第3話

パチたろとマナはギルドを出てようやく冒険に出かけた。街には沢山の通行人がいる。人気の観光地なのだ。皆薄着で軽装。まるで常夏の湘南。涼しい風が吹いている。

それなのにパチたろは暑そうだ。無理もない。修験者の鎧と剣は凄まじく重いのだ。これくらいの苦労をしなくては幸運は上がらない。


「あんたね、もっと早く歩けないの? 亀なのかな? それなら私はウサギね」


「ウサギは油断して亀に負けるんだぜ。知ってたか?」


「私は油断したりしない。徹底的に叩き潰す。情け容赦なくね」


「待ってくれよ。俺もう疲れたぜ」


「黙れお前は亀だろ。諦めずにちびちび歩け」


「鬼! 悪魔!」


「私はウサギです。だから性欲も強い。仕方ないな。頑張って歩いたらエッチな事してあげるから頑張りなさい」


「うおー! マジか!」


マナの言葉にパチたろが反応した。猛烈な勢いで歩き出す。ぐんぐん進み、街を出て森に辿り着いた。


「やれば出来るじゃない。はい。エッチなご褒美」


するとマナはパチたろの頬にキスをした。パチたろはどこか不満そうにマナを見ている。


「これだけ頑張ってこれだけかよ」


「ご褒美レベル1だからね。ゴブリン倒せたらもっと凄いのが来るよ。何せレベル2だもの」


「レベルって何だよ。数字が上がれば凄いことになっていくのか?」


「あんたね、レベルも知らないの? 魔王クエストとかやってないの? 日本人なのに?」


「パチンコに無いのは知らん」


「あーはいはい。パチンコ狂いのパチたろ。とりあえず、ゴブリン倒しなさい。話はそれからよ。あんたの場合、命のやり取りだから覚悟しなさい。ゲームと違って強いわよ」


「ゲームはわからん」


「あーもうやりづらい奴ね。あんたって人は!」


森を進んで行くとマナが立ち止まった。手でパチたろ制して木の影から様子を覗う。


「奴らの体臭がすると思ったら3匹ね。これなら手頃ね。私が2匹殺るから残りの1匹はあんたが戦ってみて。これは練習よ。命のやり取りのね」


「お、おう!」


そう言うとマナは音もなくゴブリンの背後に移動し、ゴブリン2匹を一瞬で首を跳ねた。断末魔の悲鳴すら上げる暇もなくゴブリン2匹は絶命した。


「ぐぎゃー! ぐぎぎぎ! よくも仲間を!

不意打ちとは卑怯ぐぎゃ! 」


「さあ、あんたの出番。私は見守ってるから存分に戦いなさい」


「やってやる! やってやるぞ!」


「うわー雑魚っぽいセリフ」


パチたろは重そうに剣を頭上に持ち上げ、その重さをそのままゴブリンに振り下ろした。


「ぐぎゃ!」


「やったか!?」


「また雑魚のセリフ。紙一重でかわされてる。反撃来るよ」


「ぐぁ! 切られた!」


ゴブリンはパチたろの攻撃を避けた後、すぐさま反撃をしてきた。短剣で腹を凪いだ斬撃は鎧を直撃してガキィと大きな金属音を立てて弾かれた。頑丈な鎧を着ていなければ腹から大量の血を流してパチたろは死んでいただろう。


