第5話

戦闘と全く関係ないスキルにほぼ全てのスキルポイントを使ってしまったパチたろ。

この世界においてスキルは全てと言っていい。マナの驚異的な戦闘能力もほぼスキルのおかげだ。

そう。パチたろは致命的なミスを犯した。本人はその重大さに気がついておらず、自分の顔を何度も撫でている。


「ツルツルすべすべだ。髭がないって素晴らしい。不細工な俺はこれくらいしなきゃな。せめて清潔感を出さなければ人間扱いされないままだ」


マナが流した不細工という洗脳が逆効果になってしまったようだ。パチたろは不細工ではない。超絶イケメンではないが、ワイルド系イケメンと言われる分類だ。

なので髭があってもギリで許されるレベル。コンプレックスに思うのもわかるが、これからの異世界生活にとって大きな失敗である。


「おい。パチクズたろ。街に戻ったらお仕置な。どうしようか。スンドメ地獄……いや、これはある意味ご褒美か。鬼パイズリ……これもダメね。ご褒美にしかならない。あ、尿道に細い棒を挿入。これならいいわね」


「それもマゾならご褒美ですわマナさん。どうして性的なお仕置ばかりなのかしら? もうお尻100叩きでいいじゃないかしら?」


「お尻100叩き!? いいわね。それで行きましょう」


「決まりですわね」


「おう!」


「嫌だー!」


マナとアンリミがお仕置を決めるとパチたろが絶叫した。が、必死の抵抗も虚しく街の広場に連行される。

人々がこれから何が起こるかと楽しみにパチたろ達3人を見守っている。それからパチたろをベンチに押し倒し、うつ伏せにして鎧を脱がし、ズボンを下ろした。パチたろの尻が公衆の面前に晒された。凄まじいけつ毛で真っ黒だ。

そして100叩きが始まった。尻を叩く物凄い音にギャラリーは大興奮だ。


「凄いけつ毛も尻を守るにはあまりに無力だな。クッションにすらならんぞ。ふふいい尻の弾力だ。吸い付くようだし癖になりそう」


マナは感触が気に入ったのかガンガン尻を叩いていく。大興奮だ。ギャラリーも大興奮。

パチたろは悲しいのと恥ずかしいのとで大粒の涙を流しながら唇を噛みながら耐えている。


「パチたろ。わかったか。これがお前がスキル選択でミスった罪の重さなのよ」


「は……はい師匠。申し訳ないです」


「わかればよろしい。口答えしたら本当に全力で100叩きする所だったよ。さあ、ズボンを履いて地球に帰ろうか。大変だったね。ゆっくり休も?」


まさに飴と鞭。マナの手口は巧妙だった。パチたろのズボンを履かせて、鎧を身につけてパチたろの肩を抱きながら広場を後にした。


「なんだよ。もう終わりかよ」


「ええ。泣くほど後悔してるし、もう許したわ。皆こいつの顔と尻を覚えておいて。こいつは将来凄い男になる。何故なら力3倍に幸運2倍のスキル持ち。有名な裁縫師の鑑定眼が言うのだから間違いなし。更に高いレベルに至ると幸運10倍も習得するのよ。この頃にはこいつのスキルが真の力を解放する事でしょうね」


「おお。そいつは凄そうだ。力3倍だけでも普通は1.2倍くらいなので十分に凄いが、幸運10倍まで覚えるとは!」


「そう。こいつは今はクズだが将来凄い男になる。勇者も真っ青な活躍をする男にね」


とマナが大きな声で演説した。すると大きな拍手が見物していた民衆から起こった。

パチたろは恥のおかげで目立ったせいで大きな名声を得たのだった。


「マナ今なんて言ったんだ? 異世界語はさっぱりわからん」


「うんとね、この男はスキルの選択で髭の除去を選んで150ポイントも無駄にしたクズで金も無くて女に飯を食わせてもらっている上に期待にも添えない奴。だから尻100叩きの罰を与えた。モサモサの凄まじいけつ毛の持ち主で、こんな男だけど私の相棒。舐めたら殺す。私だけはこいつの味方って言ったんだ」


