気がつくと、僕は病室のベッドにいた。

 記憶が戻ってくるまで大分時間がかかって、思い出した途端に飛び起きた。


「匠は!?」


「うるせえぞ静かにしろよ」


 すぐ隣、仕切りのカーテンの向こうで、ハスキーな声が聞こえてきた。匠は普段は声までも綺麗だけど、叫び過ぎたせいか別人みたいにしわがれた声だ、でも匠だ。

 カーテンをめくると、美貌の瞳がこちらを向いて笑っていた。着ている物が僕と同じ入院着とは思えないくらいに似合っててすごく眩しかった。


 僕の力の解放は、僕が意識を失った瞬間に止まったんだろうと近所の神社の神主さんが教えてくれた。

 あの時予想したあらゆる事象が起きた、それは「僕の傷を治す」もちゃんと発動していて、だから貫かれたはずの胸は同時に回復していたらしい。あとも残さず綺麗に塞がっていた。


「あれ、でも、枝が刺さってたのに……僕、自分で抜けなくて……」


「抜いてくれたんだよ。あのヒトが」


「あのヒト?」


「『素敵、なんて言われたの初めてでとっても嬉しかったわ。』だってさ。やー、オンナゴコロ掴むの超ウマいじゃん!」


 匠は極上のスマイルで言った。


 退院後、“妖怪や魔物を退治する専門職”を称する人が僕を訪ねてきた。秋本が適当にでっちあげた話だと思ってたけど、そういう稼業があるのは本当だったらしい。

 元々同じ所で一緒に仕事をしていたけど、秋本が禁術に手を出して追放になったそうだ。危険人物として監視していたけど逃げられて、ずっと探していたらしい。


「で、話は変わりますが……」


 物腰の柔らかいその人は、おずおずと切り出した。

 学校を卒業したら、ウチで働いてみませんか、と。要はスカウトだった。


 数年後、“魔物狩ハンターり”となった僕がその筋で“死神”と恐れられるようになったり、ルミちゃんと結婚して生まれた二人の娘がチカラに目覚めるのは、また別のお話。




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僕と魔物と親友と 惟風 @ifuw

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