「それくらい避けなさいよ。そもそも攻撃からしてなってないけどね。あんたね、異世界転移して来たんだから。もっとカッコよくいかないかな」


「鎧が重くて避けれないんだよ!」


「あんたね、その鎧が無ければ今の反撃で死んでるよ。気合い入れなさい。死にたくなきゃね。死にものぐるいで戦いなさい。首を狙われたら今度こそ死ぬよ」


「助けてくれよ!」


「助けないよ。これくらいで死ぬようなら見込み無し。今は命の危機を感じ取って火事場のバカ力を出す所よ。行けパチたろ! 命をその手で掴み取れ!」


「く! 死んでたまるかよ!」


パチたろは懸命に重い剣を振り回す。基本もクソもないが速度だけはそれなりだ。

何回も連続で攻撃する事でゴブリンも回避が難しくなってきた。


「スキあり! 今よ! 体勢が崩れた! そのまま思い切り脳天に振り下ろして!」


パチたろは剣を天高く持ち上げ、そのまま重い剣をゴブリンの脳天に振り下ろした。


「なんで止めるの!」


「知らん。勝手に止まった」


剣はゴブリンの額で止まっている。剣がブルブルと震えている。命を奪う事に躊躇したようだ。この甘さは致命的だ。


「ぐぎぎゃ! コイツは意気地無し。首に短剣突き刺してやる!」


「く! バカが!」


マナが風のような速さでゴブリンの背後に立ち、そのまま一瞬で首を跳ねた。ゴブリンの首はニヤけた顔のまま地面に転がった。

ゴブリンの短剣はパチたろの首を少し刺して止まった。

パチたろの首からは赤い血が流れ首を伝って腹に流れた。


「あんた。死んでたわよ。私が助けなければね」


「面目ねえ。お前は命の恩人だ。いや、マナさん。ありがとう」


「やっと名前で呼んだか。まあ、私もあんた呼ばわりしてたけどね。でも、あんたのままで十分ね。この意気地無し。帰るわよ。こんなんじゃまるで意味なし。ゴブリン10匹討伐は夢のまた夢。このヘタレ野郎が」


マナはゴブリンの首を3つ持ち、所持品を漁ってから、怒りながら街に向かって歩き出した。


「待ってくれよ。そんな早く歩かないでくれよ」


「知らない。あんたとのパートナーもここまでよ。無事に帰れたら新しい相棒を神様に探してもらうのね。今度は優しい人がいいわ」


「俺が悪かった。今度は頑張るから。見捨てないでくれ」


「ほう。謝れるんだ。引き止めも出来るんだ。思ったよりはマシね。仕方ないわね。もう少しだけ相棒でいてあげる。いい? これはあんたの運命を決める状態なの。特別なのよ。わかった?」


「はい。わかりました。マナさん!」


「よろしい。では、帰りましょう。先ずはその重い鎧と剣に慣れましょうか。修行してからやり直しですね」


「な、何故いきなり敬語?」


「あんたね、そっちが敬語使ったからでしょうが。やられたらやり返す。それが私よ」


「そうなのか」


パチたろとマナは街に向かっていると、先頭を歩いていたマナがいきなり後ろに飛び退いた。

マナのいた場所に大きなクレーターが出来た。何か巨大な物が高速で地面に打ちつけられた。


「直撃を食らっていたらミンチになってたわね。ヤバい奴に出会ったわ。アークゴーレム。なんでこんな所に。風の剣よ。切り裂け!」


マナが真剣な顔になり、頬を汗が伝う。かなり緊張しているようだ。マナの目にも止まらぬ連続攻撃10連撃は、ゴーレムも表面を傷つけるだけで終わってしまった。


「く! 相性が悪い。あんた逃げなさい。私が回避してる間に。私はいいんだ。奴隷から解放されてゲームもいっぱいしたし、漫画も沢山読めた。あんたは、生きて帰ったらパチンコばっかりやらずにゲームや漫画も読むのよ。映画もアニメも見なさい。勉強になるわよ。じゃあね、パチンコ狂いのパチたろ。楽しく生きろよ!」


「ちょ! 待てよ! 死ぬ気か!」


「見りゃわかるでしょ! さっさと逃げろ!」


マナは必死の形相でゴーレムの巨大な拳を避け続ける。緊張からか大量の汗でシャツが濡れ張りついて下着が透けて見える。


「まだ逃げてないのか。このバカ! 私の体力ももう持たないよ!」


「く! 俺にもっと力があれば。マナは死なせたくない! もっと色々教えてほしいし、厳しい言葉の裏の優しさも知った。このままお別れなんか嫌だ! 神よ。俺に力を!」


パチたろの悲痛な叫びが奇跡を呼んだ。彼の前に青い光の柱が立ち昇り、そして激しく光が弾けた。凄まじい霊力の爆発。

そして、なんとそこには! パチンコ台が現れた。え、おい。マジか。つかえねえ。


「あんたね、奇跡が起きるかと思ったら何よそれ! パチンコ台を召喚してどうすんのよ! 凄い武器とか出す所でしょ! バカなの!? 死ぬの!? やっぱり逃げなさい。あんた主人公じゃなく、クズだったのよ。一瞬でも生きられるかと期待した私がバカだったよ!」


