第111話 琴葉と看病①

「奏太くんは片付けとか気にしないでいいので、今はすぐにベットに向かってください」



 駅から歩いて帰った琴葉は、自分の家に帰る事なく直接奏太の家へと行った。そして荷物を適当な所におけば、迷う事なく奏太の看病へと移った。



 帰り道でそう奏太に言っていたからか、琴葉が行動に移しても、奏太は不思議そうな顔をする事なく大人しく二階へと上がって行った。




「琴葉、看病してくれるのはありがたいけど、自分の体も休めろよ?」



 階段に上がっている途中、奏太は急に立ち止まって後ろを向いた。昼前の暖かい光が奏太を照らしているかのように、琴葉にはバックライトが見えた。



(優しすぎますぅぅぅ……)



 熱がある人間とは思えない気遣いに、琴葉の胸はキュンとする。




「じ、自分の限度くらいちゃんと分かります」

「ならいいけどよ」

「そんな事よりも奏太くんは早く上に行くべきです。体調悪い状態で歩いたんですから今すぐにでも!」

「分かってるよ」



 琴葉が急かせば、奏太はスピードを上げて階段を登って行く。琴葉は遅れてついていきながらも、普段奏太が寝ている部屋まで着けば、琴葉の看病心により火を灯した。




「奏太くん、私何か必要そうな物買いに行きます」



 奏太の部屋まで来て、ハッと思い出す。そういえば看病をするための道具などが手元になかった。奏太の家にはある程度ならあるかもしれないが、プリンやゼリーなんかの食べやすい物はないだろう。



 たまに奏太がそういった物を食べてるのを見るが、ここ数日は見ていなかった。




「あ、そう?ならお金渡しとくわ」

「何言ってるんですか。私の時は受け取らなかったんですから、当然私も受け取りませんよ」

「………あの時の自分を、今になって後悔するわ」


 

 奏太は申し訳なさそうな表情をしながら、琴葉の顔を見ていた。

 

 


(今まで私に優しくした分、せいぜい後悔してください!)



 人に散々優しくしたのだから、その分は自分にも返ってくるのだ。奏太には出会ってから今までずっと柔らかな瞳で見てもらったので、今度は琴葉がそれをする番だ。




「じゃあとりあえず買い物に行ってきます。奏太くんは寝やすい格好にでもなって、いち早くベットに潜り込んでてください」

「あー、そうさせてもらうわ」

「良い子です」

「子供扱いすんな」

「いつもの仕返しです」



 そんなやり取りをしながらも、琴葉は奏太の部屋を出る。奏太が珍しく照れたような表情をしてしたので、琴葉的には大満足だった。




「琴葉、気をつけろよ」



 部屋から出れば、奏太が不安そうな顔で琴葉を眺めていた。それは熱があるからそんな顔になってるのか、それとも琴葉の事が心配でそうなっているのか。



 もしくはその両方なのか。しかし、どちらにせよ琴葉の事を見送ってくれる姿勢が嬉しかった。ちゃんと見守られている実感が湧くから。




「行ってきます!」

「おう」



 そう声を跳ねさせた琴葉は、奏太の声を耳に入れながら階段を降りる。




(いってきます……)



 最後にもう一度胸の中で呟いて、買い出しに出掛けるのだった。

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