神様、あなたはTS転生モノというものを勘違いしている(2)

私の名前はクヘテ、黒猫の獣人族の女。年齢としは19歳です。


セクシュアル男爵家のお屋敷にて、御三男のトーラス坊ちゃまの専属メイドとして、長くお側に仕えさせて頂いております。


ふへへっ、羨ましかろう?


おっと、失礼しました。


坊ちゃまが10歳にお成りになられた頃、私は御当主様にトーラス坊ちゃまの専属のメイドになるようにと仰せつかりました。


恥ずかしながら、あまりの嬉しさに取り乱してしまい。窓ガラスをブチ破って屋敷を飛び出し、野山を三日三晩ほど駆けまわってしまいました。


セクシュアル男爵領の野山近隣の村々を震え上がらせた『魔獣ジャバウォック』とは、私の事です。


いやしかし、怯えた近隣の村人達に、冒険者ギルドへ私の討伐依頼を出させてしまったのは失敗でした。


討伐依頼の件がメイド長に知られ、危うく狩られるところでした。


ですが、連れ戻しに来られた坊ちゃまに首輪をつけられ。馬車にリードで繋ながれ、強制的に走ってお屋敷まで帰らされたのは、今となっては良い思い出です。


はぁ…あの時の坊ちゃまの容赦のなさ、本当に素敵でした…。


あぁ、そして思い出します。


トーラス坊ちゃまのご尊顔を、初めてお目にかかった日の事をー…





その日、私は棚の奥底に隠された。メイド長の大好物のドラ焼きを見つけ。そのあまりの美味しそうな見た目に、うっかり全部たいらげてしまいました。


やばぁっ‼︎と、思った時にはすでに遅く…。


メイド長にバレ、ギロチンで処されるという。絶体絶命の大ピンチに陥ってしまいましたー…



『おぬし、覚悟はできておるのじゃろうなぁ…えぇ?』


『はわ、はわわわっ』



オーガも斯くやという。鬼気迫るメイド長の怒気に、私はこの時、生き残るという事を諦めてしまっていました。


いや、ホント無理ですアレ。



『ん〜?ねーねー、めーどちょう。どーしたの?』



ですが、奇跡が訪れました。



『ん?おぉ、おぉ、トーラス坊ちゃま』


『ぼ、ぼぼぼ、坊ちゃま⁉︎こ、この方が…ごくり』



私の目の前に〝木馬に乗った幼児様トーラス坊ちゃま〟が現れたのですっ‼︎


もう、ホントやばかった‼︎


この時のトーラス坊ちゃま、マジでやばたにえんっ‼︎


カッコ可愛いすぎでしたわぁっ‼︎



『うむ、なに、この駄メイドがの、妾が3時のおやつにと、大事に大事に取っておった好物のドラ焼きを、意地汚くも食い散らかしてくれおってのぉ…。酷いヤツなのじゃ、坊ちゃまもそう思うじゃろう?』


『えぇーっ!もう、だメイドさん。めっ、だよっ‼︎』


『っ…‼︎は、はいぃ…。申し訳ございません坊ちゃまぁ…。はぁはぁ』


『うむうむ。なので、仕置きに首を刎ねてやろうと思っておっての。今からギロチンで処すところなのじゃ——て…おぬし、何を頬を染めておるのじゃ?』


『き、気のせいですメイド長。じゅるり…』


『えー!そんなことしたら、かわいそーだよぉ』


『む、んんー…じゃがのぉ坊ちゃま』


『かわりに、ボクのきょうのオヤツたべていいからっ!ゆるしてあげて、めーどちょう』


『はうわっ‼︎』



この時の私は、何度キュン死と蘇生を繰り返したか、今でもわかりません。



『むむむっ…ちなみに、今日の坊ちゃまのオヤツは何じゃったかのぅ?』


『とーきびっ‼︎』


『『おぉう…』』


『あまくておいしいよっ‼︎』


『う、うむぅ…。トウキビ、妾のドラ焼きのかわりがトウキビではぁ…妾、ちょっとぉ…』


『メイド長がお仕えする方よりも、お高い甘味を食している件…』


『黙れ、アレらはすべて妾の自腹じゃ』


『だめぇ…?めーどちょう、とーきびきらい?』


『う、うぬぅ…。流石に、召使いが主人のオヤツを貰うわけにはいかぬのじゃ…。残念じゃが、ものすご〜く残念じゃがっ‼︎いやぁ、食えるものなら妾もトウキビ、食べたかったのぉ〜‼︎』


『そっかぁ…』


『逃げましたね、メイド長』


『黙れ、今すぐ叩っ斬るぞ』




最終的に、幼いながらも知恵を絞った。


『この駄メイドさんは実は病気で、頭がすごくすごく残念だから。他の人に迷惑が掛からないよう、自分が責任を持ってちゃんと飼うから許してやってほしい』


という、坊ちゃまの優しいお言葉にメイド長が折れ。私は命を拾うことが出来たのでした。



坊ちゃまには感謝してもしたりません。


一生お仕えして、御恩をお返ししなくてはならないと思っています。本当に…。


あぁ…ですが、坊ちゃま。


申し訳ありません…。



どうやら今日、私は死ぬようですー…





「ト、ト、トーラス坊ちゃまのトーラス坊ちゃまがっ、私の目の前にあらあらあら露わにににぃぃ——うへへ、おふぅー…」(バタっ‼︎)



あぁ、視界が段々ボヤけてきました…。


もう、まともに前が見えません。


ですが、最後に見た。坊ちゃまの可愛らしい坊ちゃまのお姿だけは、しっかりとまぶたの裏に焼き付けて逝きたいと思います…。



「わ、我が人生に…ひとかけらの悔いなしぃっっ‼︎」



私は天に拳を突きあげ。最後にそう叫んでこの世を去りました。

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