第25話 おのろけ

「愛してる」

その一声ごとに顔に口付けされる。顔中にキスの嵐が降った後、唇に舌をしのばせてきた。いつもより執拗な口付けに少しへーこらし始めた頃、すなの本気モードが

入る。


こうなると、もう駄目だ。口付けだけで恍惚としてしまう。意識をギリギリでたもち一生懸命に応える。そのまま唇は首筋に流れ体は押し倒されていく。愛を肉体で語る時間が終わると、しばらく眠りについた。


「あいしてる、あいしてる、あいしてる………」

呪文のように繰り返される言葉に目がさめる。

「そんなに繰り返さなくても1回で充分よ。今日は始めから大安売りして」


「だって俺一週間も他の女に捕まってた。その間に何してたか記憶も定かじゃないんだぜ。女を抱いてた感触だけが残る。言葉でも発してないと不安だよ」


不安かぁ。私はすなを抱きこみ呪文を唱え始める。それはすなが繰り返してたもの。

「愛してる、愛してる、愛してる…………」

喉から出てくる言葉は堅い。口付けされて体がビクンと跳ね上がる。とどこに口付けするのよ馬鹿。


「あいしてる、あいしてる、あいしてる………」

あ、今ので言葉が柔らかくなった。すなが顔を持ち上げてひじをつく。

『あいしてる、あいしてる、あいしてる………』

二人の合唱は綺麗なほどそろう。お互いで微笑んで


『あいしてる、あいしてる、あいしてる………』

次にでたのは忍び笑い

「もういいよ。口が疲れたろう。茶汲んでくる」

一糸まとわぬ姿が台所へ行く。その行為にもなれた。


「ねぇ、一週間も操られててなんで正気に返ったの?」

「お前がひっぱ叩いたせーだろ。同時にお前の危険を感じた。簡単に卵飲まされやがって。少しは抵抗しろよ」

「抵抗するには身構えが必要よ。普通の女の子だと思ってたもの。すなこそ何故」


「あいつの好きって感情とあいつの心を遮断分けする能力に騙された。また押しかけてきやがってと思ったら男がついてきて、そいつはなんだよって叫んだとたんに飲まされた。後は記憶がないのさ。情けないことにね」


二人で茶を飲み干す。すなは茶を自分で沸かす。まめな奴だ。私の分担はほとんどない。二人とも一人で生きてきたが生活を無視して生きてきた私に対しすなは生活を重視して生きてきた。そう、すなはどんなときでも生きることに真摯で生きることを迷わなかった。自殺を繰り返し、殺戮に手を染めた私とはかなり違う。


だから…

「ありがとうな。止めてくれて。もう少しで人を傷つける。否、殺すとこだった」

私はただ笑う。さすがに人は殺したことはない。でもねずみや猫や犬ならある。殺した感触は消えない。退魔で敵となる魔を倒すのとは全然違う感触。


ありがとうと迷わず言えるすなが私は好きだ

「きな、もう一眠りするぞ。おいで」

「うん」


手枕をしてくれるとすなの頭の位置が私より上がる。でもあしを探ると私のほうが背が高いのがわかってしまう。クスリと笑う私。すなが不機嫌に

「笑うくらいなら足の高さまで比べるんじゃないよ馬鹿、気になるんだぞ」


私が探らなきゃどうせすなが探る。お互い様である。私達は今度こそ深い眠りについた。


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私の彼は155cm 御等野亜紀 @tamana1971

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