マナが早口で怒りながらまくし立てつつ、神回避を続けている。彼女回避力5だったのに今は火事場バカ力で152まで跳ね上がっている。

今までは回避する必要すらない隠密力を持った剣士だったので必要無かっただけで元々センスは抜群だったようだ。


「ま、待ってろ。マナ! お前は俺が助ける!」


「この場面でパチンコやってる奴のセリフかよ!」


「仕方ないだろ! 何か出たからには意味がある筈だ!」


マナが一撃食らえば即死のゴブリンの攻撃を必死に避け続ける中、間抜けにもパチンコを打っているパチたろ。もう嫌だ。こんなクズ見た事ない。


「やった! リーチ!」


「マジか! それが揃えば物凄い攻撃が来るのね!」


「あ、外れた。物凄い速さで力が抜けていく」


「あーつかえねえなー!」


「お、またリーチ!」


マナはガッカリして倒れそうになったが、再びのリーチで再び持ち直した。直撃しそうだったが、段々持ち直していく。


「あ、また外れた」


「く、このクズ! あんた運がないからパチンコ向いてない。辞めるべき!」


再びパチたろのハズレを聞いて倒れそうになるマナ。はっきり言って戦闘の邪魔にしかなっていないし、もうギャグのようだ。

冗談のようにダメな奴。主人公失格もいい所だ。パチンコと切り離す為に異世界に連れてきたが、これでは全くの無駄。能力までもパチンコとは。

マナの体力も尽きてきて膝が震えてきた。このピンチを救ってこそだが、パチたろはまたリーチを外した。

マナの絶対絶命のピンチ。もう終わりだ。マナが体勢を崩して尻もちをついた。


「く! 足がもう動かない。さよならパチたろ。本当にツイてない。持ってない男」


「マナー!!」


その時、ゴーレムの大きな拳を大きな人影が受け止めた。


「大丈夫か。マナ。神様からの交信があって駆けつけたぞ」


「ギルマス!」


良かった。間に合ったようだ。ギルマスの到着だ。他のギルドメンバーも来ている。強烈な魔法をゴーレムの背後から大量に撃ち込み、そして倒れそうな所をギルマスの大きなハンマーを打ち上げてゴーレムの頭を砕いた。そして、そのまま倒れたゴーレムに核を目掛けて巨大ハンマーを打ち下ろし、核が砕け散りゴーレムは土の固まりに戻った。


「やった! 大当たり!」


ゴーレムに勝利した時、パチたろが叫んだ。パチンコ台が眩い光を放ち、ハンマーが出てきた。戦いは終わったというのに。本当に持ってないやつ。

本来なら、もっと早く大当たりを出してハンマーを出してゴーレムを倒していた筈なのに。


「何を今さら。あーあ呆れちゃう」


「まあまあ、マナさん。とりあえず鑑定してみましょう。おお。これは凄い。攻撃が当たる度に攻撃力が20%ずつアップ。これをギルマスにプレゼントしましょう」


「おお! そいつはいいハンマーだ。どれどれ」


ギルマスのクレインがハンマーを20回ほど振り回してその使い心地に満足して微笑んだ。


「小僧。このハンマーいいものだ。俺にくれんか? 代金は払う。5万ゴールドでどうだ?」


「いいですよ。あんたは命の恩人だ。駆け出しじゃなきゃタダでもいい」


「かっかっか! こんないいものタダで貰っちゃ男が廃るってもんだ。これで俺も伝説級の装備を手に入れた。S級の冒険者になれるかも知れんな」


「そいつはめでたい。マスター今夜は酒場で祝杯だな。新入りの歓迎会も兼ねて」


「おお。そいつはいい! このハンマーは本当に素晴らし……お? 消えていくぞ……俺のお宝ー!」


「おい。消えたぞ。伝説級のハンマー。あーあギルマス泣いてるよ。期待させてから落とすとか最悪な。お前。さ、帰りましょうマスター辛いのはわかります。泣かないで」


こうしてギルマスとそのギルメン達は帰って行った。ギルマスは肩を落としておいおいと泣いてる。本当に可哀想。宝くじを当ててそれを紛失したようなものだ。


「あんた、本当に持ってないね。なんだろう。呆れるのを通り越して可哀想になってきた。仕方ないから私がずっと一緒にいてあげるよ」


「うう……俺なんか。俺なんか死んだ方がいいんだ!」


「こらこら自分を卑下しない。あんたは可能性は見せたよ。頑張った。ご褒美にエッチなサービスレベル1.5してあげるから元気出して」


「うわちょっ! ああ!」


マナは激しく舐めまくった。快楽にパチたろが喘ぎ声をあげる。


「もう我慢できない出る!」


「あんたね、耳舐めでイッたらダメでしょ。ほらおしまい。早漏治さなきゃね。まあ、病気じゃないんだけど。まあ、修行次第でどうにかなるでしょう。弱い刺激からじわじわ行くわよ。全く私の超絶テクに耐えられるようになるにはいつになる事やら」


「よろしくお願いします師匠!」


「はいはい。任されました。まあ、神様からのお願いだしね」


こうして、パチたろはマナと手を繋いで街へ帰った。散々なパチたろだったが、それが逆にマナの母性本能を刺激したようだ。人生わからないものだ。あんなクズにマナのようないい女がつくのだから。

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