門の機関砲を向けてどうにか戦う。


 敵を撃破できているのかどうかすらも分からない。


 敵のアインムーバーだけでなく、戦闘ヘリや戦車まで出てきた。


 機体の左腕が吹き飛び、頭部も損傷。


 泣きながら、叫びながら戦い続けた。


 そして――



 僕は生き残った。

 眼前には僕の愛機のヘルヴィ。

 頭部損傷。

 左腕喪失。

 右腕破損。

 両足も異常をきたしている。


 生き残った仲間は極僅かだった。


 僕はこの戦いである意味死んだ。

 

 現実を思い知ったからだ。

 

 同時に皆を失った悔しさで一杯だった。



 そこからずっと地獄は続いた。


 様々な激戦区をたらい回しにされ、機体を破損させては生き延びる。

 周りは口々にこう言う。

 

 よく死なないなと。

 

 自分でもそう思う。


 同期の人間は何人生き延びているだろうか?


 敵国グランとのこの戦争は何時終わるのだろうか?


 そもそもどうして自分は戦っているのだろうか?


 なにもかもが分からなくなっていく。



 ナハト平原を含めて色んな場所を転戦していった。


 グランもそうだが我が祖国オルレアも無尽蔵にアインムーバーを前線送りにしている。


 整備用のパーツは棺桶と呼ばれる、死体入りになったアインムーバーから剥ぎ取って間に合わせている状態だ。


 そうした中で両軍総数千機以上のアインムーバーが激突した開戦。


 地名から取って「ミラン高原の戦い」が勃発。


 ミラン高原の戦いには自分も参加した。


 とにかく敵が沢山いて、敵や味方のエースが沢山すれ違ったと思う。


 僕はそんな事など構わずに銃を乱射。


 時にはグランの近接武装武器であるハンドアックスで粉砕したりもした。


 戦いは数日間にも渡り、皆狂ったように戦った。



 戦いが終わった時は猛烈な雨が降り注いでいた。


 どこもかしこも死体だらけ。


 敵味方のアインムーバーが大量に倒れ伏している。

 

 それに混じって戦闘ヘリや戦車、パワードスーツ、生身の人間も沢山倒れていた。


 臭いはもう色んな臭いが入り交じって何が何だか分からん。


 嗅覚が麻痺しているかもしれない。


 ただ言える事は自分の周りの光景はこの世の地獄のような光景だ。


 どうにか自軍の陣地に戻るとそこもまた地獄。


 医薬品が足りず、見殺しにせざるおえない兵士達が大量にいた。


 五体満足は幸運。


 両腕か両足を失ってる程度ならマシ。


 胴体の一部分が無い奴は死んでるだろう。



 休戦協定が結ばれ、僕は軍の後方勤務になった。


 田舎町「レミントン」でのんびりと暮らす。


 アインムーバーは戦闘だけでなく、農作業や建築業にもなくてはならないぐらいに浸透していた。


 時偶アインムーバーに乗った野盗が来るが戦場で戦った連中に比べれば弱かった。


 同じ部隊の隊員達や町の人達と一緒に暮らしているとあの激戦の日々が嘘のように感じられる。


 だが確かに自分は戦い抜いたのだ。


 あの地獄の世界で。

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