「マナさん! こんな俺と一緒にいてくれてありがとう!」


「いいって事よ」


「次のスキルポイントの振り分けが終わってから本気出すからね。それまで俺を見捨てないでくれよ」


「おう。ずっと一緒にいてやんよ!」


パチたろとマナは広場の真ん中で抱き合った。民衆からも大きな祝福の拍手が贈られた。


ここで気になるのが次のスキルポイントの振り分けが終わってから本気出す発言だ。

次のってなんだよ。こええよパチたろ。


「ぐおー!!」


「な、突然ドラゴンがやって来たぞ! 皆冒険者を呼べ!」


パチたろには秘密の特性がある。それは厄災を呼ぶ男。激レアなモンスターを呼び寄せる能力である。

パチたろには止まっている時間はない。常に最高の進化を遂げないと死亡する運命にある。スキルポイントを髭の除去に使ったのは致命的だった。

スキルを適正に割り振っていたのならドラゴンも倒せただろうに。


「ドラゴンか……風の剣で斬れるかしら。ヤバい。この街は今日で終わりかも知れない。スキルの神速の剣を習得して更に切れ味を増して……技も上げるべきね。急所狙いのクリティカルを上げないと」


マナが大急ぎで貯めていたスキルポイントを割り振る。スキルを上げる前にはかすり傷すら付けられなかったドラゴンの皮膚を切り裂いた。


「よし。これなら行ける。パチたろ。あんたは地球に帰りなさい。平和に生きるのよ。あーあ私も今日は一緒に地球に行く予定だったのにな。行きたかったなー憧れの地球に。それも日本」


「諦めるな。ドラゴンを倒して一緒に地球に行こう」


「そうね。かすり傷でも積もれば倒せる! ってそんな訳ないじゃない。パチたろ一緒に死んでくれる?」


「ああ! 死んで元々。ギャンブルで行こうぜ。凄いのが出るかもしれん」


「またパチンコかい! あんたが大当たり出す前にドラゴンに皆殺しにされて終わりよ」


「今回は違うぜ。お前が打つんだよマナ」


「わたしかい。やってみるか」


マナの幸運は250を超えている。かなり期待できる。そんな中、丁度よくギルドの面々が駆けつけて来てドラゴンの相手を引き継いでくれた。


「やった! 2%の大当たりドラゴンキラーだってさ。何この剣重たい! マサムネあんたが使いなさい!」


「マナなんだその巨大な剣は。まあ、このマサムネなら扱えるだろうがな。吠えろ俺の黄金の両腕よ!」


「相変わらず厨二病全開ね。マサムネ。まあ、あんたはガチで強いからいいけどね」


「誰が厨二病か! 吾輩は日本に憧れてるだけである! 伊達政宗は凄いんだ。他の大名の勝てなかった敵に対して200人を倒し、200人を捕虜とした。天下無双な上に頭も切れるし、戦でほとんど負けなかった上に敵も伊達軍を恐れてほとんど攻めても来なかった。戦わずして勝つ。しかもそのおかげで兵が死なず猛将の下に弱卒無し。一騎当千の強者3000人を持っていたのである。天下人の徳川家康の自慢の一騎当千の強者も600人しかいなかった所からその強さは圧倒的でござる」


「相変わらず話が長い。この政宗バカ。ほらこの剣でさっさとドラゴンを倒してこい」


「合点承知! 地球にて1年間修行した力をお見せしよう。いざゆかん!」


マサムネは3メートルはある巨大な剣を持って、地面を蹴って大きく飛んだ。地面が陥没した所から凄まじい脚力だ。

そして上空から炎のブレスを吐いているドラゴンに飛び乗り、ドラゴンキラーで翼を切り落とした。

ドラゴンは空中でバランスを崩して激しく回転しながら地面に激突した。

マサムネはその直前でドラゴンから飛び降りて無傷である。


「やるじゃないマサムネ。地面に落とせばこっちのものトドメよ!」


「いや、そこの剛毛けつ毛男が戦ってるから様子見だ。凄い気迫だ」


「パチたろ無理よ。あんたの仕事はドラゴンキラーを出した事で終わってる。もう十分よ」


「いや、俺は許せない。綺麗な街を燃やしたこいつを!」


「ふふ。凄い気迫じゃない。見守ってみるか」


マナとマサムネが見守る中、パチたろはドラゴンと戦っている。

アンリミはと言うと、ゴブリンではないのでドラゴンには全く興味がなく、怪我人の治療ばかりしていた。彼女の回復魔法は素晴らしく酷い火傷もみるみる綺麗な皮膚になる。

パチたろはドラゴン大きな手による押し潰しも難なく回避して、その手のひらを修験者の剣で突き刺した。

しっぽ攻撃もジャンプして回避して落下の勢いで剣を振りおりししっぽも切りつけた。

他の冒険者との連携も見事でブレスを吐く前には左右に散れと合図して見事に回避させて、パチたろは何故か突進。ドラゴンの顎の下に潜り込み下からアゴを突き刺した。

先読み能力も素晴らしい。傷だらけになるレッドドラゴン。すると白旗を取り出して左右に激しく振り出した。


「もう無理。降参。翼も切られたし、マサムネという男にドラゴンキラーまで持っているし死は明らか。もう許して下さい」


「いいよ。許すよ」


1番近くで戦っていたパチたろはドラゴンを許した。だが、街を燃やされた冒険者達は許さない。


「誰が許すか火あぶりでドラゴンステーキだ!!」


「そうだ! そうだ!」


「いや、そなたら待たれよ。これはドラゴンキラーを出したパチたろ殿の手柄。これは功労者の意見を聞いてドラゴンの命を助けるべきであろう」


「む、マサムネが言うなら仕方ない」


「そうだ。そうだ。そうしよう」


こうしてドラゴンをステーキにして食べるのは取りやめとなった。

ドラゴンはパチたろに深々と頭を下げた。そしてこう言った。


「パチたろ様。私は翼がないのでもう飛べません。これからは貴方の下僕となり手となり足となり働きましょう。私が燃やした街を修復した後となりますが、それまで少々お待ち下さい。私の命はあなたに救われた。なので私の体をどう使うかもパチたろ様の自由。私はベルーナ。以後お見知り置きを。とその前に人間の姿となって顔と姿を覚えて頂かないといけませんね」


ドラゴンは人間の姿となった。残念ながら服は魔力で作り出したのか着ている。胸が凄まじく大きくLカップもある。たわわに揺れている。

髪は短く赤くて肩くらい。顔は整っていて色白。目は大きく赤くてルビーのように輝いている。手足は長く、身長は176センチのパチたろより大きい。

マナの身長は156センチ。小柄な体格から素早い攻撃が得意だ。胸は痩せているのに大きくFカップ。肌の色も白いがピンク寄りである。髪の色は栗のカラのような茶色。

ついでにアンリミの容姿は光輝く金髪に胸は控えめなCカップ。腰はくびれてるが、程よく肉がついている。目は大きいが貴族のような気品と知性がある。激怒した時は鬼のようだが。身長は163センチ。


以上がパチたろの今のパチたろの仲間である。着々とハーレム化が進んでいるかのように思えた。だが、その時である。


「よし! レベルが25も上がったおかげでスーパーけつ毛ともおさらばだぜ!」


「はあ!? あんたまた!?」


「ええ……スキルポイント500も使って全身のムダ毛除去のスキルを覚えてますわ。残りポイントたったの30」


「もう知らない。アンリミ、ベルーナ行くわよ。そのバカはほっといて」


「待てよマナ! 約束したじゃないか。次のスキルの振り分けが終わったら本気出すって!」


「次のってこれか! あーはいはい。詐欺にあった気分だけど仕方ないから今回は許してあげる。ってそんな甘い話があるか! もう許さんぞ。世の中の厳しさを知れ!」



こうして、マナはパチたろに本気で怒ってしまった。スキルポイント500とはそういうものだ。普通の町人や村人の一生分に相当するスキルポイント。許されないのも当然